【完結】ツンデレ妖精王が、獅子だけど大型ワンコな獣人王にとろとろに愛される話

古井重箱

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 その晩、色とりどりの野菜と果実が並ぶ妖精王の食卓には珍客の姿があった。

「ガルトゥス。なぜここにいる?」
「今夜、泊めてくれよ。転移の魔法石ってさ、時空を遊泳する時に結構疲れるんだわ。あんたんちで休ませて」
「……非公式の訪問ということで処理させてもらうぞ。わが妖精国と貴君の獣人国は国交があるとはいえ、国のかしらが直々に宮殿にやって来るというのは前例がない。明日は早いうちに帰ってくれ」
「なんでそういう冷たいこと言うわけ?」
「えっ?」

 レクシェールは、ガルトゥスが泣きそうな顔をしたので目を見張った。ガルトゥスが震える声で言葉を紡ぐ。

「俺、……何十年も待ったんだぜ? 諸王の会議は年に1回しかない。あんたの可愛い顔を拝める機会は、たったそれだけだ」
「可愛い? 誰に向かってそんなことを……」
「そうやって果実をもしゃもしゃ食べてるところとか、本当は好奇心いっぱいなのに気持ちを抑えてるところとか、さっき庭でヤキモチを焼いちゃったところとか。全部可愛いよ」

 だんっと音がするほど勢いよく、レクシェールは食卓に手を突いた。

「私がヤキモチ? 妖精王たるこの私が、そんな卑しい感情を抱くわけがないだろう。不敬罪で処してやろうか、獣人王よ」
「なあ、レクシェール。自分を縛るのはそろそろやめたらどうだ」
「私は別に……! 獣人王こそ、もっと王として相応しい振る舞いをしろ。約束も取り付けずに、他国の宮殿にやって来るな」
「ガルトゥスって呼んでくれよ。今までみたいに」
「獣人王。貴君のために部屋を用意させる。休んでいくといい。私はこれで失礼する」

 レクシェールは席を立った。



◇◇◇



 宮殿の大浴場にて、レクシェールは湯船に浸かりながらし方を振り返った。

——私は奴の言うように、自分を縛っているのだろうか?

 妖精王となった日のことを思い返す。
 群れの中で一番魔力が強い者が妖精王になる。そのしきたりによって、レクシェールは推挙された。選定結果を聞いた際は、驚きのあまり腰を抜かした。
 レクシェールは妖精国の鄙びた村の生まれである。
 田舎者だと馬鹿にされぬよう、宮廷流の作法を必死でこの身に叩き込んだ。動きやすい野良着を捨てて、窮屈な礼装をまとうようになった。幼い妖精を導くために、みずからは遊び心を封印し、仮面のような表情で執務にあたった。
 他国の王と対面する諸王の会議では、いつもの倍、気を遣った。
 獣人族、竜人族、人間族に比べて、妖精族は小柄で力が弱い。
 それに、妖精族が使うのは相手を楽しませるような魔法ばかりである。攻撃魔法を使おうとすると、妖精族は頭が痛くなってしまう。ひとたび他国と戦争となったら妖精国におそらく勝ち目はない。
 だから諸王の会議では、絶対に失敗できなかった。
 言質を取られることがないように慎重に発言し、よそいきの微笑みを浮かべ、友好の意を示そうと心がけた。
 緊張に緊張を重ね、初めて臨んだ諸王の会議で、ガルトゥスはいきなり席を立った。そしてレクシェールの肩をばんばんと叩き、こう言ったのだ。

『緊張しているのは俺だけかと思ってたが、あんたも同じみたいでホッとしたよ。初心者同士、よろしくな』

 当時のガルトゥスも王座に就いてから日が浅かった。
 いきなり「あんた」呼ばわりをされて面食らったが、ガルトゥスの気さくな言動によってレクシェールの心は軽くなった。
 それ以来、諸王の会議が苦ではなくなった。
 身構えなくとも、ガルトゥスが冗談を言って場を和ませたり、レクシェールの味方をしてくれるからだ。

——気づかぬうちに、あれを頼っていたということか……。

 ちゃぷんとお湯をすくい取って、顔を洗う。
 湯船に満ちたお湯に映るレクシェールの顔立ちは青年のそれで、貫禄とは無縁である。髭が生えない体質だから、威厳を出そうにも無理がある。それにこの、華奢な手足。まるで迫力がない。
 周囲に強い王という印象を抱かせるのに必死で、レクシェールは本来の自分を見失っていた。田舎にいた頃は、花の蜜を集めながら戯れ歌を口ずさみ、仲間を笑わせていたではないか。

——私は、本当の自分を見失っていた……。それに気づかせてくれたのは……。

 その時、かたんと音がして大浴場に人影が現れた。
 堂々たる体躯の持ち主は、ガルトゥスに他ならなかった。
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