俺に7人の伴侶が出来るまで

太郎月

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学園編 2年目

男爵家男孫と騎士団長長男 残熱2

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騎士科の教師が寮内で使う部屋は決まっている。ギルバートはその全てを周る気だったが、運良く一部屋目で当たりを引いた。

勢いよく開けたドアの音に驚く騎士科の教諭と、平然としたジンがソファにも座らずに向かい合っている。

「…シュバリエ?どうした」

入室の許可も取らず、ギルバートはずかずかと中へと入り、ジンの横へ並んだ。

「…ジン・ウォーリアの大会出場は俺の責任です。結果が棄権だったとしても、彼は約束を守ってくれただけに過ぎません。決して大会、ひいては騎士科を冒涜、侮辱する目的ではありません。何か疑念があるのならば俺にお尋ね下さい」

後ろで手を組み、姿勢良く教諭へ告げるギルバート。その横顔を眺めていたジンが僅かに目を見開く。
教諭は対照的に大きく目を見開いた。

「…えーと……」

「お前どうした?」

ジンが横から尋ねたが、ギルバートの目は教諭を凝視していた。教諭は戸惑ったように瞬きをした後、腕を組んだ。

「シュバリエ、ウォーリア卿を心配しての事だろうがせめてノックはしろ」

「心配…ではなく、事実を伝えに来ただけです」

「…先生は騎士科で授業をやってみないかと誘いに来たんだよ。断ったけど」

「えっ?」

冷静なジンの声にやっと振り返った。ジンは呆れたような、愉快そうな、奇妙な笑みを浮かべていた。顔が熱くなって来て、ギルバートは教諭へ顔を向ける。教諭もまた、愉快そうな、微笑ましそうな、奇妙な眼差しだった。更に身体まで熱くなる。

「今回の大会を見て、ウォーリア卿の剣術を習ってみたいと言う生徒が名乗り出てな。先生方も興味がある人多いんだ。それで、特別枠で授業して貰えないか打診しに来たんだよ」

「俺は教えるの下手だから絶対しないけど」

「そうかな?そんな事もないように思うけどな」

「そんな事ありますよ」

「なあ、シュバリエ。お前からもお願いしてくれ。友人だろ」

勘違いと早合点に気付いて押し黙っていたギルバートを置いて話していた2人が、再びギルバートへ顔を向けた。静かに2人を見返しては目線を下げる。

(俺が言った所で…そもそも、友人では…)

思ってはいても、居た堪れなく思えて言葉にならない。

「お前が頼むなら教えても良いけど、お前にだけな」

「は?」

「じゃあ、ついでに他の子達にも教えてやってくれないか」

ジンの言葉を理解し切れない内に教諭は食い下がる。

「友人だからです。他の知らない奴らに時間を割きたくないです」

随分な口の聞き方だったが、そもそも男爵であるジンの方が騎士爵の教諭より身分は上だ。学園内だから身分は持ち出さないとは言え、それでもあまり強くは出られない。教諭は諦めきれないように「そうかあ…」と呟いたので、ジンは「すみません」と思ってなさそうに頭を下げる。

「じゃあ俺はこれで。ほら、行くぞ」

ジンが呆然としてるギルバートの腕を掴む。ハッとして2人を交互に見ると、教諭は笑っていた。

「1人で鍛錬ばっかりしてるから、シュバリエ団長も心配してたが無駄だったな。それだけ強い友人が居たら追い付きたくなるのは不思議じゃない。お前は特に真っ直ぐな子だから」

教諭は何か妙な解釈をしているようだ。だがジンが何も言い返さないし、無理に部屋から出ようともしない。ギルバートへ向けた教諭の言葉が終わるのを待っているようだ。

「ウォーリア卿の剣技を習って吸収しろ。騎士科だけでは、いや、騎士だけでは絶対に得られない剣術だ。つまり俺達がいつか、彼の様な剣術を使う剣士や敵軍にぶち当たった時、今のままじゃ負ける。彼の剣術には、それだけの説得力がある。本当に、冗談ではなく、逸材だと思う」

教諭は退役騎士だ。既に60を前にした初老だが、その腕に衰えは感じない。40年前に起こった友好国である西公国の戦争の援軍に行った戦争経験者だ。自国での戦争は100年近く起こっていないので、彼の様な経験者は貴重だった。

「俺が若かったらなあ。君から何としてでもその技術を学びたくて、執拗に追い掛け回しただろう」

その言葉にギルバートは今までの行動を教諭に見抜かれていると思い、更に恥ずかしくなった。ジンに合わせて退室しようと踵を引いたが、次の言葉で足を止める。

「だから俺の代わりにその子の技術を学んで、教えてくれよシュバリエ。お前が、他の子達に」

まるでギルバートならばジンから吸収出来ると思っているような言い回しだ。教諭の目も、それをありありと思わせる。

(俺が?それは)

「無駄ですよ」

微かに込み上げた期待に対する喜びは、喜びと認識するよりも早くジンの言葉で雲散した。はっきりとした、どこか涼やかな声は、ギルバートの心臓を凍り付かせるには十分だ。

先程のシヴァとの会話さえも、罅が入った気がした。

掴まれたままの腕を振り解きたい衝動に駆られる。

「この学園に居る誰に俺の技術を教えても、付いて来れるのはこいつだけです」

そしてあっさりと凍り付いた心を溶かされる。

「まあ、こいつが学んだ事をどう使うかはこいつ次第なんで、俺は何も言いませんけど」

「そうか。ではシュバリエ、期待している」

「え……え?」

「それじゃあ今度こそ失礼します」

今度は無理矢理に引っ張られて後退した。静かに混乱していると、教諭が扉を出る直前に「良い友達だな」と言ったのが聞こえた。止められる事はなく、ジンと2人で共有通路へと戻る道へと出る。

暫く無言で歩く。ジンは何も言わなかったし、ギルバートは頭の中で色々な事を考え込んでいた。

「……お前は、俺に教える気があるのか」

中庭を縁取る列柱廊へ出る手前で、やっと声を出せた。
隣からジンがちらりと目線を向けた。

「うん、つっても、さっき言った通り教えるのって苦手だから、あんま期待しないで欲しいけど」

「…俺の事、嫌がってただろ。どういう風の吹き回しだ」

大会前に追い掛け回した時、ジンは良い顔など一度もしなかった。ギルバートの足が止まる。ジンは一歩先で止まり、振り返った。真っ直ぐと見詰めると、彼の目もギルバートをしっかりと見詰め返してくる。

「大会に出るのも本気出すのも嫌だけど、お前の相手は別に嫌じゃねぇよ。時々面倒臭いだけで」

「……面倒なら」

「面倒なら何だよ。お前だって俺のこと面倒に思ってんだろ。お互い様じゃねぇか」

「………」

図星だった。

「どうすんだよ、教えてくれって言うなら教えてやるけど」

「………教えてくれ」

「気が向いたらな」

「貴様ッ…!」

肩を竦めて歩き出したジンの後を追う。ジンは笑って目線を送って来た。ギルバートの足は、自然と隣へと並んだ。

「ちゃんと負け分は払えよ」

「……ッ…それはもう、無効だろ」

「何で?」

「あんなもの負けではない。と言うか、勝負ですらない」

「バゲットとリンゴは美味かったか?」

「は、はあ?……あ、ああ、まあ、美味かった」

恐らく。あまり味を覚えていない。

「じゃあお前の負けだ」

「何でそうなる!」

「腹にまで納めておいて、今更なしはねぇだろ」

「ただの差し入れだろう!」

「負けた事を自覚してたから食ったんだろ?」

「…ど、どう言う」

バゲットの包紙を思い出す。

『残1、繰り越し』

「言葉のままだよ」

ジンは意味深に笑って、列柱廊へと出た。
秋の終わりの風は少し肌寒い。葉を落とした木々の枝に、ギルバートはやっと季節の移り変わりを感じる。いつの間にこれほど時間が進んでいたのだろうかと。

(…ウォーリアを追い掛けるのに必死で、周りが何も見えてなかったのだな)

中庭の景色として、自主練に勤しむ生徒達も含む光景をぼんやりと眺めた。心の底から切磋琢磨したのは、もしかしたら幼い時の負け試合の時以来かもしれない。

(負けて悔しくなかったのは、達観していたからだとしても、悔しくないと言われて対戦相手達は悔しかった筈だ。俺がそうだったように。…そうか、俺も、同じ事をしていたのか)

数少ない友人達以外、ギルバートの周りには人は集まらない。ストイックで根底が熱血漢だからだ。その上で騎士として潔癖で、剣術への熱意が高過ぎて誰もついて行けていない。理解はしていなくても、肌で感じていた学園での孤独感。

ジンに出会ってからは感じていなかった。それどころではなかったから。

剣を交えた瞬間も、雑念もなくただ勝ちたいと願っていた。負けの悔しさで頭はいっぱいだった。

(……常に、お前を感じていた)

改めて隣人の存在感に驚かされる。ギルバートは密やかに拳を握った。

(…だからと言って、あの負けの代償はおかしいだろ)

列柱廊を歩く2人をチラチラと見る視線にギルバートは気付いていない。ジンの目も、ギルバートしか見ていない。

「まあ、お前に好きな女でも出来たら、負け分は取り消してやるよ」

「……何だ急に」

心を読まれたようで、ギルバートは声が詰まった。

「好きな奴が居る奴を抱く気にはなれないから。お前はどれだけ男を知っても、精神ひとつで元に戻れるタイプだよ」

「…元?」

「好きな女が出来たら、普通に抱けるタイプ。俺との事は犬に噛まれた程度の黒歴史になるだけ」

「……俺の事を勝手に決めつけるな」

「確かに。失礼だったな」

「…なんで女なんだ」

「男好きなのお前?なら、負け分払ってからにしてくれよ」

「………どう言う理屈だ」

確かに、同性愛者の自覚はない。女の方に興味があったし、女といずれ結ばれるのだろうと漠然と思っていた。だが、何故か、ジンの意見は妙に不愉快だ。
眉を顰めた。その時

ーーーパアンッ

と軽快な音がして、尻に衝撃が走った。

ジンに尻を叩かれたのだ。

「貴様、何を…っ!」

ひどい恥辱を感じ、怒りが込み上げて来る。思わず木刀に手を掛けた。

「お前のデカ尻が惜しくなった。だから、野郎を好きになるなら卒業してからにしてくれ」

「意味が分からん!叩く必要もなかっただろうが!」

木刀を引き抜き、そのまま薙いだ一閃はあっさりと避けられた。
飄々とした男は、足取りまで飄々と食堂へと続く扉の方へと進む。

「じゃあなギルバート、早く俺に追い付けよ」

「言われずともだ!!」

「元気で良いなお前は。俺は眠いから帰るぜ」

ひらひらと手を振り、ジンはするりと通路へと消えて行った。吹いた風は冷ややかなのに、ギルバートの胸と身体は色んな意味で熱いままだ。
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