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第七章
また会いに行く 終
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夕方の駅前通りを、制服を着た高校生くらいの少女が父親らしき男と腕を組んで嬉しそうに笑っている。
少女はその前を歩く髪がぼさぼさの男にも駆け寄ると空いていた右腕をその男の腕にからめる。
両サイドに父親のような二人の男と腕を組んで楽しそうだ。
その後ろから少し離れて少女と同じ年頃の髪の長い少女がついてくる。
更にその後ろには大学生くらいだろうか、似た背格好の男が二人。どちらも漆黒の髪に闇のように深い瞳をしている。
道行く人々は、そんな一行に特に目を留めることもなく通り過ぎていく。
右に祖父時有、左に父有明と腕を組み、未令は康之の待つ家へと歩いていた。
「ずいぶんとご機嫌だね、未令ちゃん」
後ろから卓水が呆れたように声をかける。
その横を歩く涼己もまた苦笑しながらも目は優しい。
涼己のジーンズ姿は新鮮で、未令は何度も振り返っては涼己を見た。
「結局さぁ、全部焔将さまに転がされたって感じだよね」
卓水は唇を尖らせる。
そう卓水が悪態をついても仕方のないことだった。
時有が力を遣い、他を圧倒したタイミングで現れた焔将は、その場を収めるために祥文帝に嘆願し、事を収拾させた。
説得力のある焔将のこの文言を、祥文帝は飲まざるをえなかったはずだ。
緑香と奈生金が時有の前ではどうすることもできなかったことは、状況を見て察していただろう。
二人がかなわない相手が、他の者に抑えられるはずがないのだ。
誰も、時有を抑えることはできない。
祥文帝はいやというほどあの時わかったはずだ。
時有にとってあの水牢も何の意味もなく、いつでも抜け出せるからこそ大人しく入っていたのだと。
それまでの自分の策が無意味であり、なおこれ以上打つ手もない。
そのタイミングで放たれた実弟の焔将の言。
大きな助け舟となったはずだ。焔将のいうとおり事を収めるよりなかっただろう。
あのあと、祥文帝はうむと頷き、実弟のわがままを受け入れるのだという体を崩さず、焔将の申し入れを聞き入れた。
どちらにせよ時有、有明、康夜の力が失われずにすむのなら祥文帝にとっても悪い話ではない。
「また会えたろう、未令」
日本へ戻る前、二人になったところで焔将は未令ににやりと笑っていた。
日本との繋がりを残しつつ、時有を解放し、祥文帝を納得させる。
何もかも望んだことすべてが叶う形での収束となった。
「そうするつもりなら、言ってくれればよかったのに……」
そうすれば日本へ還るべきか平安国に残るべきかと悩むこともなかった。
「手の内を明かすのは好きではないのでな」
「でも……。そうすればわたしだって」
「なんだ?」
「何でもない」
心の中がぐちゃぐちゃになるほど悩まなくて済んだのに…。
そう言いたかったけれど、そう言うと焔将を喜ばせるだけのような気がしてなんだか悔しい。
けれどそんな胸の内もたぶん焔将にはお見通しで……。
「また近いうちに来い、未令。私の側妃の座はいつまでもお前のものだ」
そう言って抱き寄せておでこに口づけて焔将は憎たらしいほどきれいな顔で笑った。
その時の笑顔を思い出して未令はぎゅっと強く時有と有明の腕をつかんだ。
会いたいときにはいつでも会える。
康夜を無事に叔父のところへ連れ帰ったら、その足でまた平安国へ向かおうか。
焔将はきっと北斗七星の紋様が入った衣を用意して月を眺めながら未令のことを待ってくれている。
少女はその前を歩く髪がぼさぼさの男にも駆け寄ると空いていた右腕をその男の腕にからめる。
両サイドに父親のような二人の男と腕を組んで楽しそうだ。
その後ろから少し離れて少女と同じ年頃の髪の長い少女がついてくる。
更にその後ろには大学生くらいだろうか、似た背格好の男が二人。どちらも漆黒の髪に闇のように深い瞳をしている。
道行く人々は、そんな一行に特に目を留めることもなく通り過ぎていく。
右に祖父時有、左に父有明と腕を組み、未令は康之の待つ家へと歩いていた。
「ずいぶんとご機嫌だね、未令ちゃん」
後ろから卓水が呆れたように声をかける。
その横を歩く涼己もまた苦笑しながらも目は優しい。
涼己のジーンズ姿は新鮮で、未令は何度も振り返っては涼己を見た。
「結局さぁ、全部焔将さまに転がされたって感じだよね」
卓水は唇を尖らせる。
そう卓水が悪態をついても仕方のないことだった。
時有が力を遣い、他を圧倒したタイミングで現れた焔将は、その場を収めるために祥文帝に嘆願し、事を収拾させた。
説得力のある焔将のこの文言を、祥文帝は飲まざるをえなかったはずだ。
緑香と奈生金が時有の前ではどうすることもできなかったことは、状況を見て察していただろう。
二人がかなわない相手が、他の者に抑えられるはずがないのだ。
誰も、時有を抑えることはできない。
祥文帝はいやというほどあの時わかったはずだ。
時有にとってあの水牢も何の意味もなく、いつでも抜け出せるからこそ大人しく入っていたのだと。
それまでの自分の策が無意味であり、なおこれ以上打つ手もない。
そのタイミングで放たれた実弟の焔将の言。
大きな助け舟となったはずだ。焔将のいうとおり事を収めるよりなかっただろう。
あのあと、祥文帝はうむと頷き、実弟のわがままを受け入れるのだという体を崩さず、焔将の申し入れを聞き入れた。
どちらにせよ時有、有明、康夜の力が失われずにすむのなら祥文帝にとっても悪い話ではない。
「また会えたろう、未令」
日本へ戻る前、二人になったところで焔将は未令ににやりと笑っていた。
日本との繋がりを残しつつ、時有を解放し、祥文帝を納得させる。
何もかも望んだことすべてが叶う形での収束となった。
「そうするつもりなら、言ってくれればよかったのに……」
そうすれば日本へ還るべきか平安国に残るべきかと悩むこともなかった。
「手の内を明かすのは好きではないのでな」
「でも……。そうすればわたしだって」
「なんだ?」
「何でもない」
心の中がぐちゃぐちゃになるほど悩まなくて済んだのに…。
そう言いたかったけれど、そう言うと焔将を喜ばせるだけのような気がしてなんだか悔しい。
けれどそんな胸の内もたぶん焔将にはお見通しで……。
「また近いうちに来い、未令。私の側妃の座はいつまでもお前のものだ」
そう言って抱き寄せておでこに口づけて焔将は憎たらしいほどきれいな顔で笑った。
その時の笑顔を思い出して未令はぎゅっと強く時有と有明の腕をつかんだ。
会いたいときにはいつでも会える。
康夜を無事に叔父のところへ連れ帰ったら、その足でまた平安国へ向かおうか。
焔将はきっと北斗七星の紋様が入った衣を用意して月を眺めながら未令のことを待ってくれている。
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