【完結】ツンデレ妖精王が、獅子だけど大型ワンコな獣人王にとろとろに愛される話

古井重箱

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 諸王の会議を終えて妖精国に戻ってから、早くも1週間が経った。
 妖精国では幼い妖精たちが新たな魔法を思いついては、騒ぎを起こしていた。レクシェールは新規の魔法を許可するか否か、判断を下した。妖精国を統治するのには即断即決が求められる。じっくり考えてから答えを出すなどといった悠長な態度を取っていたら、次の騒動が始まってしまうからだ。

「森の小枝を飴に変える魔法だと? 不許可だ。幼い者たちは虫歯になるまで飴を舐め続けてしまうだろう」
「それでは早速、魔力遮断器を発動致します」

 現在の補佐官、ユイナはとても有能な女性である。年若い妖精は好奇心旺盛で始終飛び回っていないと気が済まない者が多いが、ユイナは落ち着いている。レクシェールは日頃の感謝を伝えた。

「ユイナよ。きみは本当に頼りになるな」
「滅相もございません。私は未熟者でございます」
「諸王の会議で私が不在の際には、よくぞ国を切り盛りしてくれた。褒美をつかわそう。何がいい?」
「まあ、申し上げてもよろしいんですか? 私の趣味は切手集めですの。妖精国の切手はおおかた収集してしまったので、他国の切手が欲しいですわ」
「切手か」

 このヒエロギス大陸で郵便制度が整っているのは妖精国の他には、獣人国だけである。レクシェールはしばし黙考した。獣人国の知り合いといえば、ガルトゥスしかいない。

「ご無理を言ってしまいましたね。撤回しますわ」
「いや、いいのだ。あてがある」

 可愛い家臣のために、ひと肌脱ごうではないか。ガルトゥスに手紙を書くとしよう。
 レクシェールは執務机の上に便せんを広げた。



◇◇◇



『あの日、触れ合ったことが忘れられないよ、レクシェール。
 お返しに、今すぐあんたを可愛がりたい』

 後日、獣人国から送られてきた書簡にはなんと、封筒がなかった。厚みのある長方形の紙にガルトゥスの豪快な字が綴られている。

「まあ、これが噂のハガキですわね」

 補佐官のユイナが嬉しそうにしているのが不幸中の幸いか。レクシェールはハガキなるものを引き出しの奥に突っ込んだ。こんな、内容が他人の目に丸わかりになる郵便物を考えるだなんて、獣人族は恥じらいがなさすぎる。
 レクシェールが手紙で頼んだ切手に関しては、別便で送られてきた。
 ユイナが獣人国の切手を机の上に並べ、童女のように無邪気な微笑みを浮かべている。家臣の笑顔が見られただけでよしとするか。
 レクシェールは律儀な性分なので、お礼の手紙を早速したためた。


 
◇◇◇


 
 妖精国の宮殿は、獣人国との国境から離れた場所にある。
 ガルトゥスが住んでいる獣人国の王宮に手紙を送る際は、最短でも10日かかる。
 そろそろ切手を送ってもらったことへのお礼の手紙が届く頃であろうか。
 休憩時間を迎えたレクシェールが宮殿の庭で果実を齧っていると、空から獅子が降ってきた。黄金色の毛並みを持った、雄の獅子である。

「まさか、ガルトゥスか?」
『そのまさかだよ』

 獅子の姿をとったガルトゥスがレクシェールに飛びかかってきた。庭の草地に寝転んだレクシェールの薄い腹に乗り上げると、ガルトゥスは「がうう」と心地よさそうに喉を鳴らした。

『ほら、あんたの好きなもふもふだ。堪能してくれ』
「貴君はどうやってここへ?」
『竜人国の商人から、転移の魔法石を買った』
「それは……ずいぶんとふっかけられたのではないか?」
『些少なことだ。手紙だけの交流なんざ、寂しすぎるぜ。さあ、もっと触ってくれ』

 ガルトゥスが尻尾をふりふりと左右に揺らす。

——いかん。愛くるしいと思ってしまった……。

 レクシェールは妖精族である。年齢を重ねたとはいえ好奇心旺盛で、いたずら好きな性質は変わらない。ガルトゥスの仕草があまりにも可愛らしいので、レクシェールは童心に帰って獅子と戯れた。
 ガルトゥスに跨って宮殿の庭を駆け抜ける。
 夕映えに染まった黄金色の毛並みは美しくて、レクシェールはほうっと息を飲んだ。

「……ガルトゥス。その……ありがとう」
「ん? 俺、何かしたか」

 人間の姿に戻ったガルトゥスは、不思議そうに首を傾げた。

「貴君のおかげで童心に帰ることができた。為政者となってから、私は妖精族としての心を忘れていたよ……」
「そうかい。そいつはよかった」
「あーっ。レクシェール様、きんきらきんの獅子さんは、もうどこかに行ってしまったのですか?」
「あたくしたちも一緒に遊びたかったですわ!」

 宮殿の侍女たちが庭に集まってきた。
 みな、光の粒でできた羽をパタパタと動かし、好奇心に瞳を輝かせている。ガルトゥスは興奮した面持ちの侍女たちに気さくに笑いかけると、再び獅子の姿に変わった。

『ほーら。存分にもふもふしてくれ』
「きゃーっ。気持ちいいですわ!」
『背中に乗ってもいいんだぞ』
「わーい! やったぁ」

 侍女たちが楽しそうにしていることは、王として喜ばしい。
 だがレクシェールの心は墨を垂らされたように濁っていった。

——ガルトゥス。貴君は相手が誰であっても簡単に、その身に触れさせるのか。

 レクシェールは庭をあとにした。
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