皇弟が冷淡って本当ですか⁉ どうやらわたしにだけ激甘のようです

流空サキ

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第七章

形勢逆転

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 父、有明に手を引かれながら水晶邸へ向けひた走っていた行く手を阻むように、何本もの木々が宮殿の影から現れ、一気に木の壁を作るのを未令は呆然として見上げた。
 
 すぐに取って返そうとするが、後ろにも左右にも木々は立ち現れ、あっという間に囲まれる。
 時有、有明、康夜、未令は背中合わせに木々の囲いの中央で身を寄せた。

 一際立派な枝振りの木が壁よりも高く伸びてくる。
 その木の上には緑香が、観月の宴の鮮やかな青の衣装のまま乗っていた。袋のねずみとなった四人を見下ろし、青い瞳を細めた。

「あらいやだ。ほんとに逃げたのね」
「そのようだな」
 
 声と共に奈生金が木の壁に跳び上がってきた。奈生金も白の光沢のある衣装のままだ。

「焔将さまのおたわむれかと思ったけれど時には有益な情報も下さるのね」
「……焔将が?」

 未令は驚いて緑香の青い瞳を見た。

「そうよ。あの方がご自分の側妃が時有と有明を助けに行った。止めようとしたが聞かずに行ってしまったので知らせておく、ですってよ。仕方なくせっかくの観月の宴を抜け出して見に来てみれば本当に逃げたのね。力もないのに驚きだわ」
 
 未令は言葉もなく緑香を見上げた。
 焔将が、告げ口をしたなんて信じられない…。

「久しいのう、緑香、奈生金」

 二人の強い術者を前に、未令は緊張で身体を固くした。
 それは康夜も有明も同じだったようだ。背中越しに緊張が伝わってくる。
 けれど時有は一人身体を強張らせることもなく、囲まれているのに変わらず呑気に緑香と奈生金を見上げた。

 緑香は、ぼさぼさの髪とあごひげの伸びた時有を見下ろし顔をしかめる。

「ずいぶんと小汚い格好になったわね、時有」
「そりゃ四年もあんなところに入っていたら身だしなみに頓着しなくなるものだよ」
「あら、そういうもの?」

 笑いながら緑香がすっと右手を横に払った。
 とたんに壁を作っていた木々の枝が風を切って伸びてくる。
 未令は反応の遅れた康夜の腕を取り、横に跳ぶ。時有、有明も同時に違う方角へと跳んで避けた。

「話の途中でいきなりだな、おい」

 時有がそういい終わらないうちに再び鞭のようにしなった枝が振り下ろされてくる。
 と同時に奈生金の後ろから次々に白い瞳をした術者が木の壁に現れた。
 白い金の術者たちが揃って鞘から刀を取り出すと、刀の刃が形を失い、溶けた鉄はいくつもの矢じりへと変わる。それらが奈生金の合図とともに一斉に降り注いだ。

 未令は持っていた薙刀を小脇に抱えると、上へとしなる枝につかまり矢じりの雨を避け、その反動を利用して一気に壁の上の奈生金に迫った。
 ここまで肉薄されると思っていなかったのだろう。一瞬、驚いた顔をした奈生金めがけ薙刀を振り下ろす。
 
 が、奈生金が手をかざすと瞬時にその手の中に鉄の棒が生まれ、鈍い金属音をあげ、振りかざした薙刀は受け止められる。
 そのまま奈生金の作り出した鉄の棒は形を変え、幾本もの針となり未令に向かってきた。

 未令は掴んでいた枝から手を離し、別の枝に跳び移り針を避け、動き回る枝の上を駆け跳躍するともう一度奈生金に迫った。

 一定方向に向かっていた針は再び一つの塊となり今度は鉄球へと変わり、襲ってくる。未令は身を翻し、奈生金への攻撃を諦め、鉄球を避けた。

 鉄球はそのまま近くの枝にぶつかり、木の壁にめりこんだ。

「ちょっと気をつけなさいよね」

 それを見ていた緑香が奈生金に文句をつける。
 奈生金はちっと舌打ちした。

「別に緑香は痛くもないだろう」

 いちいちうるさいと奈生金がいうと、緑香は

「怒りっぽい男ってほんといや」と眉をしかめる。
「うろちょろして邪魔な奴だ」

 奈生金は木の枝を縦横にかける未令を忌々しげに見下ろした。

「力はなくとも血族の身体能力だけは受け継いでいるようだな」

 見事な跳躍力に目を留め、続けざまに小さな鉄球をいくつも打ち込んでくる。
 未令はそれらを避け、肩で大きく息をしながら元の宮殿の屋根の上に降り立った。

 体力が限界に近づいていた。
 すぐそばには有明が血を流した右腕をおさえてうずくまり、康夜は緋色の衣装の裾が裂け、足から血を流している。二人とも未令と同じように肩で大きく息をしている。
木の壁があちこち煤けたように焦げているのは有明と康夜が炎で応戦したからだろう。

 三人ともそろそろ体力の限界だ。

 これ以上どうやって緑香と奈生金と戦えばいいのかもわからない。
 奈生金の繰り出す術は力の弱い金の術者が作り出す速度よりも格段に早い。次の手が来るまでの時間が短く、隙をついて攻撃することができない。

 これは本当に最後の一手を使うときなのではないか。
 未令は涼しい顔でこちらを見下ろしている奈生金と緑香を見上げた。焔将は力は遣うなといったけれど力を遣えばこの木の壁は壊せる。
 このままでは、誰一人日本へは還れなくなる。

 未令は術者だとは思われていない。
 いきなり炎で攻撃すれば、突破口がひらける。あとは炎で緑香と奈生金に応戦しながら、水晶邸まで逃げられるのではないか。 

 未令は肩で息をしながら時有を見た。
 時有は先ほどと変わらぬ様子で立っている。どこにも怪我ひとつ負っていない。
 未令が見ると時有がぼさぼさの髪の間からのぞく瞳で見つめ返してきた。
 力を遣うけどいいかな。突破口が開けたら一気に抜け出そうと目で訴える。
 すると時有は首を振った。

「その必要はない、未令」

 そう時有が声に出して答える。そのとたんぴりっと周囲の空気が変わった。
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