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イベント
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「お嬢様!お嬢様」
執務室に戻ったはずのジイの声が聞こえ、ラーナは目を覚ました。
「えっ? どうしたの?」
上体を起こすと、ジイの必死そうな顔が見えた。
もしかしてさっきのギルドの賞金上限の嘘がばれたのかと思ったラーナだったが、そうではなかった。
「お嬢様、今、これを伝えとくべきなのか分かりませんが、」
ジイはちらっと壁の時計を見た。
「事前に言いつけられておりましたので、伝えますね。もうすぐイベントが始まるのではないのですか?」
「あっ」
ラーナもその時計を見た。
時計の短針は6、長針は11を指していた。
後5分しかないじゃないの!
ラーナは急いで自分の部屋に戻り、蜃気楼箱を取り出した。
今日は蜃気楼箱内で大きなイベントがあった。
今は参加してる場合じゃないのはわかってはいたラーナであったが、目の前の問題から目を背けたい気持ちのほうが上回った。
まぁ寝るよりかはましだよね
自分に都合の良い理由をつけ、罪悪感を消しながら蜃気楼箱の蓋を開ける。
たちまち霧が現れ、ラーナを包み込む。
ラーナは目をつぶった。
しばらくして目を開けると、辺り一面が草原に広がる空間にいた。まわりには他のプレイヤー達もいる。
やっぱりミッションじゃなく、バトルのほうかぁ。でもそらそうよね。だって賞品はあれなんだから。
イベントには大きく二つに分かれており、一人でミッションをクリアするタイプと今日のようにプレイヤー通しで競い合うタイプがあった。
このイベントは一応オープン戦だ。だから皆、レベル1でやるのだが、
ラーナだけレベル2以上じゃないとだめだった。
以前まではそんなことはなかったが、あまりにもラーナが勝ちすぎたので運営側が世界大会以外では、ラーナのレベル制限が設けられた。
不満はあるけど、しかたないわね……
ただレベル2でも本気を出せば勝てると思えるイベントもこれまで何個かあった。
だがこれでまた何回も勝ってしまうと運営にまた目をつけられるので、ここぞというときにだけ本気を出した。
その本気を出すのが今日のイベントだった。
ラーナは周りをキョロキョロ見ながらしばらく歩いた。そしてフィールドの中央辺りで大きくジャンブした。
フィールドはほぼ透明な壁で覆われている。天井もそうだ。
ほぼ透明、というのには理由があり、近くまで来ると、壁に黄色の点々模様が見える。その模様でプレイヤーは壁だと認識できる。
その壁はトランポリンのような壁なのでダメージは受けない。
そして地上から30メートル程の高さにあるその透明な壁(天井)付近までラーナは飛んだ。そこからゆっくりと降下しながらフィールド全体を見渡す。
ざっと1000人はいるかしら。すごいわね。
ラーナはフィールド内のプレイヤーの数に少し驚いた
でも当然よね。なんたって商品はあれなんだから
「て、あれ?」
とここで、地面に向かって降りながらラーナはあることに気がついた。
「私、腰痛めてなかったかしら。本当に三日で治っちゃった!」
ラーナは心の中でガッツポーズをした。
その後もゆっくりと降下していき、地面に着地したタイミングで、
「皆さん、こーんーにーちわー!」
フィールド前方からマイクを通して男性の大きな声が聞こえた。
その声が合図なのか、フィールドの前後左右の透明な壁がいきなりスクリーンとなり、その声を発した仮面の男が映し出された。
「こんにちわ!」
プレイヤー達がその男の声に呼応して大声で叫んだ。
「今日は争奪戦となります。本日の優勝賞品は!」
じゃじゃじゃじゃじゃじゃん!
「龍の鎧です!」
「待ってました!」
「すごいなぁ!」
観衆から声が上がった。
おお!これよこれよ!
スクリーンに大きく映し出されたその鎧を見てラーナもまた興奮していた。
竜の鎧とは500年程前までは存在していたといわれている竜騎士の、鎧である。
伝説によるとその昔、騎士と竜は契約を交わすことがあった。その契約してる間、竜は剥がれ落ちるうろこをその騎士に上げていたという。その鱗で作られた鎧が竜の鎧と呼ばれている。
なぜ竜は鱗を契約した騎士に渡していたのかは諸説あるが、いまだはっきりとは分かってはいない。
そもそもその竜を操る竜騎士の活躍も書物にはほとんど残っておらず謎のままだ。唯一の物的証拠として、この鎧が残っているが、それでも一部研究者の間では竜騎士の存在を否定する者もいた。
いずれにせよそのミステリアスさも含めこの鎧の人気はすさまじかった。
今現在、鎧は世界の中で十数個しかない。500年もたっているので鱗の色味はあせているが、それでもひとたびオークションにかければ、冒険者が一生をかけて稼げる平均賞金の額の100倍以上の値はつく代物だった。
そしてラーナが今スクリーン越しで見ているものは蜃気楼内でしか着られないいわゆる模造品ではあった。だが鎧の色味は当時の状態を再現しており、その分デザインは本物よりかっこよく、ゲットすれば、この世界(蜃気楼箱内の)で唯一の幻の竜騎士になりきれるので、ラーナも含め皆、このイベントをまちに待っていた。
「これが本日の一位の人のみがゲットできます。その他順位に応じて次の賞品がもらえます。まず二位から五位までは……」
司会者は二位以下の景品について説明し始めたが、ラーナは聞き耳を立てることもせずスクリーンに映し出された竜の鎧に見とれていた。
「さぁ皆さん! これらを巡って戦ってもらいます! さて、その種目は、」
さぁ、ここが大事よ、どんな種目かしら。
ラーナはスクリーンをじっとみつめた。
じゃじゃじゃじゃーじゃん!
「スライム倒しでーす!」
「なんですって!」
ラーナは思わず声をあげてしまった。
それは、今の私にぴったしな競技じゃない!
驚きと喜びのあまりラーナは両手を頭の後頭部にあてた。
「今からスライムが大量放出されます!」
そのアナウンスでラーナは我に返った。
「30分以内に倒した数で競います! さぁさっそくですが、カウントダウンしますよ! 皆準備は良いかぁ?!」
「「「良いよ!」」」
フィールド内の熱気があふれている。
「10!」
「9!」
「8!」
「7!」
「6!」
ラーナは剣を鞘から抜いた。
「5!」
「4!」
「3!」
「2!」
「1!」
「0!!!!!!!!!!」
すると透明な天井が開き、そこから大量のスライムが放出された。
さぁ! 英雄ラーナの剣さばきをとくとみるが良い!
ラーナはすぐさまジャンプし、まるで急な階段を駆けあがるかのように空へと登っていく。
その間、落下していくスライムを剣で次々と蹴散らしていく。
「オラー!スライムども!」
そして天井まで上ると、そこから下を見下ろした。
数秒後、
「今よ!」
ラーナは天井の壁を足で蹴った。
猛スピードで、逆さまの状態のままラーナは落ちていく。
落ちていく。
そしてくるっと回転して上体を戻し、
「さぁ、日頃の恨み!」
持っていた剣を振り上げ、その振り上げた剣をラーナは
「ここで晴らしてくれるわぁ!」
地面に向かって振り落とした。
ダーン
一刀両断。落ちていくスライム数十匹がその剣一振りでスライスされた。
地面に着地したラーナは、今度は地上に落ちたスライムを次々と切りながら駆けていく。
「おい、あいつやべーぞ」
「めっちゃ剣さばきうめー!」
「早くて分からんかったけど、あれ、ナーラじゃない?」
尋常じゃないスピードで草原をかけていくラーナの動きに周りのプレイヤーから感嘆の声が聞こえる。
ふん! 当然じゃないの! 私は英雄ラーナよ
この世界を救った、勇者よ!
竜騎士の鎧は私のものよ!!!
戦いは終わった。ラーナは、一位だった。
◇
「ねぇ聞いて!ジイ 取ったよ! 竜騎士の鎧!」
「それは素晴らしいことでございます!」
「私は世界で唯一の竜騎士なのよ、ジイ」
「すごいことでございます!」
夕食中、ラーナはジイに優勝報告をした。
夜、ラーナは疲れ果てすぐにベットで横になった。
今日はたくさんスライムをやっつけたわ!
だから絶対に今日こそはぐっすり眠れる。
スライムはもういないのよ!
ラーナはそう思ったが
一時間後
ウ―ウーウーウーウーウーウーウーウーウー
「うるさーい!」
ラーナはまた、ベットから起き上がった。
どれだけ蜃気楼箱の中でやっつけたとしても現実世界ではスライムは家のまわりにうようよいるという事実をラーナは認めたくなかった。
翌朝
「おはようございます、お嬢様」
「おはよう、ジイ」
「お嬢様、そのお顔は・・・」
ラーナの目の下にはくまがあった。
「また歌ってたのよ。この合唱、いつまで続くわけ? それに変な夢を見たわ」
「変な夢とは?」
「私がだれかと行き止まりの道を通る夢」
「??」
「まぁそれはどうでも良いのよ。もうどうしたら良いわけ、道場に誰か来なさいよ」
「お嬢様・・・やはり、ギルトに頼む他ありませんよ。冒険者に多額の報酬を払うという理念は素晴らしいですが、このままだと、ラーナ様のお体が持ちません。冒険者が少ないとはいえ、ギルトなら、出稼ぎから戻ってきている人達をすぐに紹介してもらえるはずです」
「だめよ!英雄ラーナのっ……!」
英雄ラーナの名に傷をつけるつもり、と危うくいいそうだったわ。
ラーナはいったん息を飲み込み、そして一拍おいてから、また話し出す。
「とにかくだめよ、道場を開くわよ」
「ですが……」
「ですが?」
「いえ何も……」
「大丈夫よ! 今日の夜はきっと大丈夫!」
ラーナはそう言い放ち、朝食をすぐに済ませ、部屋に戻った。
よし、今日も遊ぶぞ!
ラーナは蜃気楼箱を開けた。
今日は皆に自慢するわ!
プレイヤーコミュニティー広場にきた。
ここでは一緒にクエストする仲間を集めたり、物品交換、後バトルの対戦申し込みができる。
たちまち、ラーナの周りに人々が群がった。
「やっぱかっこいいな! 竜騎士の鎧!」
「良いな、ほしかったなぁ。でもナーラのあの動きを見たらしょうがないよな」
人々から善望の声が聞こえてくる。
えっへん!
この世界で唯一の竜騎士よ! 私は!
夜になり、蜃気楼箱をしまい、夕食にした。
そしてベットによこになった。
今日こそは大丈夫よ!
そう思って、ラーナは目をつぶった。
だがラーナの願いもむなしく、その日の夜もスライムは合唱をしていた。
「はぁどうしてなの?」
朝食を食べながらラーナはため息をついた。
「お嬢様……」
「昨日も誰も来なかったのよね?」
「……はい」
ジイはチラシを増やし、町中に貼ったが、効果がなかった。
「ごちそうさま、どうせ、今日も来ないのよ、きっと」
ラーナは自室に戻り、蜃気楼箱の蓋を開けた。
コミュニティー広場にまた行くと、
プレイヤー仲間のスケが待ち受けていた。
「師匠、おめでとうございます!さすがですね」
スケとは蜃気楼箱を初めて間もない頃に出会った。クエストでは助っ人として誰かを呼ぶことができ、スケを助けると、ラーナを師匠と言い始めた。
師匠、最初に言われた時は気恥ずかしさを感じたラーナであったが、今ではもうなれた。
「ありがとう、スケ」
「そしてさっそく着ているのですね、竜騎士の鎧を。さすが師匠! よくお似合いです!」
「そう?」
スライムの件で落ち込んでいたラーナだったがスケに褒められて、少し気分が晴れた。
「あんな素早く剣を振るなんて、まるでラーナ様ですね」
「あっ、そうねぇ……」
蜃気楼箱では顔マスクという相手に身バレしないためのアイテムがある。ただマスクとは言っても自分以外の人間にはマスクをかぶってるように見えるだけであり、実際にはかぶってるわけではない。これによって、マスクが肌について気になる人も大丈夫だった。
なので、ラーナは身分を隠してプレイができた。名前もラーナではなく、ナーラにした。
あの英雄ラーナだと、ばれたらいろいろとやっかいだからね……
ラーナはスケに顔をそむけた。
「そもそも師匠は重力レベル2ですよね?」
「ええ、そうよ」
ラーナは再びスケに顔を向けた。
「それで一位なんて、本当にすごすぎません!?」
「へへ、そうかな? まぁでも相手がスライムだったのが良かったのかもしれないわ。」
「えっ何でですか?」
「あっいや、なんでもないよ。だけどあんたもすごいじゃないの8位入賞」
「へへへ、そうでもないっすよ」
スケはまんざらでもない表情を浮かべてそう言った。
「スケもこないだからだいぶスキルが上達してるんじゃないの」
そう自分で言った言葉でラーナはおとといのイベントのことを思い出した。
おととい、あのフィールドにはあんなにプレイヤーがいた。皆、私ほどではなかったけど、剣さばきはなかなか良かったわよね……
例え重力レベルが4、つまり現実世界でも相当できるはず。
じゃあ、皆ギルドに登録しているのかしら? この国は無理でも他国では報奨制度が残ってるって、確かギルドの受付の人が言ってたよね。そのスキルを生かせば、破格の報酬金を得られるチャンスだから。
「そういえば、スケ、あなたの国では、勇者の報償制度ってあるの?」
「えっありますけど」
「じゃああなた、ギルトに登録してるよね?」
「何言ってるんですか、師匠。そんなの無理っすよ」
「なんでよ?」
「現実世界だと、やられたらそこでおしまいじゃないですか。ゲームだとリセットできますからね」
「他の人もそうなのかしら?」
「そうでしょう、ここで剣を振っているのはただ単に楽しいからですよ。」
「そうなのね……単に楽しいからか……あっ!」
ラーナは思わず声を出した。
「すけ、ごめん! 今日のクエストはまた今度!」
「えっ! 今日は僕のクエスト助けてくれるんじゃ……」
「ちょっと急用を思い出しちゃって、ボス戦一人で頑張ってね!」
「そんなぁ~」
ラーナは急いで蜃気楼箱から出て、
ジイのいる執務室のドアを叩いた。
「お嬢様どうしたのですか?」
ジイはドアを開けた。
「ジイ、道場じゃないのよ! やることは同じ。名称を変えるだけよ」
「名称を?」
「スライムパークよ、ここは」
執務室に戻ったはずのジイの声が聞こえ、ラーナは目を覚ました。
「えっ? どうしたの?」
上体を起こすと、ジイの必死そうな顔が見えた。
もしかしてさっきのギルドの賞金上限の嘘がばれたのかと思ったラーナだったが、そうではなかった。
「お嬢様、今、これを伝えとくべきなのか分かりませんが、」
ジイはちらっと壁の時計を見た。
「事前に言いつけられておりましたので、伝えますね。もうすぐイベントが始まるのではないのですか?」
「あっ」
ラーナもその時計を見た。
時計の短針は6、長針は11を指していた。
後5分しかないじゃないの!
ラーナは急いで自分の部屋に戻り、蜃気楼箱を取り出した。
今日は蜃気楼箱内で大きなイベントがあった。
今は参加してる場合じゃないのはわかってはいたラーナであったが、目の前の問題から目を背けたい気持ちのほうが上回った。
まぁ寝るよりかはましだよね
自分に都合の良い理由をつけ、罪悪感を消しながら蜃気楼箱の蓋を開ける。
たちまち霧が現れ、ラーナを包み込む。
ラーナは目をつぶった。
しばらくして目を開けると、辺り一面が草原に広がる空間にいた。まわりには他のプレイヤー達もいる。
やっぱりミッションじゃなく、バトルのほうかぁ。でもそらそうよね。だって賞品はあれなんだから。
イベントには大きく二つに分かれており、一人でミッションをクリアするタイプと今日のようにプレイヤー通しで競い合うタイプがあった。
このイベントは一応オープン戦だ。だから皆、レベル1でやるのだが、
ラーナだけレベル2以上じゃないとだめだった。
以前まではそんなことはなかったが、あまりにもラーナが勝ちすぎたので運営側が世界大会以外では、ラーナのレベル制限が設けられた。
不満はあるけど、しかたないわね……
ただレベル2でも本気を出せば勝てると思えるイベントもこれまで何個かあった。
だがこれでまた何回も勝ってしまうと運営にまた目をつけられるので、ここぞというときにだけ本気を出した。
その本気を出すのが今日のイベントだった。
ラーナは周りをキョロキョロ見ながらしばらく歩いた。そしてフィールドの中央辺りで大きくジャンブした。
フィールドはほぼ透明な壁で覆われている。天井もそうだ。
ほぼ透明、というのには理由があり、近くまで来ると、壁に黄色の点々模様が見える。その模様でプレイヤーは壁だと認識できる。
その壁はトランポリンのような壁なのでダメージは受けない。
そして地上から30メートル程の高さにあるその透明な壁(天井)付近までラーナは飛んだ。そこからゆっくりと降下しながらフィールド全体を見渡す。
ざっと1000人はいるかしら。すごいわね。
ラーナはフィールド内のプレイヤーの数に少し驚いた
でも当然よね。なんたって商品はあれなんだから
「て、あれ?」
とここで、地面に向かって降りながらラーナはあることに気がついた。
「私、腰痛めてなかったかしら。本当に三日で治っちゃった!」
ラーナは心の中でガッツポーズをした。
その後もゆっくりと降下していき、地面に着地したタイミングで、
「皆さん、こーんーにーちわー!」
フィールド前方からマイクを通して男性の大きな声が聞こえた。
その声が合図なのか、フィールドの前後左右の透明な壁がいきなりスクリーンとなり、その声を発した仮面の男が映し出された。
「こんにちわ!」
プレイヤー達がその男の声に呼応して大声で叫んだ。
「今日は争奪戦となります。本日の優勝賞品は!」
じゃじゃじゃじゃじゃじゃん!
「龍の鎧です!」
「待ってました!」
「すごいなぁ!」
観衆から声が上がった。
おお!これよこれよ!
スクリーンに大きく映し出されたその鎧を見てラーナもまた興奮していた。
竜の鎧とは500年程前までは存在していたといわれている竜騎士の、鎧である。
伝説によるとその昔、騎士と竜は契約を交わすことがあった。その契約してる間、竜は剥がれ落ちるうろこをその騎士に上げていたという。その鱗で作られた鎧が竜の鎧と呼ばれている。
なぜ竜は鱗を契約した騎士に渡していたのかは諸説あるが、いまだはっきりとは分かってはいない。
そもそもその竜を操る竜騎士の活躍も書物にはほとんど残っておらず謎のままだ。唯一の物的証拠として、この鎧が残っているが、それでも一部研究者の間では竜騎士の存在を否定する者もいた。
いずれにせよそのミステリアスさも含めこの鎧の人気はすさまじかった。
今現在、鎧は世界の中で十数個しかない。500年もたっているので鱗の色味はあせているが、それでもひとたびオークションにかければ、冒険者が一生をかけて稼げる平均賞金の額の100倍以上の値はつく代物だった。
そしてラーナが今スクリーン越しで見ているものは蜃気楼内でしか着られないいわゆる模造品ではあった。だが鎧の色味は当時の状態を再現しており、その分デザインは本物よりかっこよく、ゲットすれば、この世界(蜃気楼箱内の)で唯一の幻の竜騎士になりきれるので、ラーナも含め皆、このイベントをまちに待っていた。
「これが本日の一位の人のみがゲットできます。その他順位に応じて次の賞品がもらえます。まず二位から五位までは……」
司会者は二位以下の景品について説明し始めたが、ラーナは聞き耳を立てることもせずスクリーンに映し出された竜の鎧に見とれていた。
「さぁ皆さん! これらを巡って戦ってもらいます! さて、その種目は、」
さぁ、ここが大事よ、どんな種目かしら。
ラーナはスクリーンをじっとみつめた。
じゃじゃじゃじゃーじゃん!
「スライム倒しでーす!」
「なんですって!」
ラーナは思わず声をあげてしまった。
それは、今の私にぴったしな競技じゃない!
驚きと喜びのあまりラーナは両手を頭の後頭部にあてた。
「今からスライムが大量放出されます!」
そのアナウンスでラーナは我に返った。
「30分以内に倒した数で競います! さぁさっそくですが、カウントダウンしますよ! 皆準備は良いかぁ?!」
「「「良いよ!」」」
フィールド内の熱気があふれている。
「10!」
「9!」
「8!」
「7!」
「6!」
ラーナは剣を鞘から抜いた。
「5!」
「4!」
「3!」
「2!」
「1!」
「0!!!!!!!!!!」
すると透明な天井が開き、そこから大量のスライムが放出された。
さぁ! 英雄ラーナの剣さばきをとくとみるが良い!
ラーナはすぐさまジャンプし、まるで急な階段を駆けあがるかのように空へと登っていく。
その間、落下していくスライムを剣で次々と蹴散らしていく。
「オラー!スライムども!」
そして天井まで上ると、そこから下を見下ろした。
数秒後、
「今よ!」
ラーナは天井の壁を足で蹴った。
猛スピードで、逆さまの状態のままラーナは落ちていく。
落ちていく。
そしてくるっと回転して上体を戻し、
「さぁ、日頃の恨み!」
持っていた剣を振り上げ、その振り上げた剣をラーナは
「ここで晴らしてくれるわぁ!」
地面に向かって振り落とした。
ダーン
一刀両断。落ちていくスライム数十匹がその剣一振りでスライスされた。
地面に着地したラーナは、今度は地上に落ちたスライムを次々と切りながら駆けていく。
「おい、あいつやべーぞ」
「めっちゃ剣さばきうめー!」
「早くて分からんかったけど、あれ、ナーラじゃない?」
尋常じゃないスピードで草原をかけていくラーナの動きに周りのプレイヤーから感嘆の声が聞こえる。
ふん! 当然じゃないの! 私は英雄ラーナよ
この世界を救った、勇者よ!
竜騎士の鎧は私のものよ!!!
戦いは終わった。ラーナは、一位だった。
◇
「ねぇ聞いて!ジイ 取ったよ! 竜騎士の鎧!」
「それは素晴らしいことでございます!」
「私は世界で唯一の竜騎士なのよ、ジイ」
「すごいことでございます!」
夕食中、ラーナはジイに優勝報告をした。
夜、ラーナは疲れ果てすぐにベットで横になった。
今日はたくさんスライムをやっつけたわ!
だから絶対に今日こそはぐっすり眠れる。
スライムはもういないのよ!
ラーナはそう思ったが
一時間後
ウ―ウーウーウーウーウーウーウーウーウー
「うるさーい!」
ラーナはまた、ベットから起き上がった。
どれだけ蜃気楼箱の中でやっつけたとしても現実世界ではスライムは家のまわりにうようよいるという事実をラーナは認めたくなかった。
翌朝
「おはようございます、お嬢様」
「おはよう、ジイ」
「お嬢様、そのお顔は・・・」
ラーナの目の下にはくまがあった。
「また歌ってたのよ。この合唱、いつまで続くわけ? それに変な夢を見たわ」
「変な夢とは?」
「私がだれかと行き止まりの道を通る夢」
「??」
「まぁそれはどうでも良いのよ。もうどうしたら良いわけ、道場に誰か来なさいよ」
「お嬢様・・・やはり、ギルトに頼む他ありませんよ。冒険者に多額の報酬を払うという理念は素晴らしいですが、このままだと、ラーナ様のお体が持ちません。冒険者が少ないとはいえ、ギルトなら、出稼ぎから戻ってきている人達をすぐに紹介してもらえるはずです」
「だめよ!英雄ラーナのっ……!」
英雄ラーナの名に傷をつけるつもり、と危うくいいそうだったわ。
ラーナはいったん息を飲み込み、そして一拍おいてから、また話し出す。
「とにかくだめよ、道場を開くわよ」
「ですが……」
「ですが?」
「いえ何も……」
「大丈夫よ! 今日の夜はきっと大丈夫!」
ラーナはそう言い放ち、朝食をすぐに済ませ、部屋に戻った。
よし、今日も遊ぶぞ!
ラーナは蜃気楼箱を開けた。
今日は皆に自慢するわ!
プレイヤーコミュニティー広場にきた。
ここでは一緒にクエストする仲間を集めたり、物品交換、後バトルの対戦申し込みができる。
たちまち、ラーナの周りに人々が群がった。
「やっぱかっこいいな! 竜騎士の鎧!」
「良いな、ほしかったなぁ。でもナーラのあの動きを見たらしょうがないよな」
人々から善望の声が聞こえてくる。
えっへん!
この世界で唯一の竜騎士よ! 私は!
夜になり、蜃気楼箱をしまい、夕食にした。
そしてベットによこになった。
今日こそは大丈夫よ!
そう思って、ラーナは目をつぶった。
だがラーナの願いもむなしく、その日の夜もスライムは合唱をしていた。
「はぁどうしてなの?」
朝食を食べながらラーナはため息をついた。
「お嬢様……」
「昨日も誰も来なかったのよね?」
「……はい」
ジイはチラシを増やし、町中に貼ったが、効果がなかった。
「ごちそうさま、どうせ、今日も来ないのよ、きっと」
ラーナは自室に戻り、蜃気楼箱の蓋を開けた。
コミュニティー広場にまた行くと、
プレイヤー仲間のスケが待ち受けていた。
「師匠、おめでとうございます!さすがですね」
スケとは蜃気楼箱を初めて間もない頃に出会った。クエストでは助っ人として誰かを呼ぶことができ、スケを助けると、ラーナを師匠と言い始めた。
師匠、最初に言われた時は気恥ずかしさを感じたラーナであったが、今ではもうなれた。
「ありがとう、スケ」
「そしてさっそく着ているのですね、竜騎士の鎧を。さすが師匠! よくお似合いです!」
「そう?」
スライムの件で落ち込んでいたラーナだったがスケに褒められて、少し気分が晴れた。
「あんな素早く剣を振るなんて、まるでラーナ様ですね」
「あっ、そうねぇ……」
蜃気楼箱では顔マスクという相手に身バレしないためのアイテムがある。ただマスクとは言っても自分以外の人間にはマスクをかぶってるように見えるだけであり、実際にはかぶってるわけではない。これによって、マスクが肌について気になる人も大丈夫だった。
なので、ラーナは身分を隠してプレイができた。名前もラーナではなく、ナーラにした。
あの英雄ラーナだと、ばれたらいろいろとやっかいだからね……
ラーナはスケに顔をそむけた。
「そもそも師匠は重力レベル2ですよね?」
「ええ、そうよ」
ラーナは再びスケに顔を向けた。
「それで一位なんて、本当にすごすぎません!?」
「へへ、そうかな? まぁでも相手がスライムだったのが良かったのかもしれないわ。」
「えっ何でですか?」
「あっいや、なんでもないよ。だけどあんたもすごいじゃないの8位入賞」
「へへへ、そうでもないっすよ」
スケはまんざらでもない表情を浮かべてそう言った。
「スケもこないだからだいぶスキルが上達してるんじゃないの」
そう自分で言った言葉でラーナはおとといのイベントのことを思い出した。
おととい、あのフィールドにはあんなにプレイヤーがいた。皆、私ほどではなかったけど、剣さばきはなかなか良かったわよね……
例え重力レベルが4、つまり現実世界でも相当できるはず。
じゃあ、皆ギルドに登録しているのかしら? この国は無理でも他国では報奨制度が残ってるって、確かギルドの受付の人が言ってたよね。そのスキルを生かせば、破格の報酬金を得られるチャンスだから。
「そういえば、スケ、あなたの国では、勇者の報償制度ってあるの?」
「えっありますけど」
「じゃああなた、ギルトに登録してるよね?」
「何言ってるんですか、師匠。そんなの無理っすよ」
「なんでよ?」
「現実世界だと、やられたらそこでおしまいじゃないですか。ゲームだとリセットできますからね」
「他の人もそうなのかしら?」
「そうでしょう、ここで剣を振っているのはただ単に楽しいからですよ。」
「そうなのね……単に楽しいからか……あっ!」
ラーナは思わず声を出した。
「すけ、ごめん! 今日のクエストはまた今度!」
「えっ! 今日は僕のクエスト助けてくれるんじゃ……」
「ちょっと急用を思い出しちゃって、ボス戦一人で頑張ってね!」
「そんなぁ~」
ラーナは急いで蜃気楼箱から出て、
ジイのいる執務室のドアを叩いた。
「お嬢様どうしたのですか?」
ジイはドアを開けた。
「ジイ、道場じゃないのよ! やることは同じ。名称を変えるだけよ」
「名称を?」
「スライムパークよ、ここは」
0
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『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』
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家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
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