「チートでも目立たずにスローライフを送るための」実践講座

蛍さん

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3、転移してみよう!

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森を抜けて、少し歩くと崖に辿り着く。
人は、誰一人としていない。

最初の森やこの崖に人が居ないのは、この丘の頂上に、ドラゴンが存在しているからだ。
無謀な冒険者が挑みに来ることはあるが、普通の人がこの辺りに来る事は無い。

(人もドラゴンもいなくて本当に良かった。
ここはサンダードラゴンだったかな?
Aランク野魔物だし、まあ余裕で倒せるけど、なんか宮廷魔導師のおじいちゃんが『魔素の流れが!』とか言って詮索しようとするからな~)

彼がここに来たのには、空間魔法に問題があった。
空間魔法には、物を異空間に収納する魔法と、自身を転移させる魔法が存在する。

この空間魔法は、文献に載っている「賢者」の固有スキルを持っていた人しか取得したことがなく、全属性の魔法を使うことの出来るリグしか、今空間魔法を使う者はいない。

(この空間魔法って、便利に思えるけど、結構制約があって面倒くさいんだよね。

自分の転移の時に触れてたら他人も転移出来るけど、他人だけ転移ってのは出来ないし。

一番面倒くさいのは、転移の『ポイント』まで行かないと転移出来ない事なんだけど。)

転移の魔法は、リグが『ポイント』と呼んでいる、特定の場所の間でしか転移することは出来ない。
この丘もポイントの一つである。
最初の森から近く、尚且つ人があまりより付かない場所であり、リグがここに来たのもこれに理由があった。

リグは、崖の上に立って、呟くように詠唱を始める。
彼の体に、小さな光が収束していって、一定の光量で止まった。

そして、大きく息を吸って、大声で叫ぶ。

「転移!」

光に呑み込まれて、リグの姿は崖から消えていった。

ーーー

目を開けると、そこは真っ暗な森の中心部。
周りには、不気味に垂れ下がった、黒色の木。

この場所は、この世界の一番大きな大陸の、最端に存在する森。
まだ人類が辿り着いていない場所だ。
正確に言えば、人類が辿り着いていない事になっている場所。

そう、ここには、リグ以外の人物が入って来たことはない。

その理由は、簡単だ。

ただただ、ここの魔物が強いから。

冒険者ギルドで設定される、魔物の危険度に応じたE~Sのランク。
あくまで「危険度」であり、強さの指標では無いが、Sランクの魔物にもなると、街一つを単独で壊滅させることが出来る。

そんなSランクの魔物が、この森には大量に存在していた。

“何故ここの魔物が強いのか、そして、何故ここから強い魔物が出ていかないのか。”

その答えは、魔物の生態にあった。

魔物が人を襲う理由。それは、一部の例外を除いて同じだ。

人間の体の中に僅かに存在する、魔物が普段取り込むことの出来ない種類の魔素を取り込むため。
その魔素を取り込む事は、いわば食事だ。
魔物の生態は未だに謎が多いが、この魔素の情報は正しい可能性が高いそうだ。

その情報の検証に使われたのが、この森。
昔から存在し、強い魔物が大量に存在するこの森は、何人たりとも入り込むことができない。
入れば最後。
数十分もしないうちに殺される。
ほんの入り口で。

それ故に、この森になぜ魔物が強いのか、そしてなぜ出てこないのかは大きな謎だった。
この二つの謎は、森から漏れる魔素を解析したことによって解決される。
この森の魔素は、人間の体に含まれる魔素と同種類であることが分かった。
これによって、「食事」をする必要がなく、人里に襲いに来る必要がないのだと考察された。

そして、強い魔物ばかり存在について考察されたことが、「縄張り」の意識について。

この森についての考察が正しいのだと仮定するなら、当然この森はすべての魔物が欲しているものだ。
低ランクの魔物からすべて。
しかし、強いものしか存在しないのは、縄張りの意識であると。
それならば、本来殺される必要もない人間が殺される理由も説明できる。

そんな森の中で、リグは落ち着きはらった様子で、鞄からドラさんを取り出した。

「いい?ドラさん。

今回の僕たちの目標は、Cランクの魔物だ。
ここに転移した理由は、目的の魔物が見つかりやすい場所から近かったから。
だから、ここら辺の魔物をにちょっかい出しちゃだめだよ?

ただ、襲ってくるような身の程知らずがいたら、美味しくいただこうね。」

ドラさんは、どこか悟ったような瞳をして、声も出さずに頷いた。

(ん~、この森に入っても、特に反応がおかしくなる様子もないし、ドラさんって魔物じゃないのかな?

まあいっか、可愛いし。)

そう思って、リグはドラさんを肩に乗せて歩きだした。

魔物がはびこる森の中を。
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