闇金の取り立て屋だった俺、愛されないと死ぬウサギ獣人に転生しちまった

古井重箱

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02. 今世のレギュレーション

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 異世界転生だって?
 冗談じゃない。
 俺はヤスに刺された時点で人生を終えた。それでよかった。俺みたいなチンピラは存在している価値がない。
 この二度目の人生ってのはなんなんだ? ここは地獄で、俺は罰を受けているのか?
 俺の絶望には気づかず、メリーナが明るい声で笑う。

「カイト。はい、プレゼントよ」

 差し出されたのは、ライオンのぬいぐるみだった。左右非対称で、縫い目も粗い。こう言ってはなんだが、ブサ可愛いというやつだ。

「もしかしてメリーナお姉ちゃんが作ってくれたの?」
「そうよ! お母様にも協力してもらったけど」

 メリーナが弟のことを思いながら縫い物をしている姿を想像して、俺はやりきれなくなった。俺はこの少女の大事な弟の意識をジャックしてしまったんだぞ? 贈り物を受け取る資格はない。

「どうしたの。気に入らない?」
「……俺には受け取れない。俺はカイトじゃないから」
「まだ嘘つきごっこを続けているの?」
「俺は転生者なんだよ! 前世は日本という国にいて、闇金の取り立て屋をやっていた。要するに、俺はカイトの意識を乗っ取った、ロクでもないチンピラだ」
「なんだ、そんなことを気にしていたの」

 メリーナが俺の悩みを一蹴した。
 俺は目を白黒させた。

「そんなことって。軽く流すなよ! 俺は前世だの転生だの、頭のおかしいことを口走っているんだぞ」
「だって私たち一家全員が転生者で、前世の記憶があるもの」
「えっ」

 それまで俺とメリーナの会話を見守っていたルッツが口を開いた。

「カイト。僕たち獣人は全員、前世では罪人なんだ」
「そうなのか!?」
「メリーナの前世は海賊だった。僕は結婚詐欺師。お父様はニセガネづくりの職人で、お母様は窃盗犯だった」

 衝撃の事実に俺は言葉を失った。
 罪人が獣人に転生する? そういうレギュレーションの世界なのか。

「ウサギ獣人に転生するのは、前世で誰のことも愛さなかった人間とされている。心当たりはあるかな?」

 ルッツの問いかけに俺はうなずいた。俺は前世で、金の延べ棒しか愛していなかった。裏組織の連中が女を紹介してくれたこともあったが、性欲を発散させるだけのセックスを数回したあと、すぐに別れた。

「いいかい、カイト。ウサギ獣人に生まれた者の定めは、愛し愛されることなんだ」
「……愛とか気持ち悪い。俺はそんなものを信じて生きてこなかった!」
「だからこそ生き直すんだよ。今世で」

 ルッツの言葉が胸に刺さった。
 俺は……人生をやり直すチャンスをもらったのか?
 呆然としている俺の肩に、ルッツがそっと手を置いた。

「カイト。自分の愛情通帳を見てみるんだ」
「愛情通帳? なんだ、それ」
「人差し指で四角形を描いてごらん」
「……こうか?」

 今は少しでもこの世界に関する情報が知りたい。俺はルッツの指示に従って、人差し指で四角形を描いてみた。
 すると、「ステータスオープン」という女性とも男性ともつかない声が聞こえてきて、俺の目の前に光り輝く長方形が現れた。
 やたらとキラキラしている図形を覗き込むと、そこには数値が記されていた。

『メリーナお姉ちゃんからの愛情、無限大
 ルッツお兄ちゃんからの愛情、無限大
 お父さんからの愛情、無限大
 お母さんからの愛情、無限大』

 なんだこれ? 
 愛情通帳って、相手から受け取った愛を数値という形で可視化できるのか。それにしても無限大って。俺、どれだけ家族から愛されてるんだよ。
 
「ルッツお兄ちゃんの愛情通帳はどんな感じなんだ?」

 俺が尋ねると、ルッツは申し訳なさそうに目を伏せた。

「愛情通帳は本人にしか見えないんだ」
「そうか……」
「カイト。僕たちの愛情がとても膨大なものだということが分かったでしょう? じゃあ、そのピカピカに輝いてる長方形を指で払って。そうすれば、愛情通帳を閉じることができる」

 用は済んだので、俺はルッツに言われたとおりにした。愛情通帳が虚空に消える。

「さあ、パーティーの続きをしよう」

 ルッツが歌と踊りを披露した。
 真面目そうなルッツがコミカルな仕草でおどけてみせたので、俺は思わず笑ってしまった。
 メリーナが両親と手を叩き合って喜びを爆発させた。

「カイトがようやく笑った!」
「よかったわ」
「私たちの息子は世界一可愛い」

 そういえば、俺って今世ではどんな姿をしているんだ? 急に気になってきた。
 俺は棚に近づき、手鏡を取った。
 楕円形の手鏡に映っているのは、どうということのない容姿の男児だった。髪はメリーナと同じミルクティー色で、瞳は黒。
 なんだ、平凡な顔立ちかよ。せっかく異世界転生したのだから、超美形に生まれてみたかった。

「俺の鼻……。もっと高ければよかったなぁ……」
「何を言ってるの、カイト。あなたはキュートよ!」

 お母さんが俺を抱きしめた。やわらかな腕とフローラル系の香りに包まれて、俺は泣きそうになった。
 ずっとこうやって誰かに愛されてみたかった。
 前世では親の顔を知らなかったから、親という存在に甘えてみたかった。

「カイトも五歳か。病気がちだったけど大きくなったわね」
「いつかパートナーを見つけて、このうちから出て行ってしまうんだよな。寂しいなあ」

 お父さんが嘆くと、お母さんがくすくすと笑った。

「あなた、先のことを考えすぎよ」
「でも、ウサギ獣人はパートナーを見つけないと死んでしまう。カイトもお見合いをいっぱいしないといけないな」
「えっ? なんですか、それ」
「ウサギ獣人に転生した者は、真実の愛を得る必要があるんだ。そうしないと、前世のカルマが浄化されなくてね。ウサギ獣人は愛の神ラフィナによって毛皮のコートの材料にされてしまうんだよ」

 おいおい。
 優しい家族と出会ったと思ったら、とんでもないレギュレーションが発表されたぞ。
 パートナーを見つけないと死ぬ?
 しかも遊びの恋じゃダメだってことだろ。そんなの無理ゲーすぎる。
 その時、俺は悟った。
 今世はボーナスステージなんかじゃない。前世とシステムは違うが、今世もまた生き地獄だ。
 なんだよ、真実の愛って。そんなもの、あるわけないだろう!
 なんとかして抜け道はないのか? 毛皮のコートの材料なんかになりたくない!
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