戦国異伝~悠久の将~

海土竜

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逢坂城燃ゆる!

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 堀もなく徳川勢に包囲された逢坂城。
 ここで今、一人の天下人が最後の時を迎えようとしていた。

「真田信繁殿、討ち死に成されました! 徳川の勢い止まる事無く!」

「殿! 最早、落城は時間の問題かと……」

「皆、今までよく尽くしてくれた……」

「うう……、無念です……」

 天下人豊臣秀頼の前に集まった家臣一同が泣き崩れる。
 しかし、天下人秀頼は全てがその手からこぼれ落ちようとしている今でさえ、毅然としてその手を握りしめ天をにらみ返す。

「……それに引き換え、あの老害の狸ジジイめ、父上への恩も忘れて豊臣家を裏切りやがって!」

「……家康公にしてみれば、秀吉公にはそれほど恩義も無かったような?……」

「そうだな、強いて言えば、織田家の人質になっていた時、廊下を歩いていると、バナナの皮で転がされたり……」

「鯉を飼っている池に、釣ってきた鮫を放された事もあったな」

「あの時の『ウッキー! 鮫つえー! ウキキー』という笑い声が今でも耳から離れん」

「えっ? そうなん?」

 父上、何やってたんだ!
 あのサル親父、碌なことしてやがらねぇ……そもそも、サルがどうやって天下取ったんだ?

「いや、そうであっても! 何で俺が責められねばならんのだ!」

「……殿、こうなっては、天下人に相応しい最期を」

「……最後?」

 こいつ何を言ってやがるんだ?
 その血走った眼はなんだ、ただならぬ殺気を感じる……。

「戦に敗れた者の務め! 我々が介錯をいたします!」

 城を囲まれて冷静さを欠いているのだ、今こそこの俺が策を考えねば。
 天下人として誰もが納得する策を!

「いや、ちょっと待て! そうだ! 千姫を返すって言えば、許してもらえるかも!」

「いえ、戦を重んじる武士ならばこそ、ここは殿の首以外、道はありませぬぞ!」

「待て、えっ、何、なんなの? 俺を斬る気なのか? 俺は殿だぞ!」

「介錯です! さぁ、腹をお斬りなさいませ!」

 刀を振りかざす、それも上段に構えて!

「俺の首を差し出して、自分だけ助かるつもりだろう!」

 冗談じゃない、俺だけ死んでたまるか!

「何を言うのです殿! 武士の本懐をお遂げ下さい」

「我々が介錯しますから、痛いのは初めだけです!」

「さぁ、バッサリと!」

 城の外は敵兵に囲まれ、城の中では血走った眼で迫る家臣たちに囲まれ、天下人・豊臣秀頼は最期を迎えようとしていた。

「嫌だ! 好き勝手に生きた父上ならまだしも、何の贅沢も、我儘もしていないんだ! 俺は、まだ死にたくない!」
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