【本編完結】ソフレだった俺がイケメンの本命に昇格!?

古井重箱

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本編04「俺、幸せです」(本編・完)

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 地下鉄を降りた俺は、アパートに名雪を招いた。

「いつ来ても綺麗に片付いてるね。さすが早峰くん」
「俺、趣味らしい趣味がないんで」
「日々の暮らしに楽しみを見つけるのが得意なんだろう? 素晴らしい長所じゃないか」
「名雪さんってポジティブな言い換えがお上手ですね」
「きみは自分に厳しすぎる」

 ベージュ色のカーテンを開けて、俺と名雪はベランダから月を眺めた。あいにく雲に隠れていて金色の輝きがわずかしか見えない。名雪はそれでも満足そうだった。ストレスが多い彼にとって、天体観測は欠かせないルーティーンなのだろう。

「名雪さん。お風呂どうぞ」
「ありがとう」

 名雪がバスルームにいるあいだ、俺はスマートフォンを眺めた。マッチングアプリをいまだに消去できずにいる。俺の気持ちはすでに名雪に傾いているのに、臆病風に吹かれて先に進めない。
 ソフレから本命になりたいだなんて言ったら、名雪を困らせるだけだろう。
 ベッドに腰かけたままぼんやりしていると、名雪が入浴を終えて戻ってきた。

「上がったよ。ん? 早峰くん、その顔……もしかして悩みごとでもあるの? 俺でよかったら聞くよ」
「……お気持ちだけで充分です」

 俺はバスルームで熱いシャワーを浴びた。シャンプーと一緒に、名雪に対する恋心も洗い流せればいいのに。
 
「お待たせしました」

 湯上がりの俺を見つめる名雪の瞳は艶っぽかった。

「……早峰くんといると、俺はどんどん欲張りになってしまう」
「え……?」
「きみって、健気で純真だよね。そんな子、今まで会ったことがなかった。ずっと手元においておきたくなる……」
「名雪さん……?」
「きみをひどい目に遭わせた男が許せない。きみには……幸せになってもらいたい」

 名雪が俺の腰を掴んだ。美しい顔が近づいてくる。

「んっ……」

 唇を合わせた瞬間、全身に甘い電流が走った。
 名雪のキスは遠慮がちだった。俺の上唇と下唇を舐めたあと、歯列を割ってこなかった。俺はこれまでの男に仕込まれたテクニックを駆使して、名雪と舌を絡めた。ちゅうっという艶めかしい音が耳に垂れ込んでくる。
 俺たちの下腹部は膨らみかけていた。
 名雪の端正な顔が真っ赤になっている。

「早峰くん……っ。ごめん。俺、ソフレの契約を破ってしまった」
「……それは俺も同じです」
「どうしよう。俺たち……こんなんじゃ……」

 俺は感情の昂りに任せて、必死で言葉を紡いだ。

「名雪さん。このまま押し倒してください。俺のことを滅茶苦茶にして、すっきりしてください!」
「それはできない……」
「名雪さんを慰めることができるなら、俺……何をされたって構いません」
「……早峰くん。俺なんかに情けをかけないでくれ。俺は弱い。世間の目からきみを守る自信がない」
「どうして名雪さんだけが頑張るのが前提なんですか? 俺だって一緒に戦いますよ。あなたを守る盾になりたい」

 名雪のアーモンドアイが大きく見開かれた。そして、透明な雫がしたたり落ちた。

「……一番最初に事情を打ち明けた上司には、結婚をすればその病気は治ると言われた」
「ひどい……」
「俺に理解を示してくれる人もいた。でも、俺はその厚意を素直に受け取ることができなかった。マジョリティの人たちから許しを得ないといけない自分が嫌で、情けなくって……この世から消えてしまい。そう願った時もあった」
「ずっと苦しんできたんですね」

 真っ赤に染まった目で、名雪が俺を見つめる。

「俺は臆病者のくせに、誰かに愛されたがってる。呆れただろう?」
「……俺だってかなりのチキンですよ」

 俺は名雪の手を引いて、ベッドへといざなった。
 涙を流し続ける名雪の広い背中を撫でる。

「……名雪さんの痛み、俺にも分けてほしい……」
「早峰くん……。俺は……卑怯者だ。きみの優しさに甘えるばかりで、何も返せない」
「自分を許してあげてください。名雪さんはいっぱい辛い思いをしてきたんだから、ちょっとぐらい誰かに甘えたっていいでしょう?」

 名雪にキスを求められたので、俺は応じた。浅瀬で戯れるような優しいキスが名雪の好みのようだった。俺はちゅっちゅっと弾む唇の音を快く感じた。

「俺、名雪さんが好きです」
「……早峰くん」
「ははっ。絶対に自分から好きって言わないって心に誓ってたのになあ。料理を頑張って、あなたを餌付けしようとしたり。でもそういう駆け引きとか、もうどうでもいいです。俺はあなたの力になりたい」

 俺は名雪の手のひらを、みずからの頬に当てた。そして目を閉じた。
 先ほどまでしゃくり上げていた名雪だったが、呼吸が穏やかになっていった。
 名雪が俺を抱き寄せた。

「俺も……きみを愛したい」

 かすれた声で囁いたあと、名雪は俺に深く口づけた。ふたりの唇が互いの唾液でしっとりと濡れていく。

「……名雪さん」
「早峰くん。俺をテストしてくれないか?」
「えっ?」
「俺にきみと一緒にいる資格があるか、試してほしいんだ」
「それって何をすればいいんですか?」

 名雪の返答は意外なものだった。


▪️


 恋瀬市が誇るケヤキ並木が、無数の電飾で彩られている。
 俺と名雪は、光に囲まれた道を手を繋いで歩いていた。××通りと呼ばれるこの道は約700メートルあるらしい。ちょっと進めばすぐ終わりという長さではない。おまけに周囲は人で溢れている。
 今日はクリスマスイヴだった。
 涙を流した晩、名雪は俺にこう言った。

『イヴの日、××通りをきみと手を繋いで踏破できたら、恋人になってほしい』

 手袋をしていない名雪の指先から緊張が伝わってくる。横顔を見やれば、唇が小刻みに震えている。
 彼は今、いろいろなものと戦っている。きっと、これまでに受けた差別的な言動を思い出していることだろう。
 
「大丈夫ですよ。俺がいますから」
「……ありがとう」

 いつしか雪が舞い始めた。暖色系のイルミネーションに照らされて、雪片の白さが際立っている。
 人が抱える辛い記憶は、真っ白に塗り潰すことはできない。でも、俺たちの未来は生まれたての雪のようにまっさらだ。過去に引きずられることなく、理想の構図を思い描けばいい。
 人混みを泳ぎながら、俺は名雪と手を繋ぎ続けた。名雪もまた、俺の手を強く握り締めていた。

「あれ? 早峰じゃねぇか」
「高木主任」

 奥さんと子どもを連れて歩いていた高木主任と行き合った。名雪の顔がさっと青ざめる。俺は目で「大丈夫ですよ」と合図を送った。

「こちらは名雪さん。俺の大事な人です」
「おおっ、そうか! 高木と申します。いつも早峰くんを酷使してすみませんね」
「……彼は頼れる人ですから」
「さすが、分かってらっしゃる。じゃあ、早峰くんをよろしく!」

 高木主任ファミリーは笑顔を残して去っていった。
 名雪が信じられないという表情で立ち尽くしている。

「……早峰くん。きみは本当に強いね」
「俺、名雪さんのことも高木主任のことも大好きです。だから嘘はつきたくない」
「すごく大きなクリスマスプレゼントをもらったよ。本当にありがとう」

 その後も俺たちは指先を絡め合ったまま××通りを歩いた。
 行き止まりにある公園が見えてきたところで、名雪が笑った。

「さっき、会社の子とすれ違った」
「えっ」
「挨拶はしなかったよ。向こうもお楽しみの最中だったみたいだし」

 名雪はゴールである公園に足を踏み入れると、俺を抱き寄せた。

「もう迷わない。言いたい奴には言わせておく。ジロジロ見たい奴は放っておく。俺は……きみと生きていきたい」
「俺もです」
「見て。あんなに遠くに光が輝いてる。俺たち、すごい距離を一緒に歩いてきたんだね」
「これからも、いろんなところに行きましょう!」
「ああ。早峰くん。俺とずっと一緒にいてくれ」

 俺たちは唇を重ねた。


▪️


 名雪の部屋に着いた。
 俺たちはソフレの契約書をローテーブルの上に広げた。名雪はソフレの三原則が記された契約書を、細かく千切っていった。ただの紙くずと化した契約書を名雪がゴミ箱に放り込んだ。

「早峰くんもスマホの画像を消去して」

 俺は名雪の指示に従った。マッチングアプリも退会した。
 もうこれで俺たちを縛るものは何もない。心臓がうるさく暴れ回る。今夜はただの添い寝では済まないだろう。
 緊張しているのは名雪も同じようで、スマートフォンを何度もいじったり、「お茶でも飲む?」と俺に訊ねてきた。
 
「あの……月を見ませんか」
「そうだね。いつもみたいに」

 俺たちは隣り合ってベランダの前に立った。窓を開け放つと冷たい風が吹いてきた。
 丸い輪郭の月が金色の輝きを放っている。
 
「綺麗ですね」
「……きみの方がもっと綺麗だ」

 名雪の唇が近づいてきた。俺たちは舌を絡め合った。名雪の舌遣いはこれまでに味わったことがないほど濃厚なものだった。窓から届く夜風の冷たさが気にならないほど、体が火照っていく。
 そわりと背中を撫でられて、俺の目はとろけていった。

「早峰くん。俺は……きみにもっと触れたい」
「名雪さん……」
「俺を受け入れてくれるか?」

 返事の代わりにキスをする。
 性器が膨らみかけたところで、風呂の準備が整ったことを告げるアラームが鳴った。

「名雪さん、お先にどうぞ」
「うん」

 俺はリビングでドキドキしながら名雪を待った。
 やがて、名雪がシャンプーのいい匂いをさせながらリビングに戻ってきた。
 次は俺の番だ。

「寝室にいるから」
「はい……」

 バスルームに到着した俺は、入念に体を洗った。名雪の長い指を思い描きながら後ろを清める。あの指で触れられたら俺はどうなってしまうだろう。

「上がりました……」

 ルームウェアを着て寝室に顔を出すなり、名雪に抱きしめられた。名雪の美しい瞳には切実な光が宿っていた。優しく口づけたあと、名雪が俺の肩に体重をかけてきた。
 拒む理由なんてどこにもない。俺は名雪に押し倒された。
 名雪が瞳を震わせながら囁いた。

「こういうことは……その、久しぶりで。上手くできないかもしれない」
「俺はあなたに触れられるだけで嬉しいです」
「可愛いね……。きみは本当に可愛い……」

 柔らかな抱擁が俺を包み込む。
 名雪がセックスにためらいがあるのならば、今夜はこうやって抱き合っているだけでいいかもしれない。そう思っていると、ルームウェアの隙間から名雪の手が忍び込んできた。
 ふたりの呼吸が荒くなる。
 名雪の熱い指先が乳頭を押し潰すたび、俺は甘えた声を上げた。

「ここ、弱いんだ?」
「……はい」

 男の乳首は最初から感じるようにはできていない。俺が触れられるだけでよがるようになったのは、これまでの男に開発されてきたからだ。名雪も俺の過去を意識しているようで、複雑そうな表情をしている。

「俺……汚いですよね。いろんな男に犯されてきたから」
「そんなことない! 俺が全部、上書きしてやる」

 名雪の手つきがねちっこくなった。俺の胸の粒を指先で弾いたり、円を描くようにこね回したり、どんどん淫らになっていく。俺は与えられた快感を受け止めきれず、腰を泳がせて名雪の愛撫から逃げようとした。
 ぐっと腰骨を掴まれたうえに、ルームウェアを喉元までまくり上げられる。
 空気にさらされてピンと尖った俺の乳首に名雪が吸いついた。そしてちゅぱちゅぱと音を立てて、芯を持った突起を舌で転がした。

「あっ、名雪さん……っ」
「早峰くんのここ、すごく綺麗な珊瑚色をしてる……」
「俺、淫乱ですよね。こんなに嬉しそうに声を上げて……」

 涙ぐむと、あやすようなキスをされた。名雪のぬくもりに浸りながら俺は幸せを感じた。他の男にさんざん暴かれた体なんて厭わしいだろうに、名雪は俺の全身にキスを落とした。

「……俺はどんなきみでも受け止める」
「んっ、あぁっ! もっと……!」

 乳首を甘噛みされれば、俺のペニスがぴくんと勃ち上がった。名雪が俺の着ているものをすべて取り払った。そして彼もまた裸になった。
 名雪の性器も角度を持っていた。
 美しい顔からは想像もつかないほど、獰猛そうな外観のペニスである。幹は太く、てらりと黒光りしている。名雪の先端からはカウパーが滴っていて、俺の太ももを濡らした。

「すまないが手加減できそうにない」
「大丈夫です……。俺、痛いのも苦しいのも慣れてるから」
「そんな真似はしないよ。……ああ、くそっ。俺は小さい男だな。きみの過去の男のことを考えると、頭が爆発しそうになる」
「俺はもう名雪さんのものです。名雪さんの好きにして?」
「じゃあ、逃げないでくれよ?」

 名雪はかがみ込むと、俺の竿にちゅっちゅっと口づけた。朱鷺色のそれがぶるぶると嬉しそうに震える。名雪はすでに硬く張っている俺のペニスを上下に扱いた。妖しげな指先が先端に達した時、俺はつい、物欲しそうな視線を送ってしまった。名雪が鈴口をぐりぐりと指の腹で刺激する。

「あぁんっ! いい……っ。気持ちいいよぉ……っ」

 快楽に任せてはしたない言葉が漏れる。名雪は俺が乱れても嫌そうな顔はしなかった。繊細な舌遣いで俺の亀頭を舐め回す。

「出ちゃいますっ! 離してください!」
「全部俺にくれ」
「名雪さん……っ」

 腰が重だるくなったあと、体が発光しそうなほどの興奮が襲ってきた。視界がちかちかと明滅する。俺は体の奥からせり上がってきた欲望を解き放った。ぴゅんっと勢いよく飛び出た白濁が名雪の口元を濡らす。名雪は俺が放ったものをぺろりと舐めたあと、喉を鳴らして嚥下した。
 俺はすぐさま名雪と唇を合わせて、舌を絡ませた。精液の青くささが消えるまで名雪と唾液を混ぜ合わせる。名雪は俺の尻肉を揉んだ。

「まだまだ足りない。早峰くん、後ろ向きになって」
「……あっ、あの。一体何を……?」

 名雪が望んだように四つん這いになって、尻を向ける。名雪は俺のアヌスに舌先を這わせた。

「あっ!? そんな……っ」
「可愛い。つぼみみたいだ」
「やあっ! だめですっ! そんなこと、あなたにさせられません」
「早峰くん。恥ずかしがらないで。俺の愛を受け止めてほしい」

 名雪は俺のアヌスを丁寧に舐めた。皺の一つひとつまで覗き込まれているのかと思うといたたまれない。

「こんな風にされるのは初めて?」
「はい……」
「そっか……」

 声に喜色が滲んでいる。名雪は俺の入り口をねろりと舐めたあと、布団の脇に置いてあったローションを手に取った。

「ちょっと冷たくなるよ」
「はい」

 アヌスにひやりとしたローションが塗りつけられる。名雪がゴムを装着しようとする。俺は名雪の手を制して、太い竿を咥えた。ちゅぱっと粘ついた音を立てながら名雪のペニスを味わう。目を閉じてももう、昔の男の姿は浮かび上がってこない。俺は名雪の悦点を探した。彼はくびれをなぞられるのが好きなようだった。

「早峰くん……っ! 俺はきみにそこまでさせる気はない」
「俺、好きな人には尽くしたくなるんです」
「んんっ! だめだ、イくっ!」

 名雪の肉棒がビクビクと跳ねて、白濁が俺の口内に発射された。俺は名雪の精液を飲み込んだ。こんなに綺麗な人でも、コレは雄くさい味がするんだ。俺がとろけた目で見上げれば、名雪にかぶりつくようなキスをされた。

「きみは……ふだんは純真なのに、すごくエッチなんだな」
「引きましたか?」
「いや、すごく可愛い。理性が吹き飛びそうになるほど可愛い。もっと気持ちよくさせてあげたくなる……!」
「あぁっ、名雪さん……っ」

 乳首をぎゅうっと指で挟まれて、俺は歓喜の声を上げた。
 俺の胸の突起は両方とも充血していて、色味が濃くなっている。名雪は俺の腰の裏側に枕を入れると、尻を浮かせた。そしてアヌスを覗き込みながら、指先を俺のナカに挿れた。

「あ、あぁっ」
「すごく絡みついてくる……」

 これまでの男によって開発済みの俺のアヌスは、名雪の初々しい愛撫を煽るようにきゅうっとすぼまった。内壁がにゅくにゅくと蠕動する。「はぁん……っ」と鼻にかかった声を漏らせば、名雪が俺の乳首を舐めながらアヌスを拓いていった。

「指、増やしても大丈夫ですよ」
「早峰くんのナカ、あったかいね」

 名雪はそろそろと二本目の指を挿入した。指の節くれだったところが悦点に当たり、俺はあんあんと喘いだ。名雪に内側を暴かれることが嬉しくてたまらない。

「俺、やっぱり淫乱ですよね」
「感じてくれてるんだろ。可愛いよ」
「今さら清純ぶったところで無駄かな。俺はいろんな男のおもちゃになってきた……」
「早峰くん……。俺はきみの傷を癒したい」
「じゃあ、もっと激しく抱いてください。過去なんて吹き飛んでしまうほどに」

 三本目の指が俺のナカを満たした。
 ぐちぐちという粘っこい音が立てながら、狭い道がこじ開けられる。名雪は俺のアヌスを慣らすあいだ、キスを絶やさなかった。この人はどこまでも優しい。俺はねっとりと舌を絡ませながら幸せを味わった。

「名雪さんが好きです」
「俺だって。きみが大好きだよ」

 名雪は再び勃起していた。
 俺は雄々しくそそり立ったモノに頬ずりをした。

「ゴムをつけさせてくれ」
「そういうところも紳士ですね」
「きみに負担をかけたくない」

 ゴムを装着した名雪はかしこまった表情になった。

「俺を……受け入れてくれるかい?」
「はい」

 俺は膝と膝を大きく離して、名雪にアヌスをさらした。
 名雪の腰が近づいてくる。硬いモノが当たった感触がしたあと、みちみちと肉筒が満たされていった。名雪は俺を貫いたあと、大きく息を吐いた。

「すごく……あたたかい」
「名雪さんっ」
「動いてもいい?」
「大丈夫です」

 遠慮がちに始まったピストンが激しくなっていく。俺は名雪に揺さぶられながら、汗の玉をシーツに振り撒いた。名雪の先端が俺の最奥部をトントンとノックする。言いようのない多幸感が降ってきた。

「あ、あぁっ! そこ……すごくきちゃう」
「苦しくない?」
「俺……名雪さんに支配されたい」
「早峰くん……。あんまり煽らないでくれ」

 じゅぽっじゅぽっと音を立てながら、名雪のペニスが俺のナカを往復する。悦点を擦られるたび、俺の声は跳ね上がっていった。

「すごい……。吸い込まれそうだ」
「名雪さぁん……っ。ごめんなさいっ。俺、名雪さんにエッチなことされるの、大好きです」
「謝らなくていい。きみに満足してもらえるように頑張るよ……」

 名雪が俺の乳首をくにくにとこね回した。第二の性器のように開発済みの器官をいじられて、俺は悦びに打ち震えた。アヌスがきゅうきゅうと締まっていく。

「あんっ。あぁ、……っ」
「きみは声も顔もカラダも、全部可愛い」
「名雪さんのおっきいの……、気持ちいいです……っ。もっと動いてっ」
「早峰くん……っ。きみは俺の、俺だけの……っ!」

 ピストン運動が速まった。
 名雪はぶるりと腰を振るわせると、大きく息を吐いた。俺のナカでイッてくれたんだ。嬉しさのあまり涙が出てきた。
 すっかり大人しくなったペニスを引き抜くと、名雪はゴムを取り去った。俺は精液の匂いが残っている肉棒にちゅぱりと口づけた。
 名雪が俺の髪を撫でる。

「……きみって結構、大胆なんだね」
「嫌いになりましたか?」
「まさか。可愛いらしすぎて、気持ちに歯止めが効かないよ……」
 
 俺たちはキスを交わした。

「きみのこと、大事にするから」
「俺は名雪さんに壊されたいです」
「……またそういうことを言う」

 バスルームで体を清めたあと、俺と名雪は布団に入った。俺たちはもうただのソフレではない。俺は名雪の広い背中に抱きついた。

「早峰くんって実は甘えん坊?」
「……はい」
「まだまだ俺の知らないきみがいるね。これから沢山教えてくれよ」

 名雪は寝室を出ると、水が満ちた琉球グラスを持って戻ってきた。俺は気泡が浮かんだ厚みのあるグラスの表面をそっと撫でると、口をつけた。冷えた水はとても美味しくて、俺は一気に飲み干してしまった。
 
「おかわり要る?」
「大丈夫です」

 肌を合わせることによって、傷ついた記憶のかけらを溶け合わせることができただろうか。俺は名雪の首に腕を回した。名雪は甘えたがりの俺を拒まず、好きにさせてくれた。

「愛してる」
「俺もです……」

 そして眠りの時間がやって来た。俺たちは手を繋ぎながら布団に横たわった。
 俺は夢の中でも名雪の姿を探した。


▪️


 日曜日のプラネタリウムは家族連れと男女のカップルで満席だった。
 俺と名雪は一番後ろの席に座った。
 アナウンスが流れ、プログラムが投映される。ナレーションに耳を傾けていると、名雪の手が俺に近づいてきた。
 俺たちは手を繋いだ。好きな人と肩を寄せ合っていると、自分が強くなれる気がする。
 宇宙の始まりに関する説明がなされる。それは壮大なスケールの叙事詩だった。同じ星に生まれて、こうやって名雪とめぐり逢えたことは奇跡なんだなと改めて思う。名雪の大きな手から伝わってくるぬくもりが愛おしくてたまらない。
 約45分間のプログラムが終わったあと、俺たちはプラネタリウムを出た。そして、高台から恋瀬市の街並みを眺めた。薄青い冬空が俺たちを見下ろしている。

「東京に比べてビルが少ないでしょう? やっぱり田舎ですよね」
「いや。きみの生まれた街だ。俺にとっては特別な場所だよ」

 名雪は俺の腰を抱くと、耳元で囁いた。

「エリア限定職の希望を出そうと思っている」
「えっ? でもそれじゃ、ずっと恋瀬とその近県を回ることになるでしょう? それでいいんですか」
「俺はきみと暮らしたい」
「……名雪さん」

 彼の目に迷いはなかった。先ほど見たプログラムの、一等星のように強い輝きが宿っている。

「返事は今度聞かせてくれ」
「いえ。もう俺の答えは決まってます。俺も名雪さんと一緒に生きていきたいです」

 冬風が吹きつけてきて、俺と名雪の髪をもてあそんだ。立っているだけでしんと冷えてくる。恋瀬市の気候は厳しい。
 でも、そんな北国でもいいと名雪は言ってくれたのだ。俺は背中から翼が生えて、空に舞い上がりそうなほど嬉しかった。

「俺、写真を撮ってきます」
「どうぞ」

 名雪の元を離れ、天文台をスマートフォンのカメラで撮影する。俺は最近、写真を始めた。本格的なカメラを買うまでには至っていないが、気に入った景色があれば記録するようにしている。
 俺は、これまでと同じ過ちを繰り返したくなかった。名雪にべったりと依存してしまったら進歩がない。
 写真を撮ることは、自分自身との対話に似ていた。これだというアングルを探すあいだ、俺は俺自身に問いかける。おまえは何が好きなんだ? 何に感動しているんだ? その答えを見つけてシャッターボタンをタップする時、俺は新しい記憶のかけらを得る。
 そうやって集めた記憶のかけらは俺という人間を形作るコアになることだろう。廃瓶を美しい工芸品としてよみがえらせた琉球ガラスのように、俺も過去の傷に負けず、新しい自分に生まれ変わっていきたい。
 名雪は俺のそんな小さな挑戦を温かく見守ってくれている。

「ありがとうございます。ばっちり撮れました」
「よかった」
「そろそろ帰りませんか?」
「うん」
「……寒いから、あっためてください。今日も」

 小声で告げると、名雪ががばりと抱きしめてきた。

「ああ、もう! なんて可愛らしいおねだりなんだ!」
「……あ、あの。一応、人目がありますから」
「そうだね。きみが恥じらう姿は、俺だけのものだ」

 名雪のアーモンドアイが細められた。俺もまた微笑みを返した。
 透き通る冬空の下、俺と名雪は幸せを分かち合った。




(本編・完)
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