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第2話 南域に嫁ぐことになりました
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音楽室に行くと、弟のネルヴァスが鍵盤楽器を弾いていた。
ネルヴァスは15歳、俺と同じオメガである。しかし彼には音楽の才能がある。ネルヴァスの楽器の腕前は日に日に上がっていて、わが家のサロンに訪れた客たちを唸らせている。
今度、国王の御前で演奏を披露することになっている。ネルヴァスは俺の誇りだ。
「レムート兄様。歌ってください」
鍵盤楽器が、アーデル領に伝わる民謡を奏でる。俺は可愛い弟の演奏に合わせて、素朴な旋律を歌い上げた。音楽は俺にとって慰めだ。音楽は神様のようにオメガを差別しない。俺にも美を感じさせてくれる。
「レムート兄様の歌声は美しいけれども、いつも物悲しいですね」
ネルヴァスの耳にかかれば、俺の心などお見通しなのだろう。俺は優秀な弟をそっと抱きしめた。
「おまえとこうやって過ごせるのも、あと僅かだな」
「……レムート兄様」
「失礼致します。レムート様、よろしいですか」
執事がやって来て、至急、父の書斎に向かうよう俺に告げた。
いよいよ縁談が決まったのか。
俺は父が待つ、書斎へと廊下を歩き出した。
「父上。お待たせ致しました」
重厚な扉を開いて、父の書斎へと入る。
いくつもの本が詰め込まれた書架を背に、父は優しく微笑んでいた。それが心からの笑顔でないことぐらい俺には分かる。父は社交術のテクニックのひとつとして笑顔を見せているだけだ。
絶対に他人に心の内側を見せない。それが貴族である。
父は穏やかな声で俺に訊ねた。
「レムート。果実は好きか?」
「……はい」
「南域では四季を通して、美味なる果実が採れるという」
果実云々というのは、父なりの気遣いなのだろう。
俺の嫁ぎ先はどうやら、南域に決まったらしい。
南域か。
元は、ラガーディア王国と異なる文化を持った人々が住んでいた場所だ。ラガーディア王国への帰属意識は低く、中央政府に何かと楯突いてくる気性の荒い土地柄だと聞く。
「おまえも知ってのとおり、北域に位置するわがアーデルは、ラガーディア王国が誇る芸術都市として栄えてきた。一方、南域は自然資源が豊富だ。両者が姻戚になり、国の発展に尽くすことを国王陛下は望まれている」
「……承知致しました」
南域にも鍵盤楽器はあるだろうか。
俺は祈りを込めて、ぎゅっと拳を握りしめた。
ネルヴァスは15歳、俺と同じオメガである。しかし彼には音楽の才能がある。ネルヴァスの楽器の腕前は日に日に上がっていて、わが家のサロンに訪れた客たちを唸らせている。
今度、国王の御前で演奏を披露することになっている。ネルヴァスは俺の誇りだ。
「レムート兄様。歌ってください」
鍵盤楽器が、アーデル領に伝わる民謡を奏でる。俺は可愛い弟の演奏に合わせて、素朴な旋律を歌い上げた。音楽は俺にとって慰めだ。音楽は神様のようにオメガを差別しない。俺にも美を感じさせてくれる。
「レムート兄様の歌声は美しいけれども、いつも物悲しいですね」
ネルヴァスの耳にかかれば、俺の心などお見通しなのだろう。俺は優秀な弟をそっと抱きしめた。
「おまえとこうやって過ごせるのも、あと僅かだな」
「……レムート兄様」
「失礼致します。レムート様、よろしいですか」
執事がやって来て、至急、父の書斎に向かうよう俺に告げた。
いよいよ縁談が決まったのか。
俺は父が待つ、書斎へと廊下を歩き出した。
「父上。お待たせ致しました」
重厚な扉を開いて、父の書斎へと入る。
いくつもの本が詰め込まれた書架を背に、父は優しく微笑んでいた。それが心からの笑顔でないことぐらい俺には分かる。父は社交術のテクニックのひとつとして笑顔を見せているだけだ。
絶対に他人に心の内側を見せない。それが貴族である。
父は穏やかな声で俺に訊ねた。
「レムート。果実は好きか?」
「……はい」
「南域では四季を通して、美味なる果実が採れるという」
果実云々というのは、父なりの気遣いなのだろう。
俺の嫁ぎ先はどうやら、南域に決まったらしい。
南域か。
元は、ラガーディア王国と異なる文化を持った人々が住んでいた場所だ。ラガーディア王国への帰属意識は低く、中央政府に何かと楯突いてくる気性の荒い土地柄だと聞く。
「おまえも知ってのとおり、北域に位置するわがアーデルは、ラガーディア王国が誇る芸術都市として栄えてきた。一方、南域は自然資源が豊富だ。両者が姻戚になり、国の発展に尽くすことを国王陛下は望まれている」
「……承知致しました」
南域にも鍵盤楽器はあるだろうか。
俺は祈りを込めて、ぎゅっと拳を握りしめた。
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