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21 夕日ヶ丘病院

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 バッタ野原の道を行くと、ヒマワリ畑が見えてくる。その高台の丘に夕日ヶ丘病院が建っている。

 この辺りではとても大きな病院で、チュー太郎宛の荷物の伝票の送り元がここになっていた。



 新米ネズミは初めは興味本位もあったが、今ではチュー太郎さんのお母さんが、どんなネズミだったのかがもっと知りたくなってしまっていた。

 意を決して大きな病院に新米ネズミは飛び込んだ。
 中には沢山のネズミ達が診察の順番を待っていたり、受付で話をしていたり、年老いたネズミ達が話をしながら集まって椅子に座っているのが見えた。

 ザワザワとしている中、新米ネズミは受付でチュー太郎さんのお母さん、チュー子さんの事を尋ねてみる事にした。

 「あのぉ、、、すみませんが、」
 「チュー子さんの事についてお伺いしたいのですが。」

 「はい。えぇと、、もう一度、お願いします。」
 若くて可愛らしい女性のネズミはとても忙しそうに聞き返した。

 「えぇと、、、最近、、亡くなられた、、」
 「チュー子さんです。分かりますか?」

 「あぁ!、、、チュー子さんですか?」
 「ご家族の方ですか?」

 若いネズミの娘は何か思い出したような顔をしたが、すぐに首を傾げながら聞いてくる。
 「い、いえ、、違うんですが、」
 「チュー子さんの事を少し、お聞きしたくて。」

 というと、「少し待ってて下さい。」と奥へ誰かを呼びに行ってしまった。


 少しの間、席で待っていると若いネズミは年配の看護師ネズミを連れて来て、自分はすぐに持ち場へと戻って行った。

 「はいはい。チュー子さんの事ですか?」
 看護師ネズミは言うと新米ネズミをジロジロと眺めている。
 「あの!僕は別に怪しいものじゃないですっ!」
 「配達員で、、手紙を息子さんに届ける途中に寄っただけなのですがっ、、。」

 よく考えもせずここに来てしまった事をネズミは少し後悔した。

 慌てながらもそう答えると

 「配達員さん?!」
 と彼女は手をポンと叩くと『丁度良かった。』と言わんばかりに着いてくるようにと手招きをしながら病院のエレベーターに新人米ネズミを乗せた。

 二階のボタンを押すと
 「チュー子さんね、すごく良い方でしたよ。」
 「私達がお世話する度にお菓子をくれたり、、」
 「自分の事はあまり話されなかったけど、いつも息子さんの事ばかり楽しそうに話されてましたよ。」
 「私達が疲れたな~って思った時には、必ずアメをくれるんですよ!なんでわかるの?顔に出てたかしらぁ、なんて~」
 

 チンッ、、、!

 エレベーターが二階に着いてドアが開くと彼女はピタッと話すのを止めて、スタスタと降りて足早に部屋に向かった。
 呆気にとられながら新米ネズミは必死でそれを追いかけた。


 「ここがチュー子さんの使われてたベッドです。」
 案内された部屋の棚には沢山の写真立てが並べてあって、その写真は全てチュー太郎が幼い頃のもののようだ。
 
 「息子さんに連絡して引き取ってもらうようにお願いしてるんだけど、なかなか取りに来られなくってね、、、」
 「出来れば、箱にまとめて息子さんに届けてもらえると有り難いんだけど、、、」
 そこにはダンボールとガムテープが準備されていた。

 彼女は満面な笑顔でこちらに訴えかけてくる。
 凄い圧で顔に『助かるわ~』と書いてあったので、新米ネズミは仕方なく「分かりました。」と了承した。

 「ありがとう!終わったら受付で教えてね!いやホントにごめんなさいね~!」
 ルンルンで部屋を出ていく彼女に少し呆れてやれやれと、息をついた。

 ともかくこうなってしまったものは仕方がないので、新米ネズミは作業を始めることにした。

 
 作業を始めると思ったより荷物は少なく、衣類や洗面道具以外は文房具とこども園からの手紙とチュー太郎の写真、少量の工作類ぐらいでちょうど一箱に収まる程だった。



 受付で先程の看護師ネズミを尋ねると「ごめんなさいね~!」とお礼に売店のお弁当とお茶の入った袋を抱えた箱の上に乗せた。
 気がつけば、時刻はお昼をとっくに過ぎて夕方近くになっていた。

 「ありがとうございます。」
 と荷物を抱えた新米ネズミは、お弁当が落ちないように控えめにお辞儀をする。

 「息子さんに宜しくお伝え下さい。」と看護師ネズミと対応してくれた若い娘のネズミが笑顔で手を振って見送ってくれる。


 (今日はよく見送られる日だな)と思いながら病院を後にした。


 



 


 
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