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第25話 死闘の予感
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恋は人を強くするものらしい。
リシャールと秘密の湯浴みをするようになってから、僕は強くなった。体を離してからもリシャールに守られているような心地である。
僕は伝令の仕事を続け、オアシス中を歩き回った。
でも、好事魔多しというからな。
何かが起こりそうな嫌な予感がしていた。
星見の塔からリシャールの居城に帰ろうとした時、三人組の男が現れた。突然のことだったので防ぎようがなく、僕は手首を引っ張られ路地裏に連れ込まれた。
一番背が高い男の手には、抜き身の短剣が握られていた。
夕映えを照り返して、刃が不気味に光っている。しかし僕は動じなかった。いつでも影魔法を発動して盾を作り出すことができるからだ。
「オアシスから消えろ。尻小姓め」
「ナシェルの民が来てから、俺たちは仕事を奪われた。奴らはオアシスの水源を逼迫させている」
「リシャール様に体を使って取り入ったんだな、男娼が。おまえが夕星館で春を売っていたことをみんな知っているのだぞ」
僕は沈黙し続けた。男たちの表情に焦りがにじむ。
「なんとか言ったらどうなんだ」
「きみたちの言うとおり、僕はあの館で体を売っていた。その事実は変わらない」
「はっ。男娼が開き直りやがって。目障りなんだよ」
僕は影魔法を発動した。
虚空から黒い盾が現れて、僕の体を短剣から守る。男が振りかざした短剣の刃が、黒い盾に食い込む。僕は影を軟化させた。そして、柔らかくなった影で男の手中にあった短剣を巻き取った。
僕が影を引き寄せ、短剣を手にすると男たちは地べたに腰を落とした。
「ひっ、ひいぃっ! バケモノ……」
「影使いとは……不気味なものだな」
「……否定はしないさ。この力は決して褒められたものではない。人と魔族が交わった歴史の名残りなのだからな」
僕が常人とは異なる力を持っているのには理由がある。ナシェルの王族は魔族の血を引いている。いにしえの時代、ナシェルの王は魔族の姫を娶ったのだ。
男たちは何を思ったのか、服を脱ぎ始めた。
「ナシェルの王子様。俺たちを折檻してくれ!」
「あんたに完敗した! あんたの子分になる!」
「いや、僕にそういう趣味はないのだが」
「ウィルレイン? ここにいたのか」
路地裏にリシャールが現れた。
「いつもより帰りが遅いから心配していた。この者たちは?」
「ナシェルの王子様の舎弟です」
「……僕はそういった者を必要としていない」
「おおかた、短剣で斬りつけようとしたところをウィルレインの影魔法で返り討ちにされたんだろう」
リシャールの読みは的確だった。
「それよりも、ウィルレイン。大変なことになった」
「どうした?」
「小型のボーンドラゴンが群れを成して砂漠を駆け回っていた」
大砲を使って威嚇したものの、着弾には至らなかったらしい。
「ダチョウぐらいの大きさのボーンドラゴンが、十匹もいた」
「奴らは巣に帰ったのか?」
「ひとまずな。だが、夜は分からない」
「応戦するか」
僕が戦場に出るつもりでいると、リシャールに止められた。
「あんたは居城で待っていろ」
「僕は夜目がきく。きみの足手まといにはならない」
「まったく。言っても聞かないからな、あんたは」
「分かっているじゃないか」
かくして僕は、ボーンドラゴンとの夜戦に備えることになった。
リシャールと秘密の湯浴みをするようになってから、僕は強くなった。体を離してからもリシャールに守られているような心地である。
僕は伝令の仕事を続け、オアシス中を歩き回った。
でも、好事魔多しというからな。
何かが起こりそうな嫌な予感がしていた。
星見の塔からリシャールの居城に帰ろうとした時、三人組の男が現れた。突然のことだったので防ぎようがなく、僕は手首を引っ張られ路地裏に連れ込まれた。
一番背が高い男の手には、抜き身の短剣が握られていた。
夕映えを照り返して、刃が不気味に光っている。しかし僕は動じなかった。いつでも影魔法を発動して盾を作り出すことができるからだ。
「オアシスから消えろ。尻小姓め」
「ナシェルの民が来てから、俺たちは仕事を奪われた。奴らはオアシスの水源を逼迫させている」
「リシャール様に体を使って取り入ったんだな、男娼が。おまえが夕星館で春を売っていたことをみんな知っているのだぞ」
僕は沈黙し続けた。男たちの表情に焦りがにじむ。
「なんとか言ったらどうなんだ」
「きみたちの言うとおり、僕はあの館で体を売っていた。その事実は変わらない」
「はっ。男娼が開き直りやがって。目障りなんだよ」
僕は影魔法を発動した。
虚空から黒い盾が現れて、僕の体を短剣から守る。男が振りかざした短剣の刃が、黒い盾に食い込む。僕は影を軟化させた。そして、柔らかくなった影で男の手中にあった短剣を巻き取った。
僕が影を引き寄せ、短剣を手にすると男たちは地べたに腰を落とした。
「ひっ、ひいぃっ! バケモノ……」
「影使いとは……不気味なものだな」
「……否定はしないさ。この力は決して褒められたものではない。人と魔族が交わった歴史の名残りなのだからな」
僕が常人とは異なる力を持っているのには理由がある。ナシェルの王族は魔族の血を引いている。いにしえの時代、ナシェルの王は魔族の姫を娶ったのだ。
男たちは何を思ったのか、服を脱ぎ始めた。
「ナシェルの王子様。俺たちを折檻してくれ!」
「あんたに完敗した! あんたの子分になる!」
「いや、僕にそういう趣味はないのだが」
「ウィルレイン? ここにいたのか」
路地裏にリシャールが現れた。
「いつもより帰りが遅いから心配していた。この者たちは?」
「ナシェルの王子様の舎弟です」
「……僕はそういった者を必要としていない」
「おおかた、短剣で斬りつけようとしたところをウィルレインの影魔法で返り討ちにされたんだろう」
リシャールの読みは的確だった。
「それよりも、ウィルレイン。大変なことになった」
「どうした?」
「小型のボーンドラゴンが群れを成して砂漠を駆け回っていた」
大砲を使って威嚇したものの、着弾には至らなかったらしい。
「ダチョウぐらいの大きさのボーンドラゴンが、十匹もいた」
「奴らは巣に帰ったのか?」
「ひとまずな。だが、夜は分からない」
「応戦するか」
僕が戦場に出るつもりでいると、リシャールに止められた。
「あんたは居城で待っていろ」
「僕は夜目がきく。きみの足手まといにはならない」
「まったく。言っても聞かないからな、あんたは」
「分かっているじゃないか」
かくして僕は、ボーンドラゴンとの夜戦に備えることになった。
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