【完結】亡国の王子、砂漠の王に求愛される 〜僕はお嫁さんじゃなくて、きみの戦友になりたいんだが〜

古井重箱

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第26話 無限地下の真実

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 赤々とした夕陽が沈んでいく。
 昼間の猛暑が収まりつつある砂漠に、僕は立っていた。
 リシャールと彼の兵士たちも一緒である。みな、武器を構えてボーンドラゴンの出現を待ったが、風が吹き荒ぶばかりで敵の姿は見えない。
 昼間、群れを成したボーンドラゴンが闊歩していたらしいが陽動であろうか。僕たちを夜戦に引っ張り出して、消耗させるつもりかもしれない。
 リシャールは険しい顔で砂漠を見つめている。
 僕よりもリシャールの方がボーンドラゴンの習性に詳しい。引き際は彼が見極めるだろう。僕が沈黙を守っていると、夕映えを浴びて真っ赤に染まったボーンドラゴンの群れが現れた。
 各個体はリシャールが昼間目撃したように、ダチョウぐらいの大きさである。
 全部で10匹。
 円を描くように動き回っており、こちらに向かってくる気配はない。

「挑発か?」

 リシャールが目を尖らせる。
 彼が構えた大剣は行き場を失っていた。ボーンドラゴンは小型とはいえ10匹もいる。突撃したところで返り討ちに遭うであろう。
 僕はボーンドラゴンの動きに規則性のようなものを感じた。もしかして、あいつらの狙いは魔法陣を描き出すことではないか?
 僕は影魔法を発動した。
 みずからの影を引き延ばし、背中から翼を生やす。
 影でできた翼で空を飛び始めれば、リシャールが声を荒げた。

「ウィルレイン、何をするつもりだ?」
「ボーンドラゴンが描いているものを上空から観察する」
「危険だ、降りろ」
「いや。この任務は僕にしかできない」

 リシャールの制止を振り切って、僕は空を飛行した。
 ボーンドラゴンの群れが眼下に近づいてきた。僕の予想どおり、奴らは魔法陣を描いていた。
 砂の上に刻まれた円形の中心部に移動する。風で砂がはらはらと崩れ去るため魔法陣は不完全なのだろう。転移の魔法が僕の意識だけを引っ張り上げた。
 僕は霊体だけの存在になった。
 肉体が落下していく。
 リシャールの叫び声が聞こえたが、時はすでに遅い。
 霊体となった僕はボーンドラゴンの巣穴である、無限地下に連れ込まれた。



◇◇◇



 手足が透けている。
 気を抜くとどこかへ消え去ってしまいそうになる。
 霊体となった僕はボーンドラゴンの群れに囲まれていた。
 喰らった相手の骨を自分の体へと変えるバケモノ。それがボーンドラゴンだが、間近で接してみると知性のようなものを感じる。
 ひときわ大きな個体が僕に話しかけてきた。

「ナシェルの王族よ。影魔法の使い手よ。よくぞ無限地下に来てくれた。私はかつて人間だったのだ」

 嘘を言っているようには思えなかった。ボーンドラゴンはかつてヒエロギス大陸に住んでいたらしい。ヒエロギス大陸に関する知識を訊ねれば、正確な答えが返ってきた。

「冒険者だった私は功名心に駆られ、ボーンドラゴンに挑んだ。そして喰われた」
「元に戻る方法はないのか?」
「残念ながら」

 他のボーンドラゴンも僕の周りに近づいてきては、身の上話をした。

「日が昇ると、ボーンドラゴンとしての本能が暴れ出してしまう」
「だから人間を襲っていたのか」
「我らを楽にしてほしい」

 ボーンドラゴンたちが地べたにうずくまる。
 霊体だけの姿となった僕であるが、影魔法は使える。僕は影でできた刃でボーンドラゴンの眉間を打ち砕いた。

「ああ、やっとこれであの子の元へ……」

 ボーンドラゴンから解放された魂が花火のように空へと飛んでいく。
 僕は粛々と刃を振り下ろし、人々の魂を閉じ込めていた器を破壊した。
 最後の犠牲者を助けたところで、僕の意識は白濁していった。どうやら限界が来てしまったようだ。
 リシャール、ごめん。
 僕はいつも無鉄砲で心配ばかりかけてしまったな。
 きみに会えてよかった。
 娼館に売られて絶望を味わった僕であるが、生きようという気持ちになれたのはリシャール。きみのおかげだ。
 ああ、リシャール。
 最後にひと目会いたい。きみにまた叱ってもらいたい……。
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