ありがとう工場

天仕事屋(てしごとや)

文字の大きさ
9 / 28

09 減給

 時間は夜の九時を回っていて、工場に戻ると外は真っ暗で静まり返っていた。

 かろうじて配達係の事務所から灯りが漏れている。誰かの気配がある事に少しの安心感を覚えた。
 新米ネズミはバイクを停めて箱を抱え、事務所に向かった。

 ネズミの肩はずっしりと外の暗闇を全部背負ったかように重く、今日一日の疲れがどっと伸し掛かってくるようだった。

 けれどまだ状況を飲み込む事が出来ないような、現実感のない、なんとも言えない気持ちの悪さが新米ネズミを包んでいる。

 いつもより重く感じる箱が『自分は失敗したんだ』とはっきり自覚させる物となっていた。

 
 「失礼します。」

 事務所に新米ネズミが入るとそこにはリーダーよりも少し年上の部長ネズミが座っていた。

 「、、、遅くまで、、すみません。」

 新米ネズミは箱を持ったまま深くお辞儀をする。
 そのまま顔をあげる事が出来ずに、伝票の『チュー太郎』の文字をずっと見ていた。

 「荷物を、取りあえずそこに置いて座って下さい。」

 そう言われて長机に箱を置き、椅子に腰を掛けた。

 「その荷物、届けられなかったんですね。」
 部長が箱を見ながら訊ねる。

 「はい、、。」新米ネズミは俯きながら答えた。

 「この工場のルールを知っていますね?」
 部長は静かに訊ねた。

 「はい、、、。」新人ネズミは固まったまま頷く。

 「取りあえず、、」
 「ルールを破ったとして今後は貰っているお給料を5年間、減らさせて頂きます。」

 「それからこの荷物は必ず、お届け先に受け取ってもらえるまで配達を続けて下さい。」
 「、、送り主に、返す事は出来ないので。」
 「配達完了までは他の荷物の配達は皆に振り分けますので、あなたは今ある荷物を必ずお届けして下さい。」

 静かなトーンで淡々と部長は続けた。
 「、、、以上です。宜しくお願いします。」

 結局最後まで部長ネズミは怒る事もなく、ひとしきり必要事項を伝えると「あと、電気をお願いしますね。」と一声添えて部屋を出ていった。


 後にぽつんと一匹残された新米ネズミは、後悔に苛まれて立ち上がることが出来ずにいた。
 
 ポタリポタリと机の上に涙が落ちる。
 (何故あの時、忘れてしまったんだろう!)
 (あの時、修理係まで箱を持って行かなければこんな事にはなっていなかったのに!)
 次々と後悔が押し寄せて来て涙が止まらなくなった。

 『今すぐ帰ってくれ!!!』

 チュー太郎の声が何度も何度も、頭の中で繰り返される度に溢れ出る涙でネズミの顔はびしょびしょになってそのまま動けず、彼はその後も薄暗い部屋の中で立ち上がることは無かった。


感想 0

あなたにおすすめの小説

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です* 最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

【奨励賞】氷の王子は、私のスイーツでしか笑わない――魔法学園と恋のレシピ【完結】

旅する書斎(☆ほしい)
児童書・童話
【第3回きずな児童書大賞で奨励賞をいただきました】 魔法が学べる学園の「製菓科」で、お菓子づくりに夢中な少女・いちご。周囲からは“落ちこぼれ”扱いだけど、彼女には「食べた人を幸せにする」魔法菓子の力があった。 ある日、彼女は冷たく孤高な“氷の王子”レオンの秘密を知る。彼は誰にも言えない魔力不全に悩んでいた――。 「私のお菓子で、彼を笑顔にしたい!」 不器用だけど優しい彼の心を溶かすため、特別な魔法スイーツ作りが始まる。 甘くて切ない、学園魔法ラブストーリー!

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。