覇者開闢に抗いし謀聖~宇喜多直家~

海土竜

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明善寺城の戦い 1

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「八兄い、無事だったか……どこに居るのか分からず、心配で…………」

「連絡が出来ず、済まなかったな」

「お疲れでしょう、直家様。まずは、休まれた方がよろしいかと」

「おお、そうだ」

 大きく相槌を打つ忠家を軽く手で押し止めた。

「いや、休んでいる場合ではない。すぐに明善寺山に城を建てるぞ」

「明善寺山ですか? 確かに龍ノ口城と対をなして、街道を南北から守るのにも、旭川をさかのぼってくる海賊の対策にもなりますが」

「今は何より、備中からの侵攻を食い止める要となる」

「備中ですと? 備中衆は美作に侵攻して、他に回る余裕はないはず」

「他の戦をすべて捨ててでも、備前に攻めてくるさ……何と言っても、宇喜多家は三村家親の仇だからな」

「直家様!」

 長船貞親の悲鳴にも似た叫び声が上がった。幼き日に良く無茶をして、貞親を慌てさせるたびに聞いた声、最近ではめっきり聞く機会もなかった、説教の始まる合図だった。

「一体全体、備中で何をやってらしたのですか! 僅かな兵だけで敵地に入る自体、城主としてあり得ない行為、その上、刺客まがいな行ないまでするとはっ! 兵を動かすなら、まずは退路の確保。後詰の兵の用意。先鋒に猛将、中軍に知将、そして、殿を任せられる勇将を率いて……」

「そうだ、八兄い、俺も連れて行ってくれれば」

「忠家様も、宇喜多家のお立場を考えて貰わなければ!」

 貞親の説教は矛先を忠家に代えてからも長く続いたが、宇喜多家を取り巻く動きは急を要していた。
 金川城の松田元輝を討った事で、三村家も動かざるを得なくなり、養子に出ていた家親の長男の穂井田元祐が現服したばかりの弟の元親を当主にして、弔い合戦に乗り出した。
 暗殺という手段で家親を討たれたと言う事もあり、備中衆の結束はすさまじく、一丸となって備前に攻め込み、次々と城を支配下に収め、旭川を挟んで西側が三村家、東側が宇喜多家と塗り分けられるまでになっていた。
 勢いづく備中衆に、旭川を渡らせないためにも明善寺山の城の建設を急いでいたが、対岸を抑えられているため物資を運ぶのに水路が使えず、城の建設はなかなかはかどらず、完成を見る前に備中・三村家の侵攻が始まった。

「直家様、……昨夜、明善寺城が襲撃され、周囲の村から集まった工夫ら数十人が殺されました」

 当初、龍ノ口城と亀山城へ続く街道で迎え撃つべく兵を配置していた直家にとって、その知らせは驚きと怒りをもたらした。

「直ぐに、明善寺城を取り戻すぞ!」

「お待ちを……。明善寺城に攻めたのは少数。おそらく、こちらの注意を明善寺に向けている間に、三村元親の本隊を進める心算かと。城の奪還は、この花房正幸にお任せください」

 花房正幸の率いる弓隊ならば、高低差の不利があっても易々と城を攻略できる。

「分かった、正幸に任せよう。貞親の部隊は、先へ進み三棹山に陣を敷いて、備中の本隊を正面から迎え撃て、忠家は騎馬隊を率いて側面から攻撃を掛け備前から追い出すのだ」


 画して、数万の兵を船山城に集めた備中衆との戦いは始まった。

「馬鹿め! 低き平地から弓で高きを攻めるとは、兵法を知らぬのか!」

 明善寺城を攻める花房正幸に、備中の根矢与七郎の罵声が投げかけられたが、それに麓から放たれた矢が答えた。

「兵法は知っていても、弓の扱いは知らぬようだな……」

 城を奪い返すのに、僅か半時もかからなかった。
 花房の旗が明善寺城に立った頃、渡河を果たした三村家親の長男・穂井田元祐が八千の兵を率いて、旭川沿いを南に進んでいた。
 明善寺城の兵と合流を目指していたが、長船貞親の千余りの兵を見つけると、押しつぶさんと攻めかかる。
 数では勝っていても、山上で守りを固める相手は攻め難く、明善寺城陥落の知らせに浮き足立ち始めたところへ、宇喜多忠家の騎馬隊に突撃されて、隊列を組みなおそうと旭川の岸に出たが、水上には戸川通安の率いる水軍が待ち受けていた。
 それは三村家の主力を壊滅させたといっても良い成果だった。
 しかし、備中衆の中軍五千を指揮する石川久智は、それさえも捨て石であるかのように、壊滅した先陣の救出に向かう代わりに忠家と貞親の部隊を動かしたために手薄になった宇喜多直家の本陣に向かって進軍する。
 圧倒的に兵数の少ない直家の部隊は、前面に鉄砲を配置して、石川久智の部隊をけん制しつつ、花房正幸を南から河本の部隊を北に移動させ、三方向から一斉に攻撃を仕掛けた。
 数は多くとも、各地の豪族の集まった備中衆の部隊では、穂井田元祐を救出すべきという意見や、石川久智の早急な用兵に反感が芽生えており、一度、劣勢になると各隊がバラバラに後退をはじめ収拾がつかなくなっていった。
 だが、まだ宇喜多家の総兵力の三倍、備中衆の本隊、三村元親の率いる一万五千が残っていた。
 三村元親の本隊は、街道を亀山城へと向かっていたが、各部隊の劣勢を知ると、宇喜多直家の本陣向かって突撃を開始した。
 無論、そのための備えに、直家の本陣の北側に明石景親の部隊を待機させていた。
 しかし……。

「明石隊が動きません! 三村元親の部隊が来ます!」
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