逢禍時

海土竜

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写してはならない鏡

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 鏡とは光を写すべく作られている。
 しかし、光がなければいったい何を映しているのか?
 いくら好奇心に駆られても、鏡に写る闇を覗き込んではならない。
 そこには、光の届かぬ闇が広がっているのです……。


 引っ越しを機に家具を買い替えようかとネットを調べていると、オークションに出されているシンプルな姿見が目についたのです。
 デザインや値段が手ごろということもありましたが、一言だけ添えられていたコメントが、

「闇を写さないでください」と、書かれていたのです。

 闇を写す?
 その言葉に思わず失笑してしまいそうでしたが、それが返って好感を持ってしまったのでしょうか。
 思わずその姿見を購入してしまったのです。

 数日と経たず、大きな荷物が届けられました。
 思ったより重量のある物でしたが、簡単に倒れない安心感を持てて非常に気に入っていたのです。
 しかし、その頃から真夜中になると、カサカサと乾いた衣擦れの音、引きずるような音が聞こえるようになったのです。
 明かりを点けてみても何かがいる様子もなく、風だろうか、気のせいだろうか、と思っていたのですが、どうやら、その姿見のあたりから物音が聞こえている気がしてならなかったのですが、いくら調べても音の原因はわからないままでした。

 そんなある日の事、大雨で家の付近が停電したのです。
 突然部屋の中は真っ暗になり、窓の外から差し込む光も全くありませんでした。
 暗がりの中、テーブルに躓かないように手探りで壁を探していると、カサカサといつもの物音が聞こえてきたのです。
 壁に手を当てて、音のする方へ、姿見のある方へと進んだのです。
 そっと、闇の中を弄るようにそっと手を動かすと、指先が姿見の枠に触れたのでした。
 そして、姿見の表面に沿って指を動かそうとすると、無かったのです。
 そこにあるはずの姿見の鏡面が。

 ですがその時は恐怖よりも好奇心が私の中に湧き上がっていたのです。
 奇妙な音に、鏡面の消えた姿見。
 それがどこへ繋がっているかとの好奇心が。
 恐る恐る姿見の正面へと体を動かしたのですが、そこには光を通さぬ闇が広がるばかり……。
 ただ姿見の枠を握った指先が鏡面のある場所に何もないと、告げているのです。
 そこに何があるのか確かめるため、指先に力を籠め闇の中へ頭を差し込もうとした時、窓の外で光った稲光が鏡面に写る私の顔を照らし出したのです。
 その瞬間、弾けるような痛みが指先を襲いました。
 あまりの痛みに床を転げまわると、いつの間にか電気が復旧したのか部屋の明かりがついていたのですが、安心するどころか自分の手を見てさらに驚愕することになりました。
 鏡に差し込んだ私の指先は、鋭利な刃物で切断されたかのようになくなっていたのです。
 もし、稲光が光ったのが頭を差し込んだ後であったなら……。
 ですが、もうそれを試すことはないでしょう。
 先程、箱詰めした姿見を落札者に送ったところだからです。
 もちろん、唯一の使用上の注意として、
「闇を写さないでください」と、コメントを付けておきました。
 願わくば次の所有者が警告に従ってくれますように。

 しかし、
 どれほど警告されても人間は、闇の魅力には抗えず、引き寄せられてしまうものなのです。
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