【完結】ツンデレ妖精王が、獅子だけど大型ワンコな獣人王にとろとろに愛される話

古井重箱

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 広々とした回廊を歩いていると、後ろから声をかけられた。

「よう、レクシェール。元気だったか?」
「……ガルトゥス」

 1年ぶりに会った獣人王ガルトゥスは、国家元首とは思えないほど軽装だった。両肩がむき出しになっている。たくましい体のあちこちに傷跡があった。また数が増えたのではないか?
 妖精王レクシェールは眉をしかめた。妖精族は争いを好まない。
 ガルトゥスは獣人族で、黄金色の獅子に変化へんげする特殊能力の持ち主である。ふだんのガルトゥスは人間の青年の姿をとっている。よく日焼けした顔には傷らしいものは見当たらない。相手に致命傷を与えられぬあたり、獣人王の狩りは順調のようだった。

——私にとってはどうでもいいことだ。

 レクシェールはため息をついた。

「はぁっ……。相変わらず貴君は野蛮だな」

 ほっそりとした青年の姿をしているが、レクシェールはもう何十年も生きている。
 妖精族の証である翼は、ふだんは隠れている。感情が昂った際に光の粒でできた七色の翼が現れる。だが、自制心に富んだレクシェールの気持ちが乱れることはほぼなかった。最後に翼を出したのはいつだっただろう。
 レクシェールは優美な顔立ちの持ち主だが、気が強く、自分の意見がはっきりしている。ガルトゥスはレクシェールにとって好ましい相手ではない。だからつい、嫌悪感を態度に出してしまう。

「おいおい。会うなりため息かよ? それに面と向かって野蛮って。そりゃないだろ」
「王の身でありながら、前線に立ち続けているのか。ガルトゥスよ、貴君は懲りない男だな」

 レクシェールが呆れた表情で吐き捨てると、ガルトゥスは豪快に笑った。

「夜になると、魔剣が寂しがって啼くんだよ。新たな生贄が欲しいと言ってな」

 長身のガルトゥスから発せられた大きな笑い声が、ひらけた回廊にびんびんと響き渡る。
 レクシェールは菫色の瞳に苛立ちを浮かべた。ガルトゥスは本当に粗野なやからだ。レクシェールは昔からこの金髪の男が苦手だった。できれば関わらずに済ませたい。
 だが、諸王の会議を欠席するわけにはいかない。
 このヒエロギス大陸を統治する4ヶ国の王、すなわち妖精王、獣人王、竜人王、そして人間王。彼らは年に1回集まって円卓を囲み、治世について意見を交換する。諸王の会議と呼ばれるこの催しによって、ヒエロギス大陸の平和は守られているのだった。

「レクシェール。昨日狩った多頭獣の肉、あんたに食わせたいほど美味だったぞ」
「私は鳥獣の肉は食さない」

 レクシェールは眉根を寄せた。
 妖精族に生まれたレクシェールが糧としているのは花の蜜や草についた朝露、新鮮な野菜、そして果実である。
 ガルトゥスにふだん食べているものを伝えると驚かれた。

「へえ。妖精族っていうのは淡白なもんだなあ。だからそんなに細っこいのかねぇ」

 ガルトゥスは縦に長い瞳孔を宿した金色の目でレクシェールを眺めた。不躾な視線を浴びて、レクシェールの不快感が頂点に達した。
 レクシェールはガルトゥスよりも華奢な体つきをしている。口では勝てるかもしれないが、武力行使に出られたらガルトゥスに屈するしかない。高い矜持を持つレクシェールにとって、ガルトゥスに負けることは受け入れがたかった。

「それにしても竜人国ってのは暑いなあ。この服で正解だったぜ」
「王たる者、もっと格式のある服を着たらどうなんだ?」
「俺の自慢の筋肉。よーく見てくれよな!」
「私の話を聞け!」

 確かにガルトゥスは同性として羨ましいほど、見事な肉体美を誇っている。

——こいつと並ぶと、私はまるで棒きれだ。

 劣等感を悟られてはならない。レクシェールは強気な表情を崩さなかった。

「そんな風におっかない顔をするなよ。年に1回のお祭りじゃねぇか。楽しくやろうぜ」
「私は民の安全を守るため、この会議に参加している。行楽のような気持ちで来ている貴君と一緒にしないでもらいたい」
「……行楽? こっちは必死だぜ……。なんてったって、あんたに会えるのは年に1回限りだ……」

 ガルトゥスが何か言った気がしたが、いつもより声の音量が低かったため、よく聞こえなかった。
 どうせくだらぬ戯言を口走ったのだろう。
 レクシェールは聞き返すことはせず、会場として指定された大広間を目指した。
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