「チートでも目立たずにスローライフを送るための」実践講座

蛍さん

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1、転生してみよう!

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リグ・アドバースは、民衆達の中でもいまだに語り継がれる存在だ。


曰く、全属性を扱う「大賢者」であると。

曰く、特大魔法でさえも剣で叩き切る「剣聖」であると。

曰く、この世で最も硬いと謳われる龍の鱗を、素手で殴って壊す「武神」であると。

曰く、老いて退いたと思えば、いつのまにか若返って帰ってくる「不死鳥」であると。


曰く、「転生」と呼ばれる、死ぬ前の意識を保ったまま、次の人生を歩むことの出来る「固有スキル保持者」であると。


ーーーーーーーーー


いかにも高級といった構えのベットに横たわるのは、もういつ死んでもおかしくないような、はたから見ても明らかに衰弱が伺える老人。

そのベットの周りには、一人の人間も、動物もいない。

それどころか、この部屋には、他の家具が存在していなかった。


老人は、何もない部屋の中、ひっそりと事切れた。
最後に、一言、


静寂に言葉を残して。


「じゃあ…転生、行ってみますか。」


ーーーーーーーーー


ここに来るのも、随分久しぶりに感じるなぁ…

10回目の筈なのに、なんだか初めての場所みたい。

真っ暗だけど、音反響したりするのかな?

あ、そっか、喋れないんだった。

この真っ暗な空間は割と好きなんだけど、体が無いのがちょっとな~

真っ暗って目がないだけの気がするし。

『次の転生に転生で手に入れるものを、一つだけ思い描いて下さい。』

まあ、さっさと出ますか。丁度、「アナウンス」も来たことだし。

えーと、強く思う、で良かったよね?

じゃあ……「可愛いペットで!」


ーーーーーーーーー

目を開けると、そこはまず人が通る事の無いような森の奥地だった。
木の葉の間から漏れてくる光がやけに心地よく感じる。

「いっつも人通りのないこの場所なのは有難いけど、もうちょっとベチョベチョじゃない所に下ろして欲しいよね、ほんと!」

右手からは風魔法を、左手からは水魔法を展開させてみる。

「おけおけ、ちゃんと使えるみたいだね。魔法使えるって便利だよね~、最高っ!」

そう言って、濡れた土がついた服を乾かしていく。

次々と他の属性の魔法も使ってみるが、特に問題無さそうだ。

「容姿もちょっと弄らないと。」

装備されていた、如何にも安物といった剣で、自分の顏を確認した。
鈍く光るそれには、絶世…とまではいかないが、充分整った顔が映し出される。

「容姿もいっつも変わらないから、あんまり面白みもないんだよね。」

ありふれたダークブラウンの髪色に、15歳としては平均的な身長。
だからこそ、というか、どんな容姿でも良くも悪くも目立ち過ぎる、真っ黒な瞳。

「前々回の転生は、この瞳の色を変える幻覚魔法が甘かったせいで、見破られて宮中に連れて行かれちゃったからね。気合い入れてやらなくちゃ!」

この世界での瞳の色は、髪色と同じように特に意味を持つものではない。
強いて言うならば住んでいる地域によって傾向があるということくらい。

ただ、黒色だけは違う。
黒色は、固有スキルを持つものが、一度でもその能力を発動させた時に本来の色に関係無く変色する。
黒色といっても、若干の個人差があって、彼のように真っ黒になる者もいれば、薄い、グレーのような色の者もいる。
それ以外の者で、黒色、若しくはそれに近しい色を持つものはいない。

固有スキルとは、15歳の成人した際に発現するスキルと同じ時期に、スキルとして授けられるものだが、
その名の通り自分以外にそのスキルを持つ者はおらず、発現率は非常に低い。
そして、強力な物が多い。

だから、黒色の瞳の者は、見つけ次第宮中へと「招待」されることになる。

「あれ、一回バレたら地獄まで付いてくる勢いだから、逃げ切って優雅なスローライフとか、本当、出来るわけないんだよね…」

黒色の瞳を、明るめの茶色に変えたら、ついでに認識阻害魔法もかけておく。
簡単に言えば、自分の細部を思い出しにくくする魔法だ。

「強い人には、あんまり効かないけど、無いよりはマシだよね。」

もう一度剣の断面で、角度を変えながら確認する。

「うん!おっけー!
今回は一味違うよ!今までの転生のデータから、絶対に理想のスローライフを実現してみせる!」

決意を固める彼の声量が大きかったのか、少し離れた場所からごそごそと物音がする。

「そう言えば、今回の転生は、可愛いペットをお願いしたんだった。
やっぱスローライフには必要だよね。

転生時のお願いも、駄目なものとか色々あるからなー、現にスローライフとかもダメだったし。
ペットが大丈夫で良かった~」

物音の方から、上に覆い被さっていた木の葉を押しのけて、「可愛いペット」が姿を現わす。

目にしたその生物の容貌に、思わずリグは手で口元を覆った。

鋭い爪に、賢く聡明そうな赤色の瞳。
全身を覆う、傷一つ付いていない漆黒の鱗。




現れたのは、手乗りサイズのドラゴンだった。



視認してから、全く動かなかったリグが、呼吸を思い出したかのように一気に息を吸って、早口で息もつかずに言い切った。



「えっ…可愛すぎでしょ。

意味わかんない。もう吐きそうなんだけど、幸せを吐き出しそうなんだけど。」


名もなきドラゴンは、そんな主人の姿を見て、不思議そうに首を傾げた。

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