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自己開発済みの平凡くんが美形司書さん司書さんに抱かれて、欲しかったものを手に入れるお話
前編
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出会いを求めてバーに通うようになってから気づいた。
俺という男はタグなし野郎である。
イケメンとかガチムチといった外見的な特徴はもちろん、陽キャとかツンデレといった分かりやすい属性も持ち合わせていない。
平凡な顔立ちで、無個性。服装も地味。
話を振られれば喋るけど、基本的には聞き役。
そんな俺を可愛いと思ってくれる人が都合よく現れるわけはなく、今日も俺はバースツールを温めている。
「マスター。カルアミルクちょうだい」
「はいよ」
地方出身の俺にとって、マスターは東京のお父さんのような存在だ。恋愛だけじゃなく職場の人間関係についても相談できる。今夜もまたマスターに甘えてしまおうか。
でもそれじゃ進歩がないよな。バレンタインデーも近いことだし、相手を探さないと。
俺はフロアを見渡した。いくつかグループができていて、みんな楽しそうだ。今夜の相手を見つけて、店の外に消えていくペアも何組かいる。
そんな中、新入りさんがイクミに絡まれていた。イクミはコケティッシュな魅力があるネコだけど、少々強引なところがある。新入りさんはイクミに腕を掴まれ、困ったように眉尻を下げている。
「イクミ。今日、ヒサトさん来るってよ」
「本当?」
ヒサトさんはイクミの本命だ。
このバーの常連客のうち一、二を争うほどのイケメンで、大手商社に勤めるエリートである。イクミは新入りさんから離れると、化粧室へと走っていった。髪を整えたり、リップを塗り直したりするのだろう。分かりやすい奴だ。
俺が新入りさんに「どうも」と挨拶をすると、深々と頭を下げられた。
「助けていただきありがとうございます」
「イクミは悪い子じゃないんです。ちょっと寂しがり屋で」
「お名前は? 僕は月原蒼一郎と申します。27歳で、大学図書館の司書をやっております」
フルネームを名乗ったうえに、年齢と職業までオープンですか。蒼一郎さんは遊び慣れていないんだなあ。
「俺は日野圭太。25歳です。ちっちゃな広告会社でスーパーのチラシ作ってます」
「DTPオペレーターですか?」
「そうそう。それです」
「すごいですね。僕、図書館の広報誌を作るのにいつも手間取っちゃって。デザインのセンスがある人って憧れるなあ」
「いやあ。俺はコンペで勝ったことないし。凡才ですよ」
蒼一郎さんはメタルフレームの眼鏡がよく似合う、和風のイケメンだ。涼やかな一重が笑うときれいな弧を描く。薄い唇も形がよくて、俺は思わず見惚れてしまった。
俺は特にチャームポイントなど持ち合わせていない。蒼一郎さんはバーを出たら俺の顔を忘れることだろう。
「日野さんはこのお店に前から通ってるんですか」
「圭太って呼んでください。俺も……蒼一郎さんって呼びたいから」
「分かりました。おっと、敬語もやめた方がいいかな?」
「はい。できれば」
初対面とは思えないほど、蒼一郎さんは話しやすかった。司書というだけあって博識で、どんなトピックを振っても的確な答えが返ってくる。
ふと視線を感じたので、カウンターに顔を向ければ、マスターが「早く帰りな」というサインを送ってきた。
えぇっ。
お持ち帰りしろってこと?
「あの……蒼一郎さんってどっちですか?」
「どっちというと、住んでるエリアのこと?」
「いや。タチかネコか」
「ああ……」
蒼一郎さんはしばし沈黙した。
俺は思わず拳をぎゅっと握りしめた。もしも蒼一郎さんがネコ希望だったら、俺のほのかな想いは潰えてしまう。
「僕……男の人と付き合ったことがないんだ」
「ノンケなんですか?」
「いや……。女性と交際しても、キス以上の関係には進めなかった。言いづらいことだけど、アレが反応しなくて」
「蒼一郎さんってネコ?」
「いや。僕はタチ希望だ」
「……じゃあ、俺と試してみます? 俺、ネコなんだけど」
俺という男はタグなし野郎である。
イケメンとかガチムチといった外見的な特徴はもちろん、陽キャとかツンデレといった分かりやすい属性も持ち合わせていない。
平凡な顔立ちで、無個性。服装も地味。
話を振られれば喋るけど、基本的には聞き役。
そんな俺を可愛いと思ってくれる人が都合よく現れるわけはなく、今日も俺はバースツールを温めている。
「マスター。カルアミルクちょうだい」
「はいよ」
地方出身の俺にとって、マスターは東京のお父さんのような存在だ。恋愛だけじゃなく職場の人間関係についても相談できる。今夜もまたマスターに甘えてしまおうか。
でもそれじゃ進歩がないよな。バレンタインデーも近いことだし、相手を探さないと。
俺はフロアを見渡した。いくつかグループができていて、みんな楽しそうだ。今夜の相手を見つけて、店の外に消えていくペアも何組かいる。
そんな中、新入りさんがイクミに絡まれていた。イクミはコケティッシュな魅力があるネコだけど、少々強引なところがある。新入りさんはイクミに腕を掴まれ、困ったように眉尻を下げている。
「イクミ。今日、ヒサトさん来るってよ」
「本当?」
ヒサトさんはイクミの本命だ。
このバーの常連客のうち一、二を争うほどのイケメンで、大手商社に勤めるエリートである。イクミは新入りさんから離れると、化粧室へと走っていった。髪を整えたり、リップを塗り直したりするのだろう。分かりやすい奴だ。
俺が新入りさんに「どうも」と挨拶をすると、深々と頭を下げられた。
「助けていただきありがとうございます」
「イクミは悪い子じゃないんです。ちょっと寂しがり屋で」
「お名前は? 僕は月原蒼一郎と申します。27歳で、大学図書館の司書をやっております」
フルネームを名乗ったうえに、年齢と職業までオープンですか。蒼一郎さんは遊び慣れていないんだなあ。
「俺は日野圭太。25歳です。ちっちゃな広告会社でスーパーのチラシ作ってます」
「DTPオペレーターですか?」
「そうそう。それです」
「すごいですね。僕、図書館の広報誌を作るのにいつも手間取っちゃって。デザインのセンスがある人って憧れるなあ」
「いやあ。俺はコンペで勝ったことないし。凡才ですよ」
蒼一郎さんはメタルフレームの眼鏡がよく似合う、和風のイケメンだ。涼やかな一重が笑うときれいな弧を描く。薄い唇も形がよくて、俺は思わず見惚れてしまった。
俺は特にチャームポイントなど持ち合わせていない。蒼一郎さんはバーを出たら俺の顔を忘れることだろう。
「日野さんはこのお店に前から通ってるんですか」
「圭太って呼んでください。俺も……蒼一郎さんって呼びたいから」
「分かりました。おっと、敬語もやめた方がいいかな?」
「はい。できれば」
初対面とは思えないほど、蒼一郎さんは話しやすかった。司書というだけあって博識で、どんなトピックを振っても的確な答えが返ってくる。
ふと視線を感じたので、カウンターに顔を向ければ、マスターが「早く帰りな」というサインを送ってきた。
えぇっ。
お持ち帰りしろってこと?
「あの……蒼一郎さんってどっちですか?」
「どっちというと、住んでるエリアのこと?」
「いや。タチかネコか」
「ああ……」
蒼一郎さんはしばし沈黙した。
俺は思わず拳をぎゅっと握りしめた。もしも蒼一郎さんがネコ希望だったら、俺のほのかな想いは潰えてしまう。
「僕……男の人と付き合ったことがないんだ」
「ノンケなんですか?」
「いや……。女性と交際しても、キス以上の関係には進めなかった。言いづらいことだけど、アレが反応しなくて」
「蒼一郎さんってネコ?」
「いや。僕はタチ希望だ」
「……じゃあ、俺と試してみます? 俺、ネコなんだけど」
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