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19 荷物の行方

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 新米ネズミはチュー太郎宅に着くと、箱を荷台に乗せたままにバイクを停めた。
 ドアの前まで来て、思い切り深呼吸するとドアをノックした。

 コンコンコンッ、、、

 家の中から返答はない。

 「すみませーん!」
 「キモチハート工場ですがー!」

 ドアの外から聞こえるように叫ぶと、「はーい」と中から奥さんの声がする。
 しばらく待っていると、

 ガチャッ!、、、

 とドアが開いてそこに現れたのはチュー太郎の姿だった。
 
 新米ネズミは驚いて、無意識に一歩後ろに下がる。
 鼻にお酒の臭いがついてくる。

 チュー太郎はバタン!とドアを閉めて、ゆらりとこちらに体を向けるとボーッと新米ネズミを見つめている。
 「また、荷物ですか?」
 彼はフッと半笑いを浮かべると
 「受取らないって言ったでしょ。」
 そう言ってよろけながら壁にもたれかかってそのまま座り込んだ。またお酒を飲んで酔っ払っている。

 「あの、、受け取ってもらえませんか、、」
 新米ネズミはしゃがみ込んで、もう一度チュー太郎に頼んだ。
 

 しばらく考え込んだ様子のチュー太郎はボソボソと、話し始めた。

 「俺は、、、生まれた時から父親はいなくて、母親とも離れて暮らしていたんだ。」
 「小さい頃はこども園にいて、ずっと母親が会いに来てくれると信じていた。でも一度だって俺にあの人が会いに来る事は無かった。」
 「あの人が病気になって、入院してると聞いても、、一度も会いに行かなかった。」
 「俺は、、ずっと、恨んでいたんだ、あの人の事を。」

 「だから、、、、俺には、受取る理由も資格も無い、、、。」

 そう言ったままチュー太郎は黙り込んでしまった。

 その空気を打ち破るように新米ネズミは言う。
 「でもっ、、、」
 「もし、、受け取らなかったら、この荷物、、、、」

 「廃棄処分になってしまいます!」

 チュー太郎が顔を上げる。
 「廃棄、処分って、、?」

 「だからっ!、、こっちでも勝手に開けられないので、」
 「燃やして処分するしか無くなってしまうんですよ!!」
 自分が抑えられず新米ネズミは半分ヤケクソに言い放った。

 チュー太郎は表情を曇らせたまま黙っている。

 
 「あ、、明後日にまた来ますから!!」

 沈黙に耐えきれずに新米ネズミはそう言うと、後も振り返らずにバイクに跨り走り去ってしまった。 


  
 後に残されたチュー太郎は、呆然と座り込んでいた。
 ドアを奥さんが開けて心配そうにチュー太郎に話しかけるが彼は頷いたものの、ただ遠くを眺めているだけだった。





 
 

 

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