「チートでも目立たずにスローライフを送るための」実践講座

蛍さん

文字の大きさ
4 / 26

4、魔物狩りだああああ!

しおりを挟む


「この肉結構美味しいねー。」

火魔法でこんがり焼き上げられた魔物の肉にかぶりつくリグ達の後ろには、
積み上げられた強力な魔物達の死体。

リグの横に座り込むドラさんの瞳には、最早、生気を感じられない。

「どうしたの?ドラさん。
美味しいよ?
食べようよ。」

促されたドラさんは、まるで脅されたかのように、顔の色を真っ青に変えて、急いで肉にかぶりつき始めた。

(あんなに一生懸命かぶりついて、お腹空いてたのかな?
取り敢えず食べれるようで安心したけど、これからは気に掛けないとな。)

「焼いただけだけど、結構いけるでしょ?

強い奴の方がなんか美味しいんだよね~」

ドラさんは、取れそうなほどに勢いよく首を縦に振る。

「そっか、よかったよ~」

そう言って、リグは指でドラさんの頭を撫でる。
ドラさんは身動き一つせずに、無抵抗に撫でられていた。

というか、放心状態であった。

(あー、可愛いっ!

無抵抗だし、今後も触っていって大丈夫そうだな~
無事に距離を詰められているようで一安心。

やっぱり、ドラさんは魔物の肉好きなのかな?
一息ついたら、もっと強い魔物狩りに行っても良いかもな。
美味しいやつ。

でも、調理できないんだよな~

予定的にもそんな魔物の肉を調理人に見せる訳にもいかないし。

…覚えようかな)

リグは、立ち上がって、軽く手で土を払う。
それから、丁寧にドラさんを手のひらで持ち上げて、鞄の中に入れる。

(まあ、どちらにせよ、一通り終わらないと話にならないよね。

腹ごしらえも済んだし、急ぎますか!)

「ドラさん、スピード上げるから揺れるかも知れないけど、ちょっと我慢してね。」

鞄にそう投げかけて、リグは走り出した。

残ったのは、積み上げられた死体と、火が消された焚き火の後だけ。

様子を遠巻きに見ていた魔物達が(速すぎだろ…)と、思ったとか思ってないとか。





森を抜けて、人目を避けて少し遠回りをしながら目的地へ向かった。
目的地は、『バーバード』の巣。

大陸に広く存在し、山の上などに巣を作るバーバードは、ランクでいうとCの魔物だ。
ただ、ランクCの中では、強い部類に属し、一部のはぐれを除いては山の上などの高所にしか存在しない。

素材などとして優秀ではあるものの、他にもっと弱くて割のいい魔物は沢山存在するため、街からの討伐依頼以外ではなく討伐に向かう者はほとんどおらず、遭遇する確率は極めて低い。

そして、「優秀なスキルを授かったそこそこ強い若者」であれば、「一人で倒しても、不自然というほどではない」。

これらの条件が、リグがバーバードを選んだ条件であった。

ある程度走れば、バーバードの巣がある山へとたどり着く。
人目がない事を確認して、速度を上げて、山を駆け登った。

巣のすぐ近くまで来て、身を隠すような格好で木の隙間を縫うように静かに歩いて行くと、一匹のバーバードが視界に入ってきた。

周りに人の気配は無い。

未だに気付かないバーバードに、後ろから静かに近づいた。

(入手するのは、一匹だけでいいから、

叫んで仲間を呼ばれないように。)

あらかじめ、斬れ味を上げるように強化魔法をかけておいた初期装備の剣で、バーバードの首を後ろから一突きで絶命させる。

血飛沫が巻き上がって、バーバードは声も出さずに倒れ込んだ。

(切断しちゃったら、武器性能を疑われそうだし、ちゃんと突きで殺さないといけないんだよね。

後、戦ったように傷も付けとかないと。)

リグは、手に持った剣で羽に数カ所傷をつけて、自分の服にもいくつか切れ込みを入れる。

少し服に血を滲ませるのも忘れない。

死体を空間魔法で収納して、素早くその場所から離れた。
行きと同じ通路で通って、森の中へと急ぐ。

血の匂いを嗅がれないように、行きの倍近いスピードで走る。

(今気付いたけど、これって森に着いてから血をつければ良かったじゃん!

失敗した…)

反省して更にスピードを上げる彼は、人の目には、しっかり人間と認識出来ない程だ。

結果として、森に着いた時には…

ドラさんは燃え尽きた灰になっていた。

「ごめん…ドラさん

街行くから、もっと良い鞄買おうね!
僕もスピード考えるし!」

そんなリグの問いかけにも、ドラさんが反応することはない。

(あ~、ちょっと休憩して行こうかな…)

森には、燃え尽きて灰になった小さなドラゴと、反省して頭を地面に打ち付けるチート性能の青年と、それを遠巻きに眺める魔物達という摩訶不思議な状況が作り出されていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

神様の人選ミスで死んじゃった!? 異世界で授けられた万能ボックスでいざスローライフ冒険!

さかき原枝都は
ファンタジー
光と影が交錯する世界で、希望と調和を求めて進む冒険者たちの物語 会社員として平凡な日々を送っていた七樹陽介は、神様のミスによって突然の死を迎える。そして異世界で新たな人生を送ることを提案された彼は、万能アイテムボックスという特別な力を手に冒険を始める。 平穏な村で新たな絆を築きながら、自分の居場所を見つける陽介。しかし、彼の前には隠された力や使命、そして未知なる冒険が待ち受ける! 「万能ボックス」の謎と仲間たちとの絆が交差するこの物語は、笑いあり、感動ありの異世界スローライフファンタジー。陽介が紡ぐ第二の人生、その行く先には何が待っているのか——?

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

処理中です...