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第五章

過去との遭遇1

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 泊まっていけと言う焔将を振り切り、未令は卓水の水晶邸へと戻ってきた。
 四日後の祖父と父の救出、それと同時に康夜を日本へ連れ戻るつもりであることを、叔父に報告したかった。

 卓水は不在だったが、水晶邸の者たちは未令を紫壇の扉がある部屋へと案内してくれた。

 今頃康夜は火の屋敷で過ごしているのかと思うと、やはり焔将の側妃として自由を与えられたことの大きさを感じる。

 焔将はなぜ初めて会ったばかりの未令のことを、こんなふうに受け入れてくれるのだろう……。

 どうしてもその疑問が頭から離れない。

「行ってらっしゃいませ」

 水晶邸の女官たちに送り出され、考え事をしながら紫壇の扉をくぐった。
 
 さきほど平安国へ来たとき、日本は土曜日の朝だった。
 今回はどれほど平安国での時間が過ぎたのか定かではないが、おそらく四五時間ほどだったろう。
 とすれば日本は土曜日の夜中。

 そう計算し、マンションの一室へと戻ったが、開口窓から差し込む日の光は燦燦と輝いている。

「あれ……?」

 思った以上に平安国への滞在時間が長く、すでにこちらでは翌日の昼間になっているのだろうか。

 ソファの側に置いてきたカバンからスマホを取り出そうとしたが、なぜかカバンがなくなっている。
 
 カバン、どこ行ったんだろう―――。

 きょろきょろと辺りを見回していると、ローテーブルの上に置かれたデジタル時計が目に入った。

「水曜日の、午後二時……?」

 その日付は、まさに夕方部活帰りに卓水が現れた日だ。

「…時間が戻ってる……。なんで…?」

 水曜日の今頃、未令は学校で授業を受けていた。

「え……?」

 紫檀の扉を振り返った。
 話では平安国と日本との時間差は三倍ほどだと聞いた。
 この紫檀の扉は日本と平安国とをつなぐもので、タイムスリップする装置ではないはずだ。

「どういうこと?」

 時間が戻るなんて聞いていない。
 数日先の自分が過去に戻ってきたことで、今現在、ここにいる自分と、学校で授業を受けている自分と、二人の未令が同時に存在していることになってしまう……。

「なんかやばい気がする」

 あと何時間かすれば、卓水に連れられた未令が、ここへやってくる。
 鉢合わせすればどんなことになるのか…。
 想像もつかないが、卓水に連れられここへやって来る水曜日の未令は、未来の未令を見て驚くに違いない。

 ともかくももう一度平安国へ戻って、入り直すしか方法はないだろう。

 今の叔父に、祖父と父の救出と康夜のことを話しても、叔父には何の話かわからないのだ。
 それに、過去の自分と遭遇することは、避けた方が良いような気もする。

 そう思い、未令は今しがた通ってきたばかりの扉を再びくぐり抜けた―――。









 

 
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