曽根埼心中【推民共和国シリーズ】

２．疑似恋愛型推し活独裁

―――統推暦405年10月14日―――

　新学期が始まって1カ月と2週間ほどが経過した。今日は朝から爽やかな秋晴れである。こんな日は中休みに蹴球、昼に給食を食べたら爆速で帰宅、公園で中休みのダチと缶蹴り、夕方からは宿題、終わったら国王陛下に送る手紙の文面でも考えよう。

「ねね！！昨日の〈音楽の都〉見た！？」
「見たぁ見た！！国王陛下の衣装優勝すぎて溶けそうだった！」

クラスは朝から男女共に、国営放送の音楽番組の司会をやっている国王陛下の新衣装お披露目の話題で持ちきりだ。特に女子は大盛り上がりでちょっとやかましい。俺も端正な顔立ちはしているから見向きされても良いと思うのだが、この年頃の女子はどうも大人な男性が好きなようだ。

　俺の名前は曽根埼隆康、推民共和国の中央部にある山那県山那市に住む、11歳の小学7年生だ。さっき国王陛下に嫉妬しているかのような言い草をしてしまったが、かくいう俺も国王陛下の事を推している人間の1人だ。

国王陛下は“疑似恋愛型推し活独裁”という素晴らしい思想を掲げ、国家運営している。

国王陛下の平均支持率は驚異の99.7％、ブラウンオー〇ルBの歯垢除去率と同じである。
その思想を体現するかのように、国王陛下は多彩な才能を惜しげもなく発揮する。先述の芸能活動もそうで、国王陛下はソロのアイドルとしてコンサートを年に何回か開催し、自分で作詞作曲もしている。
他のアイドルのコンサートに飛び入り参加することもあるらしい。

それもあってか、国王陛下は我が国の事を、国もしくは国家と書いて“ハコ”と呼び、我々一般市民を“親愛なる同担”と呼び愛でている。

　国王陛下が一番力を入れている事業は“定刻鐡道”と呼ばれるこの国家はこの国有鉄道を、総裁として自ら運営していることだろう。定刻鐡道は鉄道事業のみならず、電話などの通信事業、発送電事業も行っており、まさにこの国家はこの生命線である。鉄道網は全国に津々浦々、田舎にも毛細血管の如く路線は伸び、推し活はもちろん、物流、軍事輸送など、幅広く利用されている。

　1時間目の授業は算数である。今から出されるのは復習問題らしい。先生は白墨で板書し終えるとこう言う。

「陛下の弟の葵さんが宮殿を出た15分後に、国王陛下が忘れ物に気がついて追いかけました。葵さんは時速4粁、国王陛下は時速12粁の速さで移動している時、何分何秒後に追いつくか、分かる人？」

このような具合に、国王陛下の思想は教育現場にもしみ込んでいるのである。
この国家はこは国王陛下という、替えの利かない大存在によって成り立っている。