3 / 26
3、転移してみよう!
しおりを挟む森を抜けて、少し歩くと崖に辿り着く。
人は、誰一人としていない。
最初の森やこの崖に人が居ないのは、この丘の頂上に、ドラゴンが存在しているからだ。
無謀な冒険者が挑みに来ることはあるが、普通の人がこの辺りに来る事は無い。
(人もドラゴンもいなくて本当に良かった。
ここはサンダードラゴンだったかな?
Aランク野魔物だし、まあ余裕で倒せるけど、なんか宮廷魔導師のおじいちゃんが『魔素の流れが!』とか言って詮索しようとするからな~)
彼がここに来たのには、空間魔法に問題があった。
空間魔法には、物を異空間に収納する魔法と、自身を転移させる魔法が存在する。
この空間魔法は、文献に載っている「賢者」の固有スキルを持っていた人しか取得したことがなく、全属性の魔法を使うことの出来るリグしか、今空間魔法を使う者はいない。
(この空間魔法って、便利に思えるけど、結構制約があって面倒くさいんだよね。
自分の転移の時に触れてたら他人も転移出来るけど、他人だけ転移ってのは出来ないし。
一番面倒くさいのは、転移の『ポイント』まで行かないと転移出来ない事なんだけど。)
転移の魔法は、リグが『ポイント』と呼んでいる、特定の場所の間でしか転移することは出来ない。
この丘もポイントの一つである。
最初の森から近く、尚且つ人があまりより付かない場所であり、リグがここに来たのもこれに理由があった。
リグは、崖の上に立って、呟くように詠唱を始める。
彼の体に、小さな光が収束していって、一定の光量で止まった。
そして、大きく息を吸って、大声で叫ぶ。
「転移!」
光に呑み込まれて、リグの姿は崖から消えていった。
ーーー
目を開けると、そこは真っ暗な森の中心部。
周りには、不気味に垂れ下がった、黒色の木。
この場所は、この世界の一番大きな大陸の、最端に存在する森。
まだ人類が辿り着いていない場所だ。
正確に言えば、人類が辿り着いていない事になっている場所。
そう、ここには、リグ以外の人物が入って来たことはない。
その理由は、簡単だ。
ただただ、ここの魔物が強いから。
冒険者ギルドで設定される、魔物の危険度に応じたE~Sのランク。
あくまで「危険度」であり、強さの指標では無いが、Sランクの魔物にもなると、街一つを単独で壊滅させることが出来る。
そんなSランクの魔物が、この森には大量に存在していた。
“何故ここの魔物が強いのか、そして、何故ここから強い魔物が出ていかないのか。”
その答えは、魔物の生態にあった。
魔物が人を襲う理由。それは、一部の例外を除いて同じだ。
人間の体の中に僅かに存在する、魔物が普段取り込むことの出来ない種類の魔素を取り込むため。
その魔素を取り込む事は、いわば食事だ。
魔物の生態は未だに謎が多いが、この魔素の情報は正しい可能性が高いそうだ。
その情報の検証に使われたのが、この森。
昔から存在し、強い魔物が大量に存在するこの森は、何人たりとも入り込むことができない。
入れば最後。
数十分もしないうちに殺される。
ほんの入り口で。
それ故に、この森になぜ魔物が強いのか、そしてなぜ出てこないのかは大きな謎だった。
この二つの謎は、森から漏れる魔素を解析したことによって解決される。
この森の魔素は、人間の体に含まれる魔素と同種類であることが分かった。
これによって、「食事」をする必要がなく、人里に襲いに来る必要がないのだと考察された。
そして、強い魔物ばかり存在について考察されたことが、「縄張り」の意識について。
この森についての考察が正しいのだと仮定するなら、当然この森はすべての魔物が欲しているものだ。
低ランクの魔物からすべて。
しかし、強いものしか存在しないのは、縄張りの意識であると。
それならば、本来殺される必要もない人間が殺される理由も説明できる。
そんな森の中で、リグは落ち着きはらった様子で、鞄からドラさんを取り出した。
「いい?ドラさん。
今回の僕たちの目標は、Cランクの魔物だ。
ここに転移した理由は、目的の魔物が見つかりやすい場所から近かったから。
だから、ここら辺の魔物をにちょっかい出しちゃだめだよ?
ただ、襲ってくるような身の程知らずがいたら、美味しくいただこうね。」
ドラさんは、どこか悟ったような瞳をして、声も出さずに頷いた。
(ん~、この森に入っても、特に反応がおかしくなる様子もないし、ドラさんって魔物じゃないのかな?
まあいっか、可愛いし。)
そう思って、リグはドラさんを肩に乗せて歩きだした。
魔物がはびこる森の中を。
0
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します
burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。
その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。
アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~
eggy
ファンタジー
もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。
村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。
ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。
しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。
まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。
幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。
「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
神様の人選ミスで死んじゃった!? 異世界で授けられた万能ボックスでいざスローライフ冒険!
さかき原枝都は
ファンタジー
光と影が交錯する世界で、希望と調和を求めて進む冒険者たちの物語
会社員として平凡な日々を送っていた七樹陽介は、神様のミスによって突然の死を迎える。そして異世界で新たな人生を送ることを提案された彼は、万能アイテムボックスという特別な力を手に冒険を始める。 平穏な村で新たな絆を築きながら、自分の居場所を見つける陽介。しかし、彼の前には隠された力や使命、そして未知なる冒険が待ち受ける! 「万能ボックス」の謎と仲間たちとの絆が交差するこの物語は、笑いあり、感動ありの異世界スローライフファンタジー。陽介が紡ぐ第二の人生、その行く先には何が待っているのか——?
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる