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退勤後、新宿二丁目にあるバー<クロスファイア>を訪れると、みずきママが歓声を上げた。
「陽翔ちゃん! 元気してた?」
「おかげさまで、なんとか」
「仕事オンリーって顔してる。図星でしょ?」
「みずきママには敵いませんね」
カウンター席に案内された陽翔は、ジンライムを注文した。
ホールに置かれた赤いソファは常連客で埋まっている。
「よっ、陽翔」
「ダーツやらない?」
仲間たちに誘われて、陽翔はダーツに興じた。
カウンター席に戻ると、みずきママが呆れたように言った。
「陽翔ちゃん、ダーツの腕だけが上がっていくわね。マチアプはどうなったの?」
「気持ちが盛り上がらなくて放置してます」
「ダメよ! ちゃんと打席に立たなきゃ。恋のクロスファイアが投げ込まれるかもしれないでしょ?」
クロスファイアとは野球用語で、打者の体に向かって食い込むような軌道を描いて投げられたボールを指す。恋は思いがけないところから攻め込まれるものだという持論から、みずきママはバーの名前に採用したらしい。
「俺、取り立てて個性がないから」
「そう? いろんな子を見てたけど、陽翔ちゃんもちゃんとキャラが立ってるわよ。陽翔ちゃんは白いごはんなのよ! めちゃくちゃクセが強い人とも仲良くなれるでしょ?」
「まあ、そうですね。どんな人にもいいところがありますから」
その時のことだった。
ドアが開いてベルが鳴り、新たな客の訪れを告げた。
ほっそりとした長身に色白の整った顔。大型書店で出会ったイケメンが現れた。
「みずきママ、こんばんは」
「あら、また来てくれたの。嬉しいわー。何にします?」
「ウーロンハイをください」
イケメンが陽翔の隣に座った。
「こんばんは。その後、調子はいかがですか」
「おかげさまで元気です。先日は本当にありがとうございました」
「こちらこそ素敵な店を教えてくれてありがとう。最近、毎日通ってるんだ。きみにまた会えるかもしれないと思って」
イケメンが自分に興味を持っているのか? 陽翔の鼓動が速まった。
「あの……お名前を聞いても? 俺は陽翔って言います」
「玲司です。よろしく」
陽翔より三つ年上の二十九歳らしい。
「はい、どうぞー」
みずきママが玲司にウーロンハイを渡した。
乾杯をしようとグラスを持ち上げた瞬間、バーの仲間たちが玲司を取り囲んだ。
「玲司さん、また会えて嬉しいよーっ!」
「陽翔の知り合い?」
「一緒にダーツしません?」
距離感ゼロの常連客の手によって、玲司はカウンター席から引き剥がされた。
「さ、ここに座って」
玲司はソファに拉致された。
強気の美人、晶が玲司の胸元をまさぐった。
「タバコは吸わないんだ。玲司さん、タチでしょ? 僕、玲司さんみたいな綺麗な人、大好き。……アレも大きそう」
「晶。がっつきすぎだ! 玲司さん困ってるだろ」
「そういう陽翔だって目にハートマークが浮かんでるよ? 玲司さんのこと狙ってるでしょ」
玲司は晶の手を静かに退けると、優しく微笑んだ。
「僕、陽翔くんと話したいんだ。カウンター席に戻っていいかな?」
「えーっ、陽翔狙い? 趣味悪っ! 陽翔って絶対マグロだよ。フェラだって絶対に下手」
晶は毒舌の限りを尽くすと、ソファにどっかりと座った。
「陽翔くん、ごめん。僕のせいで嫌な思いをさせてしまったね」
「いいんですよ。晶はあれが通常運転だから。俺の大切な仲間です」
「きみっていい子だね」
玲司がウーロンハイを傾けた。ふとした仕草が映画のワンシーンのように美しい。
「探してた本が見つかった時、陽翔くん、すごく嬉しそうな顔をしてたよね。とても素直で可愛いなって思ったんだ」
「俺は大したルックスじゃないと思いますが……」
「そんなことないよ。魅力的だよ」
陽翔は照れながら玲司に質問を投げかけた。
「あの……玲司さんってお仕事は何をされてるんですか? 俺は料理人です」
「予備校の講師だよ。担当は数学」
「すごい……! 勉強、得意なんだ……!」
「問題が解けた瞬間が、ともかく快感で。大学は数学科に進んだんだ。それで、数学を活かした仕事に就きたいと思って予備校の講師になったってわけ」
「好きなことがあるのって素晴らしいと思います。俺は料理以外だと、プロ野球を観ることぐらいですね」
陽翔のふとした発言に対して、玲司が食いついてきた。
「応援しているのはどこのチーム?」
「東京ジュラシックスです」
「そうなんだ? 僕と同じだね!」
「うちはじいちゃんの代からジュラシックスファンです」
「ご家族揃ってファンなんだ? うちもそうだよ」
玲司が「よかったー!」と言った。
「他チームのファンだったら喧嘩になってたかもしれない」
「政治と野球の話はしない方が無難だって一般的には言いますもんね」
「ねえ、今度一緒に試合を観に行かない?」
「えっ。俺とですか」
思いがけないボールが飛んできたので、陽翔は戸惑った。
でもここで見送ったら、きっと後悔する。陽翔は玲司の優しい笑顔に魅了されていた。もっと玲司と同じ時間を過ごしたいと思う。
「ぜひお願いします! うちの店は土日祝が休みです」
「土日祝のシフトが入っていない日というと……××日だね。陽翔くんは空いてる?」
「はい。大丈夫です」
陽翔は笑顔になった。
そんな陽翔を、玲司が穏やかなまなざしで見つめていた。
「陽翔ちゃん! 元気してた?」
「おかげさまで、なんとか」
「仕事オンリーって顔してる。図星でしょ?」
「みずきママには敵いませんね」
カウンター席に案内された陽翔は、ジンライムを注文した。
ホールに置かれた赤いソファは常連客で埋まっている。
「よっ、陽翔」
「ダーツやらない?」
仲間たちに誘われて、陽翔はダーツに興じた。
カウンター席に戻ると、みずきママが呆れたように言った。
「陽翔ちゃん、ダーツの腕だけが上がっていくわね。マチアプはどうなったの?」
「気持ちが盛り上がらなくて放置してます」
「ダメよ! ちゃんと打席に立たなきゃ。恋のクロスファイアが投げ込まれるかもしれないでしょ?」
クロスファイアとは野球用語で、打者の体に向かって食い込むような軌道を描いて投げられたボールを指す。恋は思いがけないところから攻め込まれるものだという持論から、みずきママはバーの名前に採用したらしい。
「俺、取り立てて個性がないから」
「そう? いろんな子を見てたけど、陽翔ちゃんもちゃんとキャラが立ってるわよ。陽翔ちゃんは白いごはんなのよ! めちゃくちゃクセが強い人とも仲良くなれるでしょ?」
「まあ、そうですね。どんな人にもいいところがありますから」
その時のことだった。
ドアが開いてベルが鳴り、新たな客の訪れを告げた。
ほっそりとした長身に色白の整った顔。大型書店で出会ったイケメンが現れた。
「みずきママ、こんばんは」
「あら、また来てくれたの。嬉しいわー。何にします?」
「ウーロンハイをください」
イケメンが陽翔の隣に座った。
「こんばんは。その後、調子はいかがですか」
「おかげさまで元気です。先日は本当にありがとうございました」
「こちらこそ素敵な店を教えてくれてありがとう。最近、毎日通ってるんだ。きみにまた会えるかもしれないと思って」
イケメンが自分に興味を持っているのか? 陽翔の鼓動が速まった。
「あの……お名前を聞いても? 俺は陽翔って言います」
「玲司です。よろしく」
陽翔より三つ年上の二十九歳らしい。
「はい、どうぞー」
みずきママが玲司にウーロンハイを渡した。
乾杯をしようとグラスを持ち上げた瞬間、バーの仲間たちが玲司を取り囲んだ。
「玲司さん、また会えて嬉しいよーっ!」
「陽翔の知り合い?」
「一緒にダーツしません?」
距離感ゼロの常連客の手によって、玲司はカウンター席から引き剥がされた。
「さ、ここに座って」
玲司はソファに拉致された。
強気の美人、晶が玲司の胸元をまさぐった。
「タバコは吸わないんだ。玲司さん、タチでしょ? 僕、玲司さんみたいな綺麗な人、大好き。……アレも大きそう」
「晶。がっつきすぎだ! 玲司さん困ってるだろ」
「そういう陽翔だって目にハートマークが浮かんでるよ? 玲司さんのこと狙ってるでしょ」
玲司は晶の手を静かに退けると、優しく微笑んだ。
「僕、陽翔くんと話したいんだ。カウンター席に戻っていいかな?」
「えーっ、陽翔狙い? 趣味悪っ! 陽翔って絶対マグロだよ。フェラだって絶対に下手」
晶は毒舌の限りを尽くすと、ソファにどっかりと座った。
「陽翔くん、ごめん。僕のせいで嫌な思いをさせてしまったね」
「いいんですよ。晶はあれが通常運転だから。俺の大切な仲間です」
「きみっていい子だね」
玲司がウーロンハイを傾けた。ふとした仕草が映画のワンシーンのように美しい。
「探してた本が見つかった時、陽翔くん、すごく嬉しそうな顔をしてたよね。とても素直で可愛いなって思ったんだ」
「俺は大したルックスじゃないと思いますが……」
「そんなことないよ。魅力的だよ」
陽翔は照れながら玲司に質問を投げかけた。
「あの……玲司さんってお仕事は何をされてるんですか? 俺は料理人です」
「予備校の講師だよ。担当は数学」
「すごい……! 勉強、得意なんだ……!」
「問題が解けた瞬間が、ともかく快感で。大学は数学科に進んだんだ。それで、数学を活かした仕事に就きたいと思って予備校の講師になったってわけ」
「好きなことがあるのって素晴らしいと思います。俺は料理以外だと、プロ野球を観ることぐらいですね」
陽翔のふとした発言に対して、玲司が食いついてきた。
「応援しているのはどこのチーム?」
「東京ジュラシックスです」
「そうなんだ? 僕と同じだね!」
「うちはじいちゃんの代からジュラシックスファンです」
「ご家族揃ってファンなんだ? うちもそうだよ」
玲司が「よかったー!」と言った。
「他チームのファンだったら喧嘩になってたかもしれない」
「政治と野球の話はしない方が無難だって一般的には言いますもんね」
「ねえ、今度一緒に試合を観に行かない?」
「えっ。俺とですか」
思いがけないボールが飛んできたので、陽翔は戸惑った。
でもここで見送ったら、きっと後悔する。陽翔は玲司の優しい笑顔に魅了されていた。もっと玲司と同じ時間を過ごしたいと思う。
「ぜひお願いします! うちの店は土日祝が休みです」
「土日祝のシフトが入っていない日というと……××日だね。陽翔くんは空いてる?」
「はい。大丈夫です」
陽翔は笑顔になった。
そんな陽翔を、玲司が穏やかなまなざしで見つめていた。
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