俺に7人の伴侶が出来るまで

太郎月

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魔王編

歯車の軋み26

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三度の揺れ、ついに端の方の天井が崩れ落ちた。
誰もいない位置だったことが幸いしたが、天井の罅割れが深くなり、最早どこから落ちて来てもおかしくはない。

ハンスはすぐに周囲を見渡し、頭を巡らす。視界に入るイルラ、ギルバートは、ローザとオーウェンをしっかりと掴んで身を低めている。テオドールは直接見えないが、暗がりの中、柱に背を凭れて座った状態で、アイザックを足の間に挟み込み、揺れに耐えている事がスキカゲを通じて分かった。

ジンとヤマトは────変わらず戦っていた。と言うか、ヤマトの攻撃をジンが避けまくっているだけだが。

リィンは白い、いや、今では少し濁って見える光に包まれ、自分だけ浮いている。逃げようと思えば、リィンだけは逃げられるのだろうか。何かを考え込むように、リィンも天井を見上げていた。

「絶対に」

頭の中で状況を整理し、必死に計算していたハンスの脳内に入り込む、呟き。反射で声の方へ顔を向けると、覚悟を決めた顔をしたシヴァがいる。

「絶対に守り切ってみせます!!」

ハンスから数歩前に出て、ユリウスに並ぶ形でシヴァは両手を上げる。

仄かに光る結界がフロア全体を覆った。

ピイを失ってしまった事が悔しいのだろう。これ以上の犠牲は出したくないシヴァの意思が、ひしひしと感じられる。

感じられるが───


「弱いな」


ロキの呟きと同時に、ついに崩壊が始まった。
一際大きな衝撃音が鳴り響く。間髪入れずに割れた天井が瓦礫と化し、一部が落ちると、連鎖するように剥がれ落ちて来る。

空が見えた。
先程まで遠かった、外の音が大きく響く。

「ドラゴッ!!!」

叫んだのは、ジンだ。

最後の音は、ドラゴが屋根にぶつかった音だったようで、ボロボロの翼をこちらに向け、割れた天井の一部に嵌るドラゴの背が見えた。すぐにドラゴは体勢を立て直すが、無数の飛行型魔物の群れに襲われている。

その数があまりにも多い。

ドラゴは雷で蹴散らし、間を縫って舞い上がる。しかし、横合いから風と炎の攻撃がドラゴに襲いかかった。ギャオ!と声が上がる。巻き添えを食らった魔物達が呆気なく落下していく。

「グルルルルッ!!!邪魔ッ!!!」

火の残滓を払い、攻撃の主であるエゴイラへ向き直るが、周囲を飛び交う別の魔物達が間断なく襲ってくる。エゴイラはドラゴにたかる魔物諸共、無遠慮の攻撃を機械的に繰り返しているようだ。

天井の崩れのせいで、時々視界を遮られ、思わずジンはドラゴの元へ飛ぼうとした。
しかし、崩れ落ちてきた天井の瓦礫を、シヴァの結界が支えている状態だ。ジンが無理に外に出れば、恐らく結界が壊れてしまう。
同じく助けに向かおうと構えていたフィルも、ジンが止まった事を察し、動きを止めざるを得なかった。


ドラゴとエゴイラの攻撃の余波だけで、屋根は更に崩れ落ちる。


シヴァの光の結界にまで、罅が走った。「うう…!」と唸り声を上げるシヴァに、何も手伝ってやれる事がなく流石におろおろするハンス。

見上げていた者達の胸に忍び寄る不安。
それを覆い隠すように、空に夜が訪れた。

シヴァの結界の下に黒い結界が張られたのだ。

「天使、聖女の結界を保ったままでは全力が出せないのだろう。俺が張る、代われ」

気付けばユリウスを挟んで、ロキが並んでいた。
刹那の暗闇に驚いたが、よく見れば真っ暗ではない。新たに空を覆う結界も透けていて、黒いガラスのようだった。

「先生…ありがとうございます。お言葉に甘えます…」

言われた通りにシヴァが結界を解く。
フローラを包む結界もかなり強いもので、フロア全体を覆う程の結界を同時展開することは厳しかった。
カエルムに保管している魔力を使うとしても、まだ戦闘が続くなら無駄には出来ない。

シヴァの結界が支えていた瓦礫が落ちると、ロキの結界に瓦礫が落ちる。その瞬間、まさに脆いガラスのようにロキの結界に罅が入った。

「んんん!?先生ッッ!?」

「矢張り、天使の結界の方が強いようだ」

罅の場所を指さすハンスの慌てた声に、ロキは平然とした様子で答えた。分かっていたのだ。

「そ、それにしても、こんなにすぐ結界が……あの天井、随分と重く感じたのですが、何か関係が?」

シヴァの声も戸惑っている。

「嗚呼、特殊な石材で出来ているんだ。城全体が大きな魔晶石だと思って良い。でなければ、何百年と持つ訳がない」

ロキの冷静な返しに、シヴァは言葉を失った。そんな中、ハンスは少しばかり「特殊な石材…?」とそそられていた。そんな場合ではないと分かってはいる。

再びの衝撃音。揺れる城。更に降り注ぐ瓦礫の衝撃に罅が深まり、ロキの結界に小さな穴が開き始めた。
我に返ったハンスとシヴァ。
シヴァは再び両手を掲げた。

「おい、お前はあの聖女を」

フローラが目覚めると厄介だ。『洗脳』が完璧に解けているとは思えない。解けていたとしても人質にでもされれば、また戦況がひっくり返されるかもしれない。

「分かっております。穴を塞ぎ、補強致します。技術は有しますが、魔力は少量で済みます」

チカリとロキの結界の一部が光った。穴を埋めるように光は次々と点灯し、闇の隙間で瞬く。

まるで、星空。

「無理はしておりません、いかがでしょう」

「………満点だ」

ロキは笑う。星空に掛けたような返答に、シヴァとハンスも微かに笑った。

闇と光が互いを補う。ひと時の夢にも思える幻想的な光景だ。
意識ある者達は、今の現状を忘れ、星空に見惚れた。




そんなものは瞬きの話だ。
ドラゴの『咆哮』により、全員が我に返った。




もう天井は、天井と呼べる部分の殆どを失い、星空の結界の上に瓦礫となって犇めき合う。『咆哮』により瓦礫も結界も震え、罅が更に入る。

「ドラゴ達の戦いの余波が強過ぎるな。結界が破れて下敷きになるか、ドラゴがエゴイラを倒すのが先か。思わぬチキンレースになったな」

冷静に言っているがロキも静かに焦っていた。
受け止めたは良いが、この瓦礫をどうすれば良いのか。




「せ、先生」



ロキの足元に膝をついていたユリウスの声。

誰もが天井に集中していた。だからユリウスが呼ぶまで、誰も気付かなかった。
炎に包まれたピイをユリウスが胸に抱いていると言う、異様な光景を。

「先生、この炎、熱くない」

天井が崩れ落ちた時、ユリウスはピイを抱き寄せた。火傷しても構わない。ピイの亡骸を失くしたくない。そんな気持ちで。しかし、火傷も何もなかった。

炎の揺らめきは感じるが、少しも熱くないのだ。ピイの亡骸の方が温かいくらいだった。

唖然としつつ、ロキに答えを求めるユリウス。ロキの目も、めらめらと燃え上がる炎の中を見て、眉を顰めた。

「………そもそも、どうしてまだ燃えている」

魔術の炎だ。普通の炎より燃焼力が強い。鴉程度の亡骸であれば、燃え尽きてしまってもおかしくない。
それによく見ると、ピイの身体は赤くなっていた。炎が纏わりついて、そう見えるのかと思っていたが、違う。

『バカめら!ソイツは!』

思わず床に放り投げてしまっていた魔王(玉)がビョンビョンと跳ねる。自分だけが知っている答えを教えたがる子供のように自己主張していたが、エゴイラの攻撃余波で再び結界が大きく揺れ、魔王(玉)も驚いて転がってしまう。


その時、僅かな筋肉の動きをユリウスは感じた。
揺れの中、ピイを見下ろす。閉じていた目がスッと開くと共に、翼を大きく広げ、ユリウスの前に飛び上がる。ぐるりと回ると、炎がピイの身体を整えるように巻き付く。

炎色の鳥だ。いや、炎が鳥になったような姿をしている。長く靡く鶏冠、長く枝垂れる尾羽。
美しい炎の鳥。

ロキもハンスもシヴァも目を見開く。

ピイの姿。

ユリウスは息を呑み、




「フェニックス…?」




誰もが思い描いていたその名を紡ぐ。

遥か昔の、著者不明の伝記で初めて確認された名前。長い歴史の中でも数える程しか記録されておらず、今では幻獣と呼ばれ、誰もが創作だと思っていた存在だ。

「どう言う事だ。ピイはカレイドガルダと言う魔物だろう」

『カレイドガルダが火の中で死ぬとフェニックスになる。なんだ、キサマらはホントウに物を知らぬな。滑稽!カカカ!』

ロキの呟きに、カエルムの脚に助けられた魔王(玉)が偉そうに笑う。

奇しくも、ヴァレリオは炎の爪でピイを屠った。死と炎と言う条件が揃ったのだ。

「……火の中…もしかして、ドラゴを怒らせていたのは、わざとかい?」

ユリウスは、火が吐けると豪語したドラゴに飛び掛かっていたピイを思い出す。あの時、ピイは自らの成長を促していたのかもしれない。
それ以前から太々しい態度にはなっていたから、単にドラゴなんて怖くないと言う、意思の表れだったかもしれないが。

「希少種どころの話ではないな。そもそも存在自体信じられてなかったんだぞ。……彼奴は、本当に意味の分からない運を持っているな」

ロキが呆れつつ、遠くで驚いているジンを見て笑った。
ジンもまさか、カレイドガルダがフェニックスの前身とは思ってもみなかった。
珍しいジンの顔を見て、ハンスが「うは!」と笑った。

「ホンット、ジンといると飽きねえな!なんだよ幻の魔物って!引き強すぎ!意味わかんね!涙出てくる!」

ハンスは面白いやら感動するやらで、込み上げる涙を目に溜めて笑う。

「死からの蘇生が条件なんて…そんなの神の御技ではありませんか。そのような魔物と引き合うとは、ジン君は本当にエレヴィラス様に愛されておられますね…」

しみじみとシヴァが囁いた。少しばかり恍惚ともしている。
ジンと違い、声が届かないイルラとギルバートは、何が起きているのか分からず、仄かな困惑を瞳に乗せていた。


天井が落ちて来て、結界が壊れたら漏れなく潰されて死ぬと言う状況にも関わらず、フェニックスの登場に誰もが焦りを忘れていた。


「……ピイ、…姿は変わっても、君はピイだよね」

成長は素直に嬉しい。
だがユリウスは、少しばかりの不安を口にした。

炎を閉じ込めた瞳はピイのまま、目尻をなぞる長い睫毛を伏せた。まるでユリウスに微笑みかけるような表情。鳥なのに妖艶で、麗しい。

ユリウスは心から微笑み返す。




「グルルルルル!!!どけ!!!!」




頭上でドラゴの雄叫びが響く。
スッとピイが嘴を上へと向けた。

「……ドラゴの所に行ってくれるのかい」

以前より強く、ピイの感情が伝わって来る。

「うん、そっか。…頼んだよ、ピイ。どうか僕らを助けてくれ」

生存と進化、引き摺る感動に声を震わせながらユリウスは立ち上がる。ピイは優雅に尾羽を靡かせ、ユリウスの周りを旋回し、そのまま空へと羽ばたいた。

離れていくピイの身体は纏う空気を炎へと変え、どんどん大きくなり、その身が視界を覆う。

ドラゴより少し小さいくらいだろう。その巨体が結界に突っ込み、まるで爆発するかに炎が迸る。

夜が、燃え上がる。

突き抜ける瞬間、瓦礫は焼失したり、爆風により四散したりと、崩壊した結界が完全に消え去った時、ユリウス達の目に飛び込んできたのは、青空だ。
ピイと共に燃え滓や灰も舞い上がり、まるで最初から天井などなかったかのように、大きな穴だけが残った。

「……先生、特殊な魔晶石って言ってなかったすか」とハンスが呟く。

「魔晶石のような特殊な石材と言ったんだ。……まあ、炎には弱かったのかもしれんな」と、まさか一瞬で崩れた天井が灰に変えられるとは。冷静な顔をして奇妙な理論を立てようとするロキ。

「城を造るのに、炎に弱い素材は選ばないんじゃないかな」とユリウスが愉快そうに笑った。

空へと躍り出たピイはドラゴを中心に大きく旋回する。轟々と燃える火焔の翼の羽ばたきだけで、近場の魔物は火だるまになった。熱波に怯んで距離を取る魔物達。ドラゴは纏わりつく魔物達を首で払いのけ、尻尾で叩き落とし、紫の闇火を吐いて燃え落とす。
ピイのおかげで追撃が来ない。ようやく訪れた束の間の休息。ハアと大きく息を吐いたドラゴの背に、ピイがするりと舞い寄る。

背中合わせのピイとドラゴ。

「おまえ!!!熱いぞ!!ボウボウだ!!ボウボウ!なんで!グルル…!」

背中越しにピイに文句を言うドラゴ。熱い、とは言うが、他の魔物達とは違い、ドラゴに火が移る事はない。恐らくピイの意識次第なのだろう。ドラゴが本当に熱を感じているのかも怪しい。
単に燃えているので「熱い」と言っているだけかもしれない。

ふん、とピイはドラゴの文句など気にしていない。無視しているようにさえ見える。いつものピイの雰囲気だ。

「いいか!エゴイラはオレ様がやる!良いな!!言うことをきくんだぞ!」

「返事!」と叫ぶドラゴを無視し、ピイは羽搏く。
一瞬は怯んでいた魔物達だが、各々で鳴き声を上げ、中には『咆哮』しながら再び向かって来た。ピイは滑らかに滑り出し、旋回を始めた。

炎を引き摺る両翼、尾羽。時折、炎が噴き出し、風に乗って散る。襲い掛かる魔物達への鮮やかな炎の応酬。ピイ本人が大きく動くことも、火を噴くなどのあからさまな攻撃手段でもなく、飛び回るだけで勝手に炎が敵を散らしているように見えて、戦いにすら見えない。

優雅なピイと打って変わり、無数の攻撃を浴び続けたドラゴはボロボロだ。エゴイラに向かって牙を剥き、「グールル」と喉を震わせた。白く発光し、それぞれの属性色すら判別が難しくなってしまった半透明な5つ首。
言葉も話さず、周りに集まった魔物達同様に唸り声や鳴き声を上げるだけのエゴイラ。瞳の色もなく、ただ見開かれた目がドラゴを追従してくる。

「お前はエゴイラだけどエゴイラと違う!!ぶっ飛ばしてやる!!」

バチチチ、と食いしばった牙から雷を迸らせ、ドラゴが突っ込んでいく。風の刃がエゴイラから放たれる。ドラゴは隙間を縫うように滑空する。皮膚の一部が切り裂かれても、ドラゴの飛行速度は落ちない。風の刃の切れ目、大きく息を吸ったドラゴの口から雷撃が放たれた。閃光がエゴイラ目掛けて駆け走るが、エゴイラ達は微動もしない。

雷撃は半透明な身を微かに歪ませただけで、後ろへと突き抜けて消えた。身体に巻き付く鎖が大きく震えたが、雷を弾き、罅も入らない。

ドラゴは放った雷撃を目晦ましに距離を縮めていた。エゴイラの首のひとつに食らいつこうとするが、手応え(歯応え)なく、雷撃と同じくエゴイラの身体を突き抜けてしまう。

エゴイラの背後で宙返りしてドラゴは振り返る。

「グルル!!!さっきから当たらない!!なんだお前は!!」

何度も何度も、ドラゴは魔物達の襲撃の隙を見て攻撃していたのに、どれもエゴイラには効かなかった。
今度は背後から闇火を放つ。

結果は同じだ。当たらない。

違ったのは、エゴイラの目線が、ピイに向けられている事だ。
返事こそしなかったが、ピイはドラゴの意図を組み、周囲の魔物を蹴散らす事だけに尽力していた。遠く旋回するピイに向かって、エゴイラの稲妻と水柱が襲う。

距離はある。ピイは上昇して攻撃を避けようとしたが、突如空中に現れた枝葉に阻まれる。枝葉に炎が燃え移る。強行突破しようとしたが、間に合わずに稲妻と水柱がピイを直撃した。

大きな鐘のような声が響いた。高く、空を震わす声。痛みと怒りが入り混じった叫び。
雷の残滓を纏い、ボボボと炎が激しく揺れ動く身を震わせ、ピイは枝葉を散らして空高くに飛翔する。
太陽に身を隠し、大きく翼を羽搏かせた。

一帯に火の粉が降り注ぐ。いや、火の雨か。

「こら!!あちあちだぞ!!」

ドラゴが頭に振ってくる火の粉を払っている。どうやら無差別攻撃のようだ。

慌てるだけで済んでいるドラゴと違い、他の魔物達は火傷をしたり、そのまま燃え盛ったりと、慌て出すのだが、エゴイラは違う。やはり当たらずに通り過ぎてしまう。ドラゴの術で半透明の身が揺らめいたりしたが、それもない。
エゴイラは一斉に首を持ち上げた。視界があるのかすら分からない。太陽に直接顔を向け、一気に五属性を放つ。

火柱、水砲、風刃、蔓鞭、稲光。

理性の欠片もない攻撃は、それぞれで削り合ってはいるが、火の粉を振り払い、空の色を変えながら絡まり、ピイの元へと駆け上る。太陽ごと飲み込みそうな大きな光。

当たる直前、横から搔っ攫うようにドラゴがピイを掴んで逃げた。攻撃は互いの尾を掠めたが、2頭は流星の如く天を横切り、避けた。
ドラゴの両手(前脚)に掴まれていたピイは、突然膨張し、破裂するかに全身を燃え上がらせる。

「だからエゴイラはオレ様がぶっ飛ばすと言っている!!おまえはアッチ!!!」

炎はドラゴの身体にも掛かっているが、それは熱くないらしく、ピイへと指示を出す。ピイではエゴイラの攻撃を躱せない。だから任せろとドラゴは言っているようだ。

ドラゴは滑空するまま手を離した。ピイは翼を広げて風に乗るまま浮き上がり、ドラゴは大きく旋回してエゴイラへ向き直る。そして、互いに風を大きく唸らせ、更に加速する。

ピイは魔物の群れに突っ込み、ドラゴはエゴイラ目掛けて突っ込んだ。

見守る事しか出来ない空中戦。ドラゴの声もうまく聞き取れない。誰もが息を飲んで天を仰いでいた。
ジンはヤマトの両手を掴み、ギリギリと拮抗しつつ隙間で見上げる事しか出来ず、少し歯痒い思いをしていた。

誰よりも早く顔を下ろしたのは、リィンだ。
手に握っていたロケットに目を下ろし、微笑んだ。


「……溜まったよ、これでやり直せる。全部。やり直せるよ」


ぎゅっと握込み、胸元へと押し当てると、リィンは再び扉前へと戻り、地面へと着地した。

「ヤマト。もう良い。仕上げだ」

ジンの耳にも届くリィンの声。目の前のヤマトへと目を向けた。
ヤマトは────泣くのを我慢するように、歯を食いしばって震えている。







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