皇弟が冷淡って本当ですか⁉ どうやらわたしにだけ激甘のようです

流空サキ

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第三章

不手際

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 そうして未令をだしぬき、平安国で赤い絹の衣を着せられ、意気揚々と祥文帝に謁見したのだが―――。

 謁見といっても康夜は同じ室内に入れてもらえない。
 祥文帝は御簾のかかった玉座に座り、康夜は謁見の間の建物の外、庭の地面にひざまづき平身低頭し、祥文帝の顔を見ることも、直接言葉を発することも許されない。

 祥文帝の御なりを知らせる楽が奏でられ、御簾の向こうに誰かが座した気配がした。
 すると玉座近くに控えていた、祥文帝側近と思われる別の男が階の上から

「帝はその者の力を見たいとご所望だ」

 告げるや、青地の服を着た若い女が出てきてその次の瞬間康夜は後ろにふっとんだ。
 何が起こったのか全くわからなかった。
 何かに息もできないほど背中を強打し、呆然としていると上からするすると木の枝がまるで生き物のように伸びてきて康夜の腕を絡め取った。

「え?」

 康夜は場違いな声を発し上を見上げ、自分の寄りかかった庭園の木がくねくねと動いている様に気がついた。
 その木の枝の一本が空気を切り裂く音をたてまっすぐに康夜に向かってくる。

 そのままじっとしていれば間違いなくその枝に刺し貫かれていただろう。
 ぎりぎりで身をかわしたが、枝は腕を大きく抉っていった。強烈な痛みに跪くも、再び枝が襲ってきて後ろに吹っ飛ばされた。

 したたかに背中を打ち付け、無様にあお向けにひっくり返った康夜へ、更に枝が伸びてくる。

―――もう、だめかもしれない……。

 避ける体力は残っていなかった。
 咄嗟によけられるほどの敏捷性も持ち合わせていない。

 その瞬間、自分の中で今までに感じたことのない熱い思いが噴出した。
 その熱は炎のイメージとなり飛び出していき、自分を襲おうとしている枝へと向かっていった。
 
 枝はごうっと音をたて燃えた。
 が燃やし尽くすことはできず細切れとなった枝はそのまま康夜の腕をかすめ鮮血が飛び散る。痛みに腕をおさえてうずくまった。
 なにもかも一瞬の出来事だった。
 自分でも一体何が起きたのかわからなかった。

「もうよい。見苦しい」

 凛とした張りのある声に顔をあげると玉座から立ち上がった祥文帝が康夜を見下ろしていた。

「たいした力もないではないか」

 祥文帝は今のほんの一瞬の勝負で康夜に見切りをつけ、忌々しそうに吐き捨てた。

「奈生金。そなたの申したことと違うではないか。この者は一族の中でも突出した力を持つ時有の孫。その力を受け継いでいると、そう申したではないか」
「この者が時有の孫であることは相違ございません。――康夜。いま一度力をお見せしろ」
 
 康夜の側で謁見に付き添った奈生金が康夜を促す。
 けれど急に力を見せろと言われてもどうすればいいのかわからない。
 あの炎が自分によるものなのかもまだ定かではなかった。

「手近な木を燃やしてみよ」

 そう奈生金に言われ、康夜は庭園に並んだ木の一本に向かい合い、さきほどと同じイメージを形作った。
 すると炎が飛び出し、飛び出した炎は木肌を焼き、すぐにくすぶり消えた。
 康夜としては、驚くべきことだったけれど、それを見ていた祥文帝が
「緑香」と名を呼ぶ。
 苛立ちの混じった声音で、不快だとその声が告げている。
 康夜は自分の成したことが祥文帝のおめがねにかなわなかったのだと悟る。

 緑香と名を呼ばれた女は、先ほどの緑の女で、「御意」と頭を下げたかと思うと脇に控えていた奈生金に枝が絡みついた。

「奈生金。おまえの不手際ぞ」

 祥文帝がそう告げると奈生金に絡みついていた枝の一端が奈生金の左腕をつらぬき、そのままずるずると腕のなかに枝が食い込んだ。

「―――っ…」

 康夜は思わず息をのんだ。
 奈生金の腕から血が滴る。それでも奈生金は抵抗せず痛みに歯を食いしばりながら祥文帝に頭を下げ続けていた。



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