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本編その4
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ショッピングモールの催事を担当している後藤さんは、『悠歩』シリーズに興味を持ってくれた。
「カラーバリエーションが五種類もあるの? 全部置くのは難しいわね」
「黒と茶の二種類だけならいかがでしょうか?」
「それなら大丈夫よ」
俺は出品申し込みに関する書類を、メールで送ってもらうようお願いした。
「急な申し出にも関わらず、快諾していただきありがとうございます」
「うちとしても、商品の品揃えが豊富な方がいいから」
「そう言っていただけると嬉しいです。これからもミヨシギアをよろしくお願い致します!」
帰社した俺は、売上予測レポートを更新した。ユア・シューズ以外の店舗でも『Mスタイル』の販売数が伸び悩んでいる。ミヨシギアの代名詞とも言える商品に元気がないのはまずい状況である。
ユーザーの高齢化。ミヨシギアが直面している大きな問題だ。
定時になった。
周りの社員は次々と退勤していったが、俺は自席から動かなかった。
新たな販売計画を立てていると、倉橋営業課長に呼ばれた。
「虎ノ瀬くん。残業は程々にね。もう上がってくれ」
「承知しました」
「そんなにガツガツしなくても大丈夫だよ。ちょっとやそっとのことでは、ミヨシギアのブランドは揺らいだりはしない」
倉橋営業課長が見ているものと、俺が現場で感じたことは乖離している。
でも、ここで持論を披露したとしても、うるさがられて終わりだろう。沈黙は金。俺は口をつぐむことにした。
「お先に失礼致します」
「うん。気をつけて」
俺は社屋を出た。
横浜駅に向かうあいだ、たくさんの人々とすれ違った。
やりたいようにやっている勤め人など、そうそういない。みんな、自分の気持ちと会社の意向に折り合いをつけて働いている。
地下鉄に乗った俺は文庫本を広げた。
俺の趣味はミステリー小説を読むことだ。自分が探偵になったつもりで仮説を立てて、あれこれ推理するのが楽しくてたまらない。
目的地である、あざみ野駅に着く頃には、俺は文庫本を読み終えていた。
作者にまんまと騙された。
俺が怪しいと思ったキャラはシロだった。予想外の人物が連続殺人の実行犯だった。
あざみ野駅のホームに降りた俺は、スマホを眺めた。
ミステリー小説の愛好家が集うレビューサイトをチェックする。俺がたった今、読了した作品にはハンドルネーム・サラサラ脳髄によるレビューが寄せられていた。
まただ。
新刊を発売日に買って読むのに、いつもサラサラ脳髄に先を越されてしまう。
しかも、サラサラ脳髄のレビューは分析力が優れている。作品のいいところだけでなく、気になる点にも触れており、ミステリーを能動的に読んでいることが伺える。
俺も折原紺というハンドルネームでレビューを投稿しているが、フォロワー数はサラサラ脳髄の方が上である。
仕事でも趣味でも一番になれないだなんて。
アパートへ帰るあいだ、俺の頭の中は竜岡とサラサラ脳髄に負けた悔しさでいっぱいだった。
「カラーバリエーションが五種類もあるの? 全部置くのは難しいわね」
「黒と茶の二種類だけならいかがでしょうか?」
「それなら大丈夫よ」
俺は出品申し込みに関する書類を、メールで送ってもらうようお願いした。
「急な申し出にも関わらず、快諾していただきありがとうございます」
「うちとしても、商品の品揃えが豊富な方がいいから」
「そう言っていただけると嬉しいです。これからもミヨシギアをよろしくお願い致します!」
帰社した俺は、売上予測レポートを更新した。ユア・シューズ以外の店舗でも『Mスタイル』の販売数が伸び悩んでいる。ミヨシギアの代名詞とも言える商品に元気がないのはまずい状況である。
ユーザーの高齢化。ミヨシギアが直面している大きな問題だ。
定時になった。
周りの社員は次々と退勤していったが、俺は自席から動かなかった。
新たな販売計画を立てていると、倉橋営業課長に呼ばれた。
「虎ノ瀬くん。残業は程々にね。もう上がってくれ」
「承知しました」
「そんなにガツガツしなくても大丈夫だよ。ちょっとやそっとのことでは、ミヨシギアのブランドは揺らいだりはしない」
倉橋営業課長が見ているものと、俺が現場で感じたことは乖離している。
でも、ここで持論を披露したとしても、うるさがられて終わりだろう。沈黙は金。俺は口をつぐむことにした。
「お先に失礼致します」
「うん。気をつけて」
俺は社屋を出た。
横浜駅に向かうあいだ、たくさんの人々とすれ違った。
やりたいようにやっている勤め人など、そうそういない。みんな、自分の気持ちと会社の意向に折り合いをつけて働いている。
地下鉄に乗った俺は文庫本を広げた。
俺の趣味はミステリー小説を読むことだ。自分が探偵になったつもりで仮説を立てて、あれこれ推理するのが楽しくてたまらない。
目的地である、あざみ野駅に着く頃には、俺は文庫本を読み終えていた。
作者にまんまと騙された。
俺が怪しいと思ったキャラはシロだった。予想外の人物が連続殺人の実行犯だった。
あざみ野駅のホームに降りた俺は、スマホを眺めた。
ミステリー小説の愛好家が集うレビューサイトをチェックする。俺がたった今、読了した作品にはハンドルネーム・サラサラ脳髄によるレビューが寄せられていた。
まただ。
新刊を発売日に買って読むのに、いつもサラサラ脳髄に先を越されてしまう。
しかも、サラサラ脳髄のレビューは分析力が優れている。作品のいいところだけでなく、気になる点にも触れており、ミステリーを能動的に読んでいることが伺える。
俺も折原紺というハンドルネームでレビューを投稿しているが、フォロワー数はサラサラ脳髄の方が上である。
仕事でも趣味でも一番になれないだなんて。
アパートへ帰るあいだ、俺の頭の中は竜岡とサラサラ脳髄に負けた悔しさでいっぱいだった。
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