皇弟が冷淡って本当ですか⁉ どうやらわたしにだけ激甘のようです

流空サキ

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第五章

正妃はいない

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 前回同様、北斗七星の紋様が入った衣を着て部屋へ戻ると、焔将は縁側で脇息にもたれて杯を傾けながら月を眺めていた。
 今回も焔将が用意させたという衣はなぜか未令の趣味ど真ん中で、その衣を着た未令を眺めた焔将は、満足そうに笑んだ。

「やはり似合うな。火の血族の下働きの衣など、もっと早く着替えさせればよかった。私の愛妾にはふさわしくない」

 真っすぐに目を見てそう言われると、なぜか頬がかぁっと熱くなった。

「でも血族の衣はとっても動きやすかったよ?」

 内心の動揺を隠しつつ、頬の火照りを悟られたくなくて月を見上げるふりをした。
 焔将はつと立って未令の手を引くと隣に座らせ、自身は再び脇息にもたれると杯を手に取った。

「注いでくれるか?」

 杯を掲げられたが、当然お酒を誰かの杯に注ぐなんてしたことはない。
 
「これをいれたらいいのかな……」
「ああ」

 朱塗りの盆に置かれた小さな鉄製のやかんを手に取ると、そっと杯へ注いだ。
 ふわりとアルコールの匂いがたち、香りだけで酔いそうだ。

 いや、たぶんその先にじっとこちらを見つめる焔将の視線のせいだ……。

 焔将の瞳の奥が、月光に照らされてキラキラしている。
 こうやって冷静に向き合ってみると、焔将は今まで未令が出会ったことのある男性の中で、間違いなくダントツで美男だ。美しいという言葉が最も似合う。

「……どうして助けてくれるの? それに側妃なんて…」

 この顔面偏差値と帝の弟という地位を以てして、もてないわけがない。
 そんなハイスペックな焔将が相手にするには、我ながら自分は見劣りする。
 冷静になってみると、今更ながらなぜ焔将がわざわざ未令を側妃にしたのかわからない。

「どうした、借りてきた猫のように大人しいではないか」

 焔将はくつくつと喉の奥で笑う。
 小悪魔的なその笑い方まできれいだ。

「別にそんなでもないけど……」

 つんとそっぽを向き、見惚れていたことを誤魔化した。
 でも頬の火照りだけはどうしようもなく、手うちわで扇いだ。

「なんか熱いね」
「そんなことはない」
 
 半分からかうようにこちらを見つめる焔将は、未令の内心の動揺を全て見透かしているようだ。

「あの、わたし…」
「なんだ?」
「わたしが側妃ってことは、その、……当然正妃もいるわけだよね?」
「なんだ、気になるのか?」
「べ、別にそんなでもないけど…」

 もし焔将に正妃がいるなら、側妃となった自分のことをどう思うのだろう。いやな気がしないのだろうか。
 別に焔将に正妃がいようが、未令は気になるわけではない…。たぶん…。

 そんな意固地な気持ちを看破した焔将は、「なに、心配するな」と未令の頭にぽんと手を置いた。

「正妃はおらんし、側妃も未令一人で十分だ。なんなら正妃に格上げしてやろうか?」
「い、いいよ。そんなこと……」

 正妃はいないと聞いて、安堵している自分がいる。

 どうしてわたし、安心してるんだろ。
 変なの……。

 焔将はつい数時間ほど前に出会ったばかりの人だ。
 それなのに、未令の中でこれ以上ないくらい大きな存在になりつつあるのは、どうしてなのだろう…。

 

 


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