【完結】ワンコ系オメガの花嫁修行

古井重箱

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第11話 諦めない!

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「雨でぐちゃぐちゃになってしまいました」
「俺もだよ」
「お二人さん。うちの店においで」

 近くに店を構えていた串焼き屋さんが手招きしてくれたので、僕とレヴィウス様はお礼を言って屋台の中に入った。串焼きのいい匂いがする。それにしてもこの轟音はすごい。屋根を貫くような勢いで雨が降っている。
 シマ先生も僕たちに合流した。

「すごいな」
「天はだいぶお怒りのようです」
ことわりに反した縁を無理に結ぼうとした時、槍の雨が降ると決まっているのさ。逆に言えば、理と和合した縁が濃くなった時、槍の雨は収まる。そんなわけでお二人にはキスをしてもらいましょうか」
「えぇっ?」
「アズリール。許せ」

 レヴィウス様は僕の前髪をそっと上げると、額に軽く口づけた。レヴィウス様が僕にキス!? あまりの事態に驚いた僕はカチンコチンに固まった。レヴィウス様が「まだ足りないか?」と顔を寄せてきた。

「わわっ! もう充分です!」
「冗談だ。……きみはいい香りがするな。シトラスの爽やかな香りがきみによく似合っている」
「雨に濡れても香ってるってことは、アズリール様のフェロモンがレヴィウス様にとって快いんじゃないのかねぇ」
「シマ先生の言うとおりだ!」

 老夫妻が僕たちに拍手を送ってくれた。拍手の輪は子どもたちにまで広がって、あたりは再び賑やかになった。それと同時に、槍の雨が勢いを無くしていく。

「この降り方は、まるで糸の雨だな」
「そうですね」
「わーっ! 虹だあっ」

 子どもたちが歓声を上げる。
 わんぱくそうな少年たちがレヴィウス様の腕を取って、屋台の外へと連れ出した。

「隣国サンダスの人たちも戦いの手を止めて虹を見上げているといいですね」
「アズリール……」
「あの、レヴィウス様。すいません。いただいたハンカチ、こちらのご夫妻に差し上げました」
「構わないさ」
「家宝にします。アズリール様のイニシャル入りのハンカチと一緒に」
「さあて。アタシの仕事も忙しくなりそうだわ」

 シマ先生が腕まくりをした。

「一応、王太子妃の選定に関して占い師の意見も聞かれるからね。アタシはアズリール様を推薦するよ」
「私たちはこのよき日の証人になりましょう」

 老夫妻がレヴィウス様に一礼した。

「レヴィウス様。立派になられましたな」
「その声とその面差しはもしや……ヨアキム内務大臣か?」
「よくぞ覚えていてくださいました」
「アズリール。この方は俺が幼い頃、内務大臣を務めていたんだ」
「わあっ。すごい」
「国の運命を左右する王太子妃選びについて、私も黙ってはいられません。元老院の代表として陛下に意見させていただきましょう」

 ヨアキムさんは空を見上げた。

「みなの崇敬を集める国母の存在は欠かせません。民の心がバラバラになってしまったら、サンダスのように同胞の血で国土を染めることになるでしょう」
「ああ、ヨアキムの言うとおりだ」
「わが国もいくつかの民族から構成されております。平和的な共存のためには、互いを理解することから始めないといけません」
「そうだな。父上は標準語の普及を強引に進めようとしているが、俺は反対だ。土地の言葉にはその土地の人々が獲得した知恵が備わっている」
「然り」
「今度の会議で意見を出さねばな。アズリール、俺も忙しくなりそうだぞ」
「レヴィウス様」

 死神に取り憑かれていても、レヴィウス様はこの国の未来を見つめている。僕はレヴィウス様のお志に感動した。この方はやはり王太子になるべくしてなったお方だ。

「きみが傍らにいると、俺はどこまでも強くなれそうだよ、アズリール」
「僕だって」
「……例の件はもう少し足掻いてみる。きみとの未来を諦めたくない」

 ぞろりとレヴィウス様の背後から死神が半透明の姿をのぞかせる。シマ先生は絶句していた。霊感の強い方からすれば、死神はとんでもないバケモノなのだろう。僕にとって死神は敵だ。ケタケタとこちらを嘲笑してくる頭部をじっと睨む。

『アズリールというのか、人の子よ。おまえは呪われた王太子の番犬のようだ。だが、非力なおまえに何ができる』

 それはこれから探すさ。どんな手を使ってでも。

「レヴィウス様! 海浜公園で騒ぎがあったと聞いたので参りましたが、また民と交わっていたのですか!」

 ローデリヒさんの他、数人の騎士が現れてレヴィウス様を取り囲んだ。

「おいおい。俺は罪人ではないぞ? 民の声を聞かぬ父上の名代を務めたまでさ」
「そのような行為を国王陛下は望んでおられません」
「アズリール。また会おう」

 僕とレヴィウス様の絡みつく視線をぶった斬るように、ローデリヒさんが間に入った。レヴィウス様は騎士たちに連れられ、道を下りていった。
 シマ先生とヨアキムさんが僕を見つめている。

「運命っていうのはね。大切な人と一緒に織り上げていくものですよ。アタシもできる限りのことをしますから、アズリール様も頑張って!」
「はい!」
「ただし無茶はなりませんぞ。あなた様に何かあったら、レヴィウス様が悲しまれます」
「分かりました」

 僕は一礼をして、その場を辞した。



◇◇◇



 僕は海浜公園の遊歩道を爆進した。
 運命がみずからの手で織り上げていくものだとしたら、僕はレヴィウス様のために戦うまでだ。
 20歳の誕生日に死ぬ?
 そんな意地の悪い定めは、僕がいくらでも変えてやる!
 海浜公園を出た僕は、まっすぐにブランシェール学院には戻らなかった。冒険者ギルドに立ち寄る。
 雨水を吸ってぐちゃぐちゃになったドレスシャツを着た僕は、ギルドのカウンターで場違いな雰囲気を醸し出していた。でもそんなことを気にしている場合じゃない。

「あの。冒険者になりたいんです。そして、帰らずの森に挑戦したいです」
「あんたのクラスは?」
「……ええと、そういうのはよく分かりませんが守護聖獣がいます」
「その肩にのってるのがあんたの守護聖獣? おいおい、お坊ちゃま。冗談はやめてくれよ。護身用の聖獣ごときを連れて帰らずの森に挑むつもりかい? そんなの無理に決まっているだろう」
「じゃあ、新たな守護聖獣を捕まえます!」
「ほう? じゃあ、あんたの本気を見せてもらおうか。明日までに強力な守護聖獣を見つけて来たら、ギルドに登録してやる」
「約束ですよ」

 僕は冒険者ギルドの外に出た。
 シュマックが申し訳なさそうにうなだれる。

「このシュマックにもっと力があれば……」
「きみのせいじゃない。僕が欲張りなだけだ」
「アズリール様……」
「シュマック。守護聖獣って聖界に住んでるんだよね?」
「はい。この世とは別の空間に生息しております。聖界への扉は明け方に開きます」
「なるほど」

 ブランシェール学院に戻って、時が来るのを待つとしよう。
 レヴィウス様。
 僕、あなたを諦めたりしませんからね。
 死神だかなんだか知りませんが、あなたを苦しめる奴は追っ払ってみせます。
 僕の興奮が伝わったのか、シュマックが毛を逆立てた。
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