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第13話 愛のために (リヒター視点)
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「行け、ヴェルトゥール! 目指すは港だ!」
魔法仕掛けの天馬ヴェルトゥールに振り落とされぬよう、リヒターは手綱を握り締めた。
「あれは何だ?」
「光輝く天馬だと!?」
「乗っているのは誰だ?」
交戦中だった騎士と海賊が手を止めて、リヒターを乗せたヴェルトゥールを見上げた。
リヒターは幻術の魔法石を起動した。虚空に大量の金貨が現れ、地上へと落ちていく。
金貨の雨を浴びた海賊たちは、興奮状態に陥った。
「おいおい。お宝が降ってきやがったぞ!」
「天の恵みか?」
一方、騎士は誰ひとりとして金貨に目を向けることはなかった。騎士たちは好機を見逃さず、集中が途切れた海賊どもを容赦なく斬り伏せた。
「みんな、あと一息だ!」
「その声は……団長?」
「おい、おまえたち! リヒター団長が天馬ヴェルトゥールに乗って、駆けつけてくれたぞ!!」
「ヴェルトゥールって、神話に出てくるあれか? さすが団長!」
士気が上がった騎士たちは、海賊の残党を次々と狩っていった。
そろそろ、刻限の10分になる。
リヒターはヴェルトゥールの手綱を操り、高度を下げた。眼前に大地が迫ってくる。
地上に降り立ったリヒターは、ヴェルトゥールの召喚を解いた。淡い金色に輝く魔法石がリヒターの手のひらに収まる。
━━流れは今、こちらにある。
リヒターは抜剣した。粛々と海賊を退治していく。
「おやおや。仕事熱心なことで」
突然、からかうような声が聞こえてきた。リヒターは声がした方向に顔を向けた。
一匹の蝙蝠が近づいてくる。
蝙蝠はリヒターの頭上を飛び回りながら、耳障りな笑い声を上げた。
「見ましたよ、先ほどの馬。それに幻術。魔法石を多用するとは、ゲルトシュタットの騎士は卑怯者なんですね」
「何とでも言え。どんな手を使おうとも、俺は民とこの街を守る」
「面白い人だ」
蝙蝠はやがて、長身の男へと姿を変えた。
細長い顔に彫られた薔薇とドクロの刺青。こやつはローゼス海賊団の幹部であろう。
男の背中からは蝙蝠の羽が生えている。
「獣人か。人間とは交わらないという掟の元、静かに暮らしているんじゃなかったのか?」
「そんなのは昔の話ですよ。暗黒大陸から流れてきた奴らが、私たちの島を荒らしたおかげで大変なんですから。私は財宝を持ち帰って、子どもや年寄りを食わせないといけません」
「海賊とは縁を切れ。きみたちは利用されているだけだ」
「お説教は結構です。あなたを生け捕りにして、お頭へのお土産にしようかな。あなたのように美しい奴隷を手に入れたら、お頭はさぞ喜ぶことでしょう」
「……このまま言葉を交わしたとしても、きみの心に届きそうにないな。獣人よ、散れ」
「負けるのはあなただ!」
蝙蝠男の長身が空に浮かび上がった。
鋭い鉤爪がリヒターの頭部を狙う。
しかしリヒターは動じることなく、華麗な剣さばきで蝙蝠男の攻撃を退けた。
「ほほう。魔法石を使わなくても強いんですね。ますます奴隷にしたくなりましたよ」
「やれるものなら、やってみろ」
リヒターは素早い突きを繰り出した。
怒涛の攻めをかわしているうちに疲れを覚えたのだろう。蝙蝠男の動きが緩慢になっていく。
数々の死線を乗り越えてきた剣はやがて、リヒターに勝利をもたらした。
「ぐあっ!」
翼を斬り落とされた蝙蝠男が地べたに転がる。
リヒターはとどめを刺さなかった。周囲に集まってきた部下に合図を送り、蝙蝠男を捕縛する。
「甘いですね。私を生かすおつもりですか」
「勘違いするな。捕虜として、こちらの手駒になってもらう」
「ふっ。私の命は交渉の道具にはなり得ませんよ。お頭は私を見捨てるでしょうから……」
荒縄で拘束された蝙蝠男はニヤニヤと笑った。
「おや、合図の音が聞こえましたね。私の仲間がどうやら、マンモニウスの神殿で最高のお宝を見つけたようです。へぇ、ゲルトシュタットの至宝かぁ」
「何だって?」
もしそれが事実であるならば危険だ。
ゲルトシュタットの至宝を手に入れた者は、邪神マンモニウスの力を得ることができると言われている。
リヒターは魔法石を起動した。
遠見の術によって、マンモニウスの神殿の様子が映し出される。
神殿の内部には二つの人影があった。
「……ティノ?」
黒髪に、ほっそりとした体つき。アルセーディア社の制服。ティノに間違いない。
リヒターの愛しい人は、獣人によって押し倒されていた。細い肩が小刻みに触れている。
ティノの窮状を知った瞬間、リヒターは居ても立ってもいられなくなった。
「おまえたち、残党狩りは任せた。俺はマンモニウスの神殿に向かう!」
「かしこまりましたっ」
「ヴェルトゥール!」
召喚の声に応じて、光でできた魔法仕掛けの馬がリヒターの前に現れる。
リヒターはヴェルトゥールの背に跨ると、速足で駆けるように命じた。
━━どうか間に合ってくれ……!
ヴェルトゥールの翼が大きくはためいて、堂々たる体躯が宙に浮き上がった。
リヒターは大空を突っ切って、マンモニウスの神殿を目指した。
魔法仕掛けの天馬ヴェルトゥールに振り落とされぬよう、リヒターは手綱を握り締めた。
「あれは何だ?」
「光輝く天馬だと!?」
「乗っているのは誰だ?」
交戦中だった騎士と海賊が手を止めて、リヒターを乗せたヴェルトゥールを見上げた。
リヒターは幻術の魔法石を起動した。虚空に大量の金貨が現れ、地上へと落ちていく。
金貨の雨を浴びた海賊たちは、興奮状態に陥った。
「おいおい。お宝が降ってきやがったぞ!」
「天の恵みか?」
一方、騎士は誰ひとりとして金貨に目を向けることはなかった。騎士たちは好機を見逃さず、集中が途切れた海賊どもを容赦なく斬り伏せた。
「みんな、あと一息だ!」
「その声は……団長?」
「おい、おまえたち! リヒター団長が天馬ヴェルトゥールに乗って、駆けつけてくれたぞ!!」
「ヴェルトゥールって、神話に出てくるあれか? さすが団長!」
士気が上がった騎士たちは、海賊の残党を次々と狩っていった。
そろそろ、刻限の10分になる。
リヒターはヴェルトゥールの手綱を操り、高度を下げた。眼前に大地が迫ってくる。
地上に降り立ったリヒターは、ヴェルトゥールの召喚を解いた。淡い金色に輝く魔法石がリヒターの手のひらに収まる。
━━流れは今、こちらにある。
リヒターは抜剣した。粛々と海賊を退治していく。
「おやおや。仕事熱心なことで」
突然、からかうような声が聞こえてきた。リヒターは声がした方向に顔を向けた。
一匹の蝙蝠が近づいてくる。
蝙蝠はリヒターの頭上を飛び回りながら、耳障りな笑い声を上げた。
「見ましたよ、先ほどの馬。それに幻術。魔法石を多用するとは、ゲルトシュタットの騎士は卑怯者なんですね」
「何とでも言え。どんな手を使おうとも、俺は民とこの街を守る」
「面白い人だ」
蝙蝠はやがて、長身の男へと姿を変えた。
細長い顔に彫られた薔薇とドクロの刺青。こやつはローゼス海賊団の幹部であろう。
男の背中からは蝙蝠の羽が生えている。
「獣人か。人間とは交わらないという掟の元、静かに暮らしているんじゃなかったのか?」
「そんなのは昔の話ですよ。暗黒大陸から流れてきた奴らが、私たちの島を荒らしたおかげで大変なんですから。私は財宝を持ち帰って、子どもや年寄りを食わせないといけません」
「海賊とは縁を切れ。きみたちは利用されているだけだ」
「お説教は結構です。あなたを生け捕りにして、お頭へのお土産にしようかな。あなたのように美しい奴隷を手に入れたら、お頭はさぞ喜ぶことでしょう」
「……このまま言葉を交わしたとしても、きみの心に届きそうにないな。獣人よ、散れ」
「負けるのはあなただ!」
蝙蝠男の長身が空に浮かび上がった。
鋭い鉤爪がリヒターの頭部を狙う。
しかしリヒターは動じることなく、華麗な剣さばきで蝙蝠男の攻撃を退けた。
「ほほう。魔法石を使わなくても強いんですね。ますます奴隷にしたくなりましたよ」
「やれるものなら、やってみろ」
リヒターは素早い突きを繰り出した。
怒涛の攻めをかわしているうちに疲れを覚えたのだろう。蝙蝠男の動きが緩慢になっていく。
数々の死線を乗り越えてきた剣はやがて、リヒターに勝利をもたらした。
「ぐあっ!」
翼を斬り落とされた蝙蝠男が地べたに転がる。
リヒターはとどめを刺さなかった。周囲に集まってきた部下に合図を送り、蝙蝠男を捕縛する。
「甘いですね。私を生かすおつもりですか」
「勘違いするな。捕虜として、こちらの手駒になってもらう」
「ふっ。私の命は交渉の道具にはなり得ませんよ。お頭は私を見捨てるでしょうから……」
荒縄で拘束された蝙蝠男はニヤニヤと笑った。
「おや、合図の音が聞こえましたね。私の仲間がどうやら、マンモニウスの神殿で最高のお宝を見つけたようです。へぇ、ゲルトシュタットの至宝かぁ」
「何だって?」
もしそれが事実であるならば危険だ。
ゲルトシュタットの至宝を手に入れた者は、邪神マンモニウスの力を得ることができると言われている。
リヒターは魔法石を起動した。
遠見の術によって、マンモニウスの神殿の様子が映し出される。
神殿の内部には二つの人影があった。
「……ティノ?」
黒髪に、ほっそりとした体つき。アルセーディア社の制服。ティノに間違いない。
リヒターの愛しい人は、獣人によって押し倒されていた。細い肩が小刻みに触れている。
ティノの窮状を知った瞬間、リヒターは居ても立ってもいられなくなった。
「おまえたち、残党狩りは任せた。俺はマンモニウスの神殿に向かう!」
「かしこまりましたっ」
「ヴェルトゥール!」
召喚の声に応じて、光でできた魔法仕掛けの馬がリヒターの前に現れる。
リヒターはヴェルトゥールの背に跨ると、速足で駆けるように命じた。
━━どうか間に合ってくれ……!
ヴェルトゥールの翼が大きくはためいて、堂々たる体躯が宙に浮き上がった。
リヒターは大空を突っ切って、マンモニウスの神殿を目指した。
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