たそがれ色の恋心

空居アオ

文字の大きさ
51 / 63
神戸公演編

-51-

しおりを挟む
 見ればケイは厳しい目をしている。
 容赦のない眼光は、トージが望んだ断罪の剣そのものではないか。
 射竦められて、ますます体が強張る。

 なのにどこかボーとしてしまう。
 これはプライベートではまったくと言っていいほど見られないケイの表情でもあった。
 見惚れずにいられるなら、吾妻統司と名乗る資格はない。

「ヤキモチを焼くってことはさ、裏返せば好きってことだよね」

 そう言って一旦言葉を切り、ケイは表情を変えずトージの反応を窺った。

 …息を詰めているわりに、こちらを怖がっている様子ではない。
 さっきまでの落ち込み方を、地球の内核まで沈みこんだ、とたとえられるなら、今はマントルあたりまで浮上した感じだ。
 ――さすがにいつまで経っても落ち込んでるほどのバカじゃない、とケイは思った。
 だがしかし、真剣に怒っている自分の顔に、今、ここで、トージが(ほんのちょびっとだろうと)不謹慎にもほにゃ~んとなっていることを知れば、どうなったことか。
 別れ話はしない、きっと。
 ただ血の雨は降る、絶対。

「俺的にはむしろ嬉しいけど」

 知らないことは平和の証。
 ケイの眼光は心なしか少し和らいだように見えた。

「ていうかなんでそこで別れるって話になるのかがわかんない」

 わからないと言われて、半分くらい飛んでしまっていたトージの意識が引き戻された。

 わからない…
 確かに。
 なんでだ?
 何がどうなってそういう思考回路になったんだ?
 改めて問われると、実はあんまりよく思い出せないことに気づく。
 あれほど強固に別れるしかないと思っていたのに、今もう一度考えてみれば、そこに辿り着いた経緯が漠然としすぎていた。
 ケイには間違っても言ってはいけないことだが、実は自分でも理解できないと認めたほうが逆に潔いくらいだ。

 言えないから黙るしかないトージに、ケイはお構いなしに話を続ける。

「ぶっちゃけ俺だってトージの周りにヤキモチ焼くよ」

 何を言われたのかわからず、トージが目をすがめる。
 そして続くケイのバツが悪そうな呟きに、トージはマントルの中を漂っていられず、瞬時、地表まで躍り出た。

 ケイの顔は拗ねていることを表している。
 だけどその一枚の表情の下にあるのは、かつてトージが鏡の中で見た自分の顔にそっくり同じだった。



 ――だって、俺だけのトージなのに。



 トージは内臓を鞭で打たれたかのような痛みを覚え、ぶるっと体が無意識に震えた。

 言わせてはいけないセリフ。
 抱かせてはいけない気持ち。

 二人とも同じだったんだとか、ヤキモチ焼いてくれて嬉しいとか、そう自分を納得させられるほどトージの面の皮はぶ厚くない。
 これはケイの言う「好きってことだよね」とは本質が異なる。
 比べることすらできない次元の話だ。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの二人は、スキルを得た事で魔王討伐に旅立つ勇者と彼の帰還を待つだけのただの親友となる。 勇者と親友の無自覚両片想いのじれったい恋愛の物語。

『2度目の世界で、あなたと……』 ― 魔法と番が支配する世界で、二度目の人生を ―

なの
BL
Ωとして生まれたリオナは、政略結婚の駒として生き、信じていた結婚相手に裏切られ、孤独の中で命を落とした。 ――はずだった。 目を覚ますと、そこは同じ世界、同じ屋敷、同じ朝。 時間だけが巻き戻り、前世の記憶を持つのは自分だけ。 愛を知らないまま死んだ。今度こそ、本物の愛を知り、自ら選び取る人生を生きる。 これは、愛を知らず道具として生きてきたΩが、初めて出会った温もりに触れ、自らの意思で愛を選び直す物語。 「愛を知らず道具として生きてきたΩが転生を機に、 年上αの騎士と本物の愛を掴みます。 全6話+番外編完結済み!サクサク読めます。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

薄紅の檻、月下の契り

雪兎
BL
あらすじ 大正十年、華やかな文明開化の影で、いまだ旧き因習が色濃く残る帝都。 没落しかけた名家に生まれた“Ω(オメガ)”の青年・白鷺伊織は、家を救うため政略的な「番(つがい)」として差し出される運命にあった。 しかし縁談の相手は、冷酷無慈悲と噂される若き実業家であり“α(アルファ)”の当主・九条鷹司。 鉄道・銀行事業で財を成した九条家は、華族でもありながら成り上がりと蔑まれる存在。 一方の伊織は、旧華族の矜持を胸に秘めながらも、Ωであるがゆえに家族から疎まれてきた。 冷ややかな契約婚として始まった同居生活。 だが、伊織は次第に知ることになる。 鷹司がΩを所有物としてではなく、一人の人間として尊重しようとしていることを。 発情期を巡る制度、番契約を強制する家制度、そして帝都に広がる新思想。 伝統と自由のはざまで揺れながら、二人は「選ばされた番」から「自ら選ぶ伴侶」へと変わっていく——。 月明かりの下、交わされるのは支配ではなく、誓い。 大正浪漫薫る帝都で紡がれる、運命を超える愛の物語。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

後宮に咲く美しき寵后

不来方しい
BL
フィリの故郷であるルロ国では、真っ白な肌に金色の髪を持つ人間は魔女の生まれ変わりだと伝えられていた。生まれた者は民衆の前で焚刑に処し、こうして人々の安心を得る一方、犠牲を当たり前のように受け入れている国だった。 フィリもまた雪のような肌と金髪を持って生まれ、来るべきときに備え、地下の部屋で閉じ込められて生活をしていた。第四王子として生まれても、処刑への道は免れられなかった。 そんなフィリの元に、縁談の話が舞い込んでくる。 縁談の相手はファルーハ王国の第三王子であるヴァシリス。顔も名前も知らない王子との結婚の話は、同性婚に偏見があるルロ国にとって、フィリはさらに肩身の狭い思いをする。 ファルーハ王国は砂漠地帯にある王国であり、雪国であるルロ国とは真逆だ。縁談などフィリ信じず、ついにそのときが来たと諦めの境地に至った。 情報がほとんどないファルーハ王国へ向かうと、国を上げて祝福する民衆に触れ、処刑場へ向かうものだとばかり思っていたフィリは困惑する。 狼狽するフィリの元へ現れたのは、浅黒い肌と黒髪、サファイア色の瞳を持つヴァシリスだった。彼はまだ成人にはあと二年早い子供であり、未成年と婚姻の儀を行うのかと不意を突かれた。 縁談の持ち込みから婚儀までが早く、しかも相手は未成年。そこには第二王子であるジャミルの思惑が隠されていて──。

転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~

トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。 突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。 有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。 約束の10年後。 俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。 どこからでもかかってこいや! と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。 そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変? 急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。 慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし! このまま、俺は、絆されてしまうのか!? カイタ、エブリスタにも掲載しています。

処理中です...