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我が名は英雄ラーナであるぞ!
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「我が名は英雄ラーナであるぞ!だからスライムどもよ、私のジャガイモを返せぇい!!!!」
ラーナは広い、広いジャガイモ畑の中心から怒りを込め、大空に向かって叫んだ。その声に驚いたのか、近隣の森の草木の中から大量の小鳥達が羽ばたき、どこか遠くへ飛んでいった。
叫び終えたラーナはあたりを見渡した。
まわりには、大量のスライムがピョンピョンとはねていた。
ラーナにはその動きが自分をばかにしているかのように思えた。
「おお、お前ら! さぁ……さぁ返せ!」
立ち上がってラーナはゆらゆらと歩きながらそのスライム達を捕まえようと手を伸ばす。けれどスライム達はその手を軽くはらいのけ、ラーナからまた一定の距離をとった。
そこでラーナはまた腰から崩れ落ち、地面にうずくまってしまった。
「魔王退治の……魔王退治以来のストレスだわぁぁ!!」
今度は地面に向かってラーナは泣き叫んだ。
ラーナは元勇者であり、4年前魔王を倒した。その後、国都であるこの町に凱旋すると民衆から英雄と崇められ、国王からは町の外れにある広大な土地を分け与えてもらった。
これまでつらい戦いを耐えてきたラーナ。
その反動のせいか、与えられたその土地で屋敷を構え、ノーストレスをモットーに悠々自適な生活を送ろうと決めた。
それから約4年間、本当にノーストレスで楽しい日々をラーナは送った。
物に不足を感じたことはない。やりたいことがあれば金に物を言わせ、実現させてきた。
例えば
水泳にはまったときは
25メートルプールを敷地内に作り、
ゴルフにはまったときは、
本格的なコースをしたいと、敷地の一部を18コースのゴルフ場に改造したりした。
またラーナは食に強いこだわりを持っており、取れたての物が食べたく、分け与えられた土地で様々な野菜や果物の種をまき、雇った者に栽培をまかせた。
一方各地の名産品でその土地でしか育たないものなどは取り寄せて、堪能した。
昨日の晩ご飯もはるかかなたのある国から取り寄せた最高級の牛のサーロインステーキだった。
そのステーキを一切れ、口に入れ、すぐさま自分の土地で育てた米のご飯を一口ほおばり、ラーナは思った。
きっとこの先もずっとこんな快適なスローライフが送れると。
なのに、だ。
今朝は楽しみにしていたナノカイモの収穫日だった。
このナノカイモもはるかかなたの、ある地域の特産品だった。
ラーナは冒険時代、旅の途中でその地域を訪れたことがあり、その時食べたこのイモの味が忘れられず、冒険が終わってからさっそく部下にナノカイモを取りにいかせた。
が、それはかなわなかった。理由はこのナノカイモの特質にあった。
「ナノカイモ」という名の由来は、収穫してからわずか七日程度しかもたないということから来ていた。
この地域からその芋をラーナの屋敷まで持ってくるにはひと月はかかる。なので、取り寄せることは不可能であった。
そこでラーナはナノカイモの種芋だけをもらいうけ、自分の畑の管理者に栽培を任せることにしたが、
ナノカイモは、栽培条件が厳しく、特産地でしか育たないと言われており、案の定1年目は失敗した。
そのためラーナは2年目からはナノカイモの栽培に詳しい専門の研究者を大量に雇い、特産地の現地調査もさせ、ナノカイモの栽培に再び挑戦した。
しかし2年目もそして3年目も失敗し、今年で4年目となった。
「今年無理なら、あなたたち研究者全員クビよ!」
と種イモを土の中にいれる時に言い放ったラーナのこのひと言が効いたのか、今年は順調に育ち、そしてついにおととい、収穫のお墨付きを研究者からもらった。
種イモ入れが終わってから収穫までの間は研究者まかせだったが、収穫だけはラーナ自身でやりたかった。それが今日の昼にすると決めていたわけだが
「昨日、収穫しとけば……」
悔やんでも悔やみきれない。昨日までラーナはあることで忙しかった。
「4年間ずっと我慢して、この日を楽しみにしてたのに! これでジャガバターを食べたかったのに!」
ラーナは地面にうずくまったまま、途中で歯ぎしりを入れながら泣きわめいた。
そのわめき声がおさまった頃、ラーナの背後から男性の弱々しい声が聞こえた。
「お嬢様、念のため市場に……」
「売っているわけないじゃないの!」
そのかすれ声の続きをかき消し、ラーナは振り返った。目の前には困惑した表情を浮かべる執事のジイが立っていた。
「あっいえ、今日は別の芋でジャガバターを作りましょう」
「いいわよ、そんなの。このナノカイモで食べたかったの! 分かってるでしょ!」
「……」
「 そもそもなんで? ここに魔物が出現するなんて……なんで?! あ、うっ」
「あっお嬢様!」
ラーナは叫びすぎたせいで息がむせかえってしまった。
「まずは、屋敷に戻りましょう」
ジイはラーナの背中をさすった。
少し時間がたち、呼吸を整えたラーナは立ち上がり、ジイに添われ、そのまま屋敷へと戻った。
ジイはそのまま自室で休むことをすすめたが、ラーナはそれを拒み細長のダイニングテーブルの椅子に座った。
「さぁ説明してちょうだい! この国にはもう魔物はいないはずじゃないの? 私のお・か・げ・で!」
ラーナは涙でぐちゃぐちゃな顔で、テーブルを挟んで向かい側に立つジイをキッと睨み付けた。
「はい、お嬢様の功績で魔物は現れることはなくなりました。ですが……」
「ですが?」
「お嬢様が魔王を倒して4年の歳月がたちました。」
「つまり、4年経って、私は魔物達に恐れられなくなったってわけ?」
「いえ、めっそうもございません!」
ジイは首を大きく横に振った。
「たかが4年じゃないの 私は引退したけどまだまだ剣の実力は衰えちゃないわよ! 昨日だって、どれだけの魔物をやっつけたと思ってるの?」
バン! ラーナはテーブルを叩いた。ジイは一瞬口をあけかけようとしたがそのまま、目をキョロキョロして、やがて頭を下げた。
「あーもう! 昨日までは大丈夫だったのよね?」
「はい、昨日の夕方、見張りが帰る時には異常はなく今朝、確認すると、畑の近くにスライムが数匹いるのを見つけまして……」
「ちょ、ちょっと待って!」
ラーナはジイの話を止めた。
「夜に見張りはいなかったの?」
ラーナの目は大きく見開いた。
「お嬢様ご存じではなかったのですか?」
「そんなの知らないわよ。当然夜だって見張りはいると思ったわよ」
「申し訳ありません!」
「なんでよ!」
「それはその、最近は募集をかけても集まらなくて」
「どういうことなの?」
「皆さん、夜には魔物が出てくるのではと恐れているのではないかと」
魔王が倒れて以降、この国で人が魔物をみかけることはなくなった。
とはいえ、夜にはまだ魔物が出るといううわさが人々の間にはあると、ジイはいう。
「私が魔王を倒したんだから、夜だって出てきたこと今まで一度もないでしょ?」
「ですが、今回出ました……」
「あっ……だけどそれとこれとはまた別でしょ! 」
「はい、失礼しました……」
深々と頭を下げるジイの頭を見てため息をつき、ラーナは、テーブルの椅子から勢いよく立ち上がった。
「もう良いわ。ちょっと今日は寝るわ」
「そうですか。それとお嬢様」
「何よ」
「出てきたスライムについてただいま研究所に問い合わせをしておりますので」
「頼んだわよ」
ラーナは自分の寝室に戻った。
自分のベットにダイブする。ふわふわな枕に顔を埋めた。
「私の私の大切な大切なジャガイモ!」
ドン、ラーナは今度はベットをグーでたたいた。
「どうして? 英雄の私がなんでこんな仕打ちをされないといけないわけ!?」
ラーナはそのあとぶつぶつとスライムへの恨みをつぶやき、そして泣き疲れ、そのまま寝てしまった。
再び目を覚ますと夕方だった。
ショックで何も食べられないというのは、どうもラーナには当てはまらないらしく、
ジイの用意した晩ご飯はしっかり残さず、後おかわりもした。
が、いわゆるやけ食いだった。何も味がしなかった。
いつもならここからバスタイムの時間だったが、今日はそんな気力もなく、シャワーだけ浴び、再び部屋に戻った。
ベットに横たわった。
ベットの上の天井を見つめる。昼間良く寝たためか、全然寝られないと覚悟したラーナだったが、
意外にも、うとうとし始めた。
あーもう良いわ。今日のことは忘れよう。忘れなかったら、忘れなかったで、それこそストレスだもんね。
ラーナは夢うつつになりながらそう思い、やがて眠りはじめた。
ラーナは広い、広いジャガイモ畑の中心から怒りを込め、大空に向かって叫んだ。その声に驚いたのか、近隣の森の草木の中から大量の小鳥達が羽ばたき、どこか遠くへ飛んでいった。
叫び終えたラーナはあたりを見渡した。
まわりには、大量のスライムがピョンピョンとはねていた。
ラーナにはその動きが自分をばかにしているかのように思えた。
「おお、お前ら! さぁ……さぁ返せ!」
立ち上がってラーナはゆらゆらと歩きながらそのスライム達を捕まえようと手を伸ばす。けれどスライム達はその手を軽くはらいのけ、ラーナからまた一定の距離をとった。
そこでラーナはまた腰から崩れ落ち、地面にうずくまってしまった。
「魔王退治の……魔王退治以来のストレスだわぁぁ!!」
今度は地面に向かってラーナは泣き叫んだ。
ラーナは元勇者であり、4年前魔王を倒した。その後、国都であるこの町に凱旋すると民衆から英雄と崇められ、国王からは町の外れにある広大な土地を分け与えてもらった。
これまでつらい戦いを耐えてきたラーナ。
その反動のせいか、与えられたその土地で屋敷を構え、ノーストレスをモットーに悠々自適な生活を送ろうと決めた。
それから約4年間、本当にノーストレスで楽しい日々をラーナは送った。
物に不足を感じたことはない。やりたいことがあれば金に物を言わせ、実現させてきた。
例えば
水泳にはまったときは
25メートルプールを敷地内に作り、
ゴルフにはまったときは、
本格的なコースをしたいと、敷地の一部を18コースのゴルフ場に改造したりした。
またラーナは食に強いこだわりを持っており、取れたての物が食べたく、分け与えられた土地で様々な野菜や果物の種をまき、雇った者に栽培をまかせた。
一方各地の名産品でその土地でしか育たないものなどは取り寄せて、堪能した。
昨日の晩ご飯もはるかかなたのある国から取り寄せた最高級の牛のサーロインステーキだった。
そのステーキを一切れ、口に入れ、すぐさま自分の土地で育てた米のご飯を一口ほおばり、ラーナは思った。
きっとこの先もずっとこんな快適なスローライフが送れると。
なのに、だ。
今朝は楽しみにしていたナノカイモの収穫日だった。
このナノカイモもはるかかなたの、ある地域の特産品だった。
ラーナは冒険時代、旅の途中でその地域を訪れたことがあり、その時食べたこのイモの味が忘れられず、冒険が終わってからさっそく部下にナノカイモを取りにいかせた。
が、それはかなわなかった。理由はこのナノカイモの特質にあった。
「ナノカイモ」という名の由来は、収穫してからわずか七日程度しかもたないということから来ていた。
この地域からその芋をラーナの屋敷まで持ってくるにはひと月はかかる。なので、取り寄せることは不可能であった。
そこでラーナはナノカイモの種芋だけをもらいうけ、自分の畑の管理者に栽培を任せることにしたが、
ナノカイモは、栽培条件が厳しく、特産地でしか育たないと言われており、案の定1年目は失敗した。
そのためラーナは2年目からはナノカイモの栽培に詳しい専門の研究者を大量に雇い、特産地の現地調査もさせ、ナノカイモの栽培に再び挑戦した。
しかし2年目もそして3年目も失敗し、今年で4年目となった。
「今年無理なら、あなたたち研究者全員クビよ!」
と種イモを土の中にいれる時に言い放ったラーナのこのひと言が効いたのか、今年は順調に育ち、そしてついにおととい、収穫のお墨付きを研究者からもらった。
種イモ入れが終わってから収穫までの間は研究者まかせだったが、収穫だけはラーナ自身でやりたかった。それが今日の昼にすると決めていたわけだが
「昨日、収穫しとけば……」
悔やんでも悔やみきれない。昨日までラーナはあることで忙しかった。
「4年間ずっと我慢して、この日を楽しみにしてたのに! これでジャガバターを食べたかったのに!」
ラーナは地面にうずくまったまま、途中で歯ぎしりを入れながら泣きわめいた。
そのわめき声がおさまった頃、ラーナの背後から男性の弱々しい声が聞こえた。
「お嬢様、念のため市場に……」
「売っているわけないじゃないの!」
そのかすれ声の続きをかき消し、ラーナは振り返った。目の前には困惑した表情を浮かべる執事のジイが立っていた。
「あっいえ、今日は別の芋でジャガバターを作りましょう」
「いいわよ、そんなの。このナノカイモで食べたかったの! 分かってるでしょ!」
「……」
「 そもそもなんで? ここに魔物が出現するなんて……なんで?! あ、うっ」
「あっお嬢様!」
ラーナは叫びすぎたせいで息がむせかえってしまった。
「まずは、屋敷に戻りましょう」
ジイはラーナの背中をさすった。
少し時間がたち、呼吸を整えたラーナは立ち上がり、ジイに添われ、そのまま屋敷へと戻った。
ジイはそのまま自室で休むことをすすめたが、ラーナはそれを拒み細長のダイニングテーブルの椅子に座った。
「さぁ説明してちょうだい! この国にはもう魔物はいないはずじゃないの? 私のお・か・げ・で!」
ラーナは涙でぐちゃぐちゃな顔で、テーブルを挟んで向かい側に立つジイをキッと睨み付けた。
「はい、お嬢様の功績で魔物は現れることはなくなりました。ですが……」
「ですが?」
「お嬢様が魔王を倒して4年の歳月がたちました。」
「つまり、4年経って、私は魔物達に恐れられなくなったってわけ?」
「いえ、めっそうもございません!」
ジイは首を大きく横に振った。
「たかが4年じゃないの 私は引退したけどまだまだ剣の実力は衰えちゃないわよ! 昨日だって、どれだけの魔物をやっつけたと思ってるの?」
バン! ラーナはテーブルを叩いた。ジイは一瞬口をあけかけようとしたがそのまま、目をキョロキョロして、やがて頭を下げた。
「あーもう! 昨日までは大丈夫だったのよね?」
「はい、昨日の夕方、見張りが帰る時には異常はなく今朝、確認すると、畑の近くにスライムが数匹いるのを見つけまして……」
「ちょ、ちょっと待って!」
ラーナはジイの話を止めた。
「夜に見張りはいなかったの?」
ラーナの目は大きく見開いた。
「お嬢様ご存じではなかったのですか?」
「そんなの知らないわよ。当然夜だって見張りはいると思ったわよ」
「申し訳ありません!」
「なんでよ!」
「それはその、最近は募集をかけても集まらなくて」
「どういうことなの?」
「皆さん、夜には魔物が出てくるのではと恐れているのではないかと」
魔王が倒れて以降、この国で人が魔物をみかけることはなくなった。
とはいえ、夜にはまだ魔物が出るといううわさが人々の間にはあると、ジイはいう。
「私が魔王を倒したんだから、夜だって出てきたこと今まで一度もないでしょ?」
「ですが、今回出ました……」
「あっ……だけどそれとこれとはまた別でしょ! 」
「はい、失礼しました……」
深々と頭を下げるジイの頭を見てため息をつき、ラーナは、テーブルの椅子から勢いよく立ち上がった。
「もう良いわ。ちょっと今日は寝るわ」
「そうですか。それとお嬢様」
「何よ」
「出てきたスライムについてただいま研究所に問い合わせをしておりますので」
「頼んだわよ」
ラーナは自分の寝室に戻った。
自分のベットにダイブする。ふわふわな枕に顔を埋めた。
「私の私の大切な大切なジャガイモ!」
ドン、ラーナは今度はベットをグーでたたいた。
「どうして? 英雄の私がなんでこんな仕打ちをされないといけないわけ!?」
ラーナはそのあとぶつぶつとスライムへの恨みをつぶやき、そして泣き疲れ、そのまま寝てしまった。
再び目を覚ますと夕方だった。
ショックで何も食べられないというのは、どうもラーナには当てはまらないらしく、
ジイの用意した晩ご飯はしっかり残さず、後おかわりもした。
が、いわゆるやけ食いだった。何も味がしなかった。
いつもならここからバスタイムの時間だったが、今日はそんな気力もなく、シャワーだけ浴び、再び部屋に戻った。
ベットに横たわった。
ベットの上の天井を見つめる。昼間良く寝たためか、全然寝られないと覚悟したラーナだったが、
意外にも、うとうとし始めた。
あーもう良いわ。今日のことは忘れよう。忘れなかったら、忘れなかったで、それこそストレスだもんね。
ラーナは夢うつつになりながらそう思い、やがて眠りはじめた。
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