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20 こども園

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 新米ネズミは一日、休みをもらう事にした。
 ここのところ仕事ばかりで、夜寝ること以外に休むことを忘れていたように思う。

 ネズミは何もしないでいるとチュー太郎夫妻と荷物の事をあれこれ考えてしまうので、今日は考えないように取りあえず自転車に乗ってブラブラしてみようと思った。

 疲れた気持ちのネズミであったが、自然と何故か丘の上の『こども園』に向けて自転車は走っていた。

 バッタ野原を抜け、アヒル池の橋を渡る。 
 久しぶりに見る景色に心が少しだけ癒やされた気がした。


 ________________________________

 ネズミの子供達が庭で鬼ごっこをしている。
 キャーキャーと楽しそうな声がこども園のあちこちから聞こえていた。
 
 新米ネズミはこども園の様子を、柵の外の離れた所からぼんやりと眺めている。

 すると園長先生らしき、年配の女性ネズミが園の中から出てくる。

 こちらに気が付いてニコニコと遠くからお辞儀した。

 こちらもお辞儀をしかえすと、自転車ごと少し近付いて、「こんにちは。」
 と挨拶をした。

 「こんにちは。すっかり秋の空になりましたね。」と園長先生は穏やかに話した。そして続けて

 「今日は、配達では無いのですか?」とネズミに訊ねた。
 

 「えぇ、、、。」
 「その、、、ちょっとお聞きしたいことがあって、、。」

 「、、、ここに昔おられたチュー太郎さんの事を、、、。」

 考える間もなく新米ネズミの口をついて言葉が出た。
 その後も荷物の事、チュー太郎さんのお母さんの事、今のチュー太郎さん夫妻の事が次々と口から出てきて気が付いた時には今まであった事を全部、話し終えてしまっていた。


 新米ネズミははっと我に返ると、園長先生は穏やかな表情で話を聞いている。

 話終えると
 「そう、ですか、、、。」
 と少し、含みを込めた顔になり、「こちらにいらして下さい。」
 と園の中に招き入れてくれた。

 
 こども園の廊下には沢山の子供達の絵や写真が飾られている。
 外で遊ぶ子供達の声が遠くに響いて、園の中は柔らかい空気で覆われているようだった。
 
 新米ネズミと園長先生は奥の部屋へと進んだ。
 廊下の奥の園長室のような部屋は、窓から温かな陽が差していて少し冷えていた彼の体を優しく包んでくれるような場所だった。


 園長先生は棚からアルバムと箱を取り出してきて、机の上に置いた。

 「チュー太郎くんとお母様の事は今でもよく覚えています。」

 「実は、、」
 と園長先生はその箱を開けた。

 中には大量のこども園宛の手紙と、お菓子や雑貨などの領収書の控えが入っていた。
 「チュー太郎くんのお母様は毎日のようにお手紙と支援物資などを園に下さっていましたよ。」

 「え、、、?でもチュー太郎さんは」
 「お母さんは一度も会いに来なかったと、、」
 新米ネズミは聞き返す。

 「そうですね。確かにこちらに会いには来られませんでした。」
 「今、チュー太郎くんを引き取っても食べさせてあげられないからと、頑なに会おうとはされませんでした、、。」

 「でも、、お手紙からもわかるように本当に会いたい気持ちで一杯だったと思いますよ。」
 「だから、園からは写真やチュー太郎くんの作った物をお送りするしか無かったんです。」
 「、、この事もチュー太郎くんには内緒にしていて欲しいと言われていました。」

 「少しでもチュー太郎くんに『会いたい』と言われてしまったら、自分が一緒に住みたいと思ってしまうから、、と。」

 「本当にチュー太郎くんとそっくりな、頑張り屋さんで真面目なお母様でしたよ。」
 「チュー太郎くんが結婚した時も、奥さんのお腹に子供が出来た事もお知らせした時には本当に喜んでいらっしゃいました。」
 

 そう言うと、園長先生は優しい目に涙を浮かべてその手紙を何通か新米ネズミに見せてくれた。



 園長先生は「どうか、この手紙をチュー太郎くんに」と新米ネズミに手渡した。

 ネズミはそれを受け取って、園長先生と子供達と若い先生ネズミに見送られながら園を後にした。

 自転車に乗って振り返ると、みんなまだこちらに手を振っていた。
 新米ネズミは自転車を扱ぎながら手を振り返した。

 ススキの揺れる野原の向こうにこども園の皆が小さくなっていく。

 
 自転車を扱ぎながら体勢を整え、前を向くと遠くの丘の上に十字マークのある建物が見えた。

 それはヒマワリ畑にある、夕日ヶ丘病院だった。

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