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第七章

時有の力

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 波動は、その場にいた術者全員に伝わった。

 木は動きを止め、金の術者たちの操る矢じりは空中で止まり、緑香と奈生金は同時に息をのんだ。

「……おじいちゃん?」

 何が起こったのかわからなかった。

 一斉に動きを止めた空間で、最初に呻いて木の壁から落ちていったのは金の術者たちだ。

 続いて壁となっていた木々がおびえたように縮まっていき、空間に漂っていた鉄の矢じりがじゅっという音と共に消失する。

 木々の壁が壊れていくのに従い、めりこんでいた鉄球が落下しだしたが、それも地面に到達する前に煙をあげながら跡形もなく消えた。

 緑香の乗っていた木の枝も制御を失い、緑香と奈生金はそこから飛び降りる。
 周囲を覆っていた木々も、飛び交っていた矢じりも鉄球も全て消え失せた宮殿の屋根に、二人は降り立ったが同時に膝をついた。

 見た目に何か変化があったわけではない。
 ただその場の空気が変わっただけだ。
 その場を焼き尽くすほどの炎があるのでもない。
 それなのに次々と術者たちが倒れていく。

 空気の変化は、その場にいた未令も感じ取っていた。

 影響を受けている術者は、何も木と金の術者だけではない。
 未令も身体の奥が熱されたように熱い。

 有明と康夜もほぼ同時に膝をつきうずくまり、未令も立っていられなくなって薙刀を支柱にその場に崩れた。

 身体の奥から溶けていくようだ。

「勝負あったようだな」

 声と同時に身体の奥にあった熱がなくなった。

 宮殿の中庭に立った焔将が扇子をもてあそびながらおもしろそうに屋根の上を見上げている。

「焔将さま」

 時有がやれやれというように息をつき、いたずらっ子のようににやにや笑っている焔将を見下ろした。

「緑香と奈生金に告げ口するなど、少しお遊びが過ぎますぞ」
「何を言うか時有。そなたが私の再三の誘いを断り、結果としてこうなったのではないか。おまえがさっさと一人で逃げ出していればよかったんだ」
「あのですね、焔将さま。だったら何も緑香と奈生金を差し向けることもございますまい? 見逃してくださればよかったものを」
「そうしてもよかったのだがな。私の未令がひどく悩んでいるようだったのでな。―――未令!」

 下から焔将がこちらに向けて両手を差し出す。
 屋根の上だったがためらいなく未令はその腕の中に飛び降りた。

「無事で何より」
「あちこち傷だらけだけどね」
「すぐに手当てをさせよう」
「―――あの……」
「なんだ? 時有」
「なんだはないでしょう。どうなさるおつもりで? この事態の収拾を」
「ああ」

 焔将はにやりと策士らしく口端をゆがめ、騒ぎをききつけてこちらへ向かってくる一行へと視線を向けた。





 
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