【完結】サボテンになれない俺は、愛の蜜に溺れたい

最終話

　休日なのに、外はあいにくの雨だった。
　陽翔は玲司のマンションに来ていた。
　本日の陽翔は、玲司にプレゼントされたモスグリーンのニットを着ている。

「綺麗なネックラインだね」

　玲司に褒められて、陽翔は嬉しくなった。
　ふたりは隣り合ってソファに座った。
　玲司が文庫本を読み始めた。よほど続きが気になるのだろう。ページをめくるスピードが速い。
　これまでの陽翔だったら、寂しさをこじらせてサボテン系男子になるしかないと思い詰めていたことだろう。
　今は孤独を感じることはない。
　陽翔はイヤホンを装着し、スマートフォンから流れてくるオーディオブックに耳を傾けた。朗読されている内容は、玲司が読んでいる文庫本と同じだ。
　活字が苦手な自分でも、音声ならば物語を楽しむことができる。オーディオブックと出会ってから世界が広がった。最近は通勤の際にもオーディオブックを聞いている。
　お昼になった。
　陽翔はキッチンに立って、タコライスを作った。玲司が「美味しい！」と喜んでくれた。

「白いごはんって何にでも合うね」
「そうですね。可能性の塊です」
「陽翔くん、お話をどこまで聞いた？」
「第三章までです」
「じゃあ、もうすぐでおしまいだね。聞き終わったら、感想を教えて」
「分かりました！」

　恋人ができて、その相手と小説の感想を伝え合う日が来るだなんて、思ってもいなかった。
　ランチを終えたふたりは、ソファに戻った。
　玲司が読書を再開する。陽翔はその美しい横顔をしばし眺めたあと、オーディオブックの再生ボタンをタップした。



（了）