『ペガサスが舞い降りる日』“僕の人生を変えた恋人”

大輝

文字の大きさ
16 / 31
第16章 桜の女王は鮮やかに

僕の人生を変えた恋人16

しおりを挟む
さあ全馬ゲート入りしたぞ。

「スタートしました!コユキは、好スタートからジョッキーが下げて後方の位置取り」

コユキの定位置だね。

「本当、いつもあんなに後ろでハラハラするわ」

桜の花びら舞い散る中、まだ幼さの残る3歳牝馬18頭が、駆け抜けて行く。

「ハナを切ったのは、2番カネノカンムリ、5馬身ほどのリードです」

コユキは、道中後方でじっと我慢して脚を溜めている。

「ジョッキーの言う事聞くようになったな」

「先頭はカネノカンムリ。これは大逃げだ。場内がどよめいています。リードは8馬身から10馬身、先頭から後方までは20馬身ほど」

それほど早いペースじゃないみたいだ。

我慢しきれると良いけど…

「3.4コーナー中間、カネノカンムリのリードは10馬身ほど。おっと!コユキが馬なりで上がって行く!絶好の手応えです」

捲り気味?

「大丈夫かしら?」

馬なりで、絶好の手応えだから、大丈夫だと思うけど…

のんびりしてたら、カネノカンムリの大逃げ捕まえられないもんな。

「第4コーナーを回って、最後の直線に向かいます。カネノカンムリのリードは、まだ5馬身から6馬身ほど、このまま逃げ切れるか」

コユキはまだ中段で、残り2ハロンだ。

「後方の馬が、カネノカンムリを捉えにかかる」

コユキはまだ来ない。

「ラスト1ハロン。大外から1頭もの凄い脚で追い込んで来た!」

「来た!!」

「大外からコユキ!果たして届くのか!?」

「コユキ頑張れ!」

「カネノカンムリは、馬群に飲み込まれた!大外からコユキが強襲!まとめてかわす勢い」

凄い脚だ!

「コユキです!ラスト1ハロンの女コユキ!1馬身半差で完勝!です。16番コユキ鮮やかに差し切りました」

「勝ったわ!!」

「本当にコユキよね?」

「だって、芦毛だったよー」

「本当に勝ったのね」

やってくれた…

密かに期待はしていたけど、とにかく無事に回って来てくれれば良いと思ってたんだ。

でも、コユキは、きっちり勝ってくれた。

「信じられないわ、ウチで生まれた仔が桜花賞を勝ってくれるなんて」

「まだ夢を見てるみたい」

「爺ちゃん達も喜んでるだろうねー」

「沢山褒めてあげなくちゃ」

「コユキ良い子良い子」

「頑張ったね」

「うん」


ウイニングランだ。

皆んな帰って行くのに、コユキは1人だけで「え?何?私どこに行くの?」ってキョトンとしているのが可愛い。

初めてのG1、初めてのウイニングランだもんね。

「口取り行こう」

コユキは桜花賞の肩掛けを掛けてもらってる。

本当に桜の女王になったんだな…

僕は、桜ちゃんを抱かせてもらって記念撮影だ。

春風牧場の人達に来てもらってよかったよ。

桜花賞の口取りの写真が寂しいと、コユキが可哀想だもんね。

皆んな並んで待っているんだけど、コユキは中々言う事を聞かない。

厩務員さんが引っ張って来るんだけど、皆んなの列から離れてしまう。

どうしてそこに連れて行かれるのか、わからないみたいた。

「コユキ良い子だね」

僕がそう言うと、桜ちゃんがコユキの鼻を撫でた。

「仲良し」

コユキは少し落ち着いたようだ。

ジョッキーが指を一本立てて「これで一冠」

記念撮影出来た。

表彰式が有るけど、僕はそういうの苦手だから、お姉さんとさつきさんに任せて逃げよう。

あ、コユキ、桜花賞の馬服着て可愛いぞ。

馬服もピンクで、桜花賞って書いて有る。

【厩舎】

「あいつ、勝負所で自分で動いたんです。中々賢い馬ですよ」

「ありがとうございました」

「これで、牝馬三冠狙えるのはコユキだけですからね」

「ええ、でも」

無理はさせないでほしい。

コユキは成長が遅めだから、ここで無理させてケガでもしたら、いや、最悪予後不良なんて、絶対嫌だ。

「大レースを勝ってくれるのは嬉しいんですけど、無事で居てくれるのが一番ですので」

「そうですね。俺は、派手なガッツポーズはしません。馬に負担をかけたくないので」

「そうですか、助かります。次も宜しくお願いしますね」

お姉さんもわかってくれているんだ。

サラブレッドは、ガラスの足。

ちょっとした事がケガにつながり命取りになるって、良く話すからね。

成長途中の馬は特に、骨折などに注意が必要だし、あまり無理させると、燃え尽きたりするのも心配だよね。

それでも次はいよいよオークスだ。

嫌でも期待がかかるね。

「菱ちゃん。オークスって?」

「優駿牝馬だよ。男の子で言うダービーだね」

「わー、大変ねー。コユキがそのオークスに出るのね」

オークスは、僕の一番好きなレース。

普通の人はダービーなんだろうけど、牝馬好きの僕はオークスだね。

恋人エアグルーヴが勝ってるからかな?


一生に一度、3歳の時だけしか挑戦出来ない三冠レースの1つ。

中でもオークスは2400mの距離、クラシックディスタンスで争われるんだ。

それまで、殆どの馬が走った事の無い未知の距離だし、東京コースだし、色々な意味で楽しみだな。

さて、今日はお姉さんは厩舎の人達と祝勝会が有るので、僕は春風牧場の人達と京都~

兄貴が旅館を取っておいてくれたので、皆んなで京都に向かった。

「あー、京都でゆっくりできたらいいのにねー」

さつきさんは、牧場を離れて旅行なんて滅多に無いらしくて、嬉しそうだ。

【京都の旅館】

「お腹空いたな」

「え?競馬場で食べてたじゃない」

「そうだけど」

「食いしん坊ね、メモメモ」

凛ちゃんのメモが始まったぞ。

「夕食はまだだよな」

「先にお風呂に入って来ない?」

「うん、行こう」

「桜も」

舞ちゃんと凛ちゃんは、桜ちを連れてお風呂に行った。

ここは、二間続きの部屋になっているみたいだ。

僕だけ別の部屋にしょうと思ったんだけど、一杯で予約が取れなかったんだ。

食事はここで、皆んなで一緒に出来るみたいだね。

「菱ちゃん、ちょっと良いかい?」

「はい」

さつきさんは、皆んなとお風呂に行かないから、どうしたのかと思っていたら、何か話しが有るみたいだ。

「舞の縁談は聞いてる?」

「あ、はい、聞きました」

「良い話しだと思うんだけどねー、舞が、うん、て言わないんだよねー」

「そうなんですか…」

「駿が問い詰めたんだけどねー、好きな人が居るみたいだ、って言うのよー」

え?好きな人…居るんだ…

そうなのか…

「はっきりは、言わないんだけどねー」

牧場の人でも、獣医さんの先輩でもないなら、誰なんだろう?

「なんだか、凛に遠慮してるみたいなのよ」

そう…なんだ…

「凛は凛で、お姉ちゃんに遠慮してるみたいでねー」

???

「菱ちゃんは、結婚は考えてるの?」

「えっ?」

「凛がね、大学出たら東京に行きたい、って言い出してねー。駿が「はんかくさい事言うでねえ!」って怒ったんだよねー」


凛ちゃんが東京に行きたい、って言い出してから、仲良し姉妹の仲が少しおかしくなったらしい。

「菱ちゃんは、23でまだ結婚は考えてないかも知れないけど、舞は24だからねー。女の子は早くしないと子供産むしねー」

「はあ…」

「舞と結婚する気が無いなら、そう言ってやってー」

え?

「あの子は、はっきり言わないけどねー、わかるのよーお母さんだからねー」

何がわかるんだ…???

あ、3人が帰って来た。

まだ少し濡れた髪。

ピンク色の肌。

お風呂上がりの女性は、綺麗だな…

「お兄ちゃん、お風呂は?」

「あ、行って来る」

ああ、お腹空いた。

さつきさんの話しも気になるけど、夕食の前にお風呂に行って来ないと。

まあ、僕のお風呂なんて、すぐだけどね。

サッパリした。

部屋に戻ると料理が運ばれて来た。

京懐石だね。

綺麗だ…

京都の地酒、玉乃光。

美味しい。

「抱っこ」

「食事の時は、抱っこはダメだよ」

「どうして?」

「お行儀悪いからね。はい、お兄ちゃんの横に座って」

「はーい」

あ…さつきさんと目が合った。

さっきの話しを思い出してしまった。

舞ちゃんの縁談…

凛ちゃんの上京の話し…

考えてたら、料理の味がわからないぞ。

凛ちゃんは、東京で一人暮らしするつもりかな?

大学は、来年までか…

舞ちゃんは、獣医さんの学校は6年間だから、最後の年だな。

卒業したら、お父さんみたいな、北海道の牧場を回る獣医さんになるんだよね。

食事も終わり、襖を開けると、奥の部屋に布団が敷いて有る。

「お兄ちゃんと寝る!」

「え?」


桜ちゃんが、布団に潜り込んだ。

本当可愛いな。

僕も一緒に寝よう。

………眠れないぞ。

「スースーzzZ」

桜ちゃんは、寝ちゃった。

疲れたんだね。

僕は、春風姉妹の事を考えていたら眠れない。

向こうの部屋から声がするけど…

襖を開けてみるわけにもいかないよね。

ああ、もう、寝よ寝よう。

明け方やっとウトウトした頃…

「菱さん、新聞!コユキが出てる!」

凛ちゃんの声で目が覚めた。

桜花賞、ラスト1ハロンの女コユキ桜の女王戴冠…

ラスト1ハロンの女…だって…

確かに、ラスト1ハロン物凄い脚で飛んで来たけど…

「爺ちゃん達も、祝杯を挙げたんだって」

「もう、取材の電話がかかって来たらしいよ」

「社長に聞いてみます、って答えといた、って、どうするー菱ちゃん?」

「え?僕?」

「菱ちゃん社長でしょう」

そうだった…まだ自覚が足りないな。

「牧場長に任せます。爺ちゃんにお願いして下さい」

そして、凛ちゃんのブログに載せている舞ちゃんの絵本『仔馬とペガサス』が完結した。

桜の花びら舞い散る中戴冠式の絵がとても綺麗だね。

コユキが桜花賞に勝ってから、春風牧場にも中央の調教師さん達が来るようになったんだ。

ユキの2013コユキの全弟、通称怪獣君を見に、馬主さんや調教師さんが来てくれるけど、馬主は葉月早紀に決まっているからね。

彼が何故怪獣君と呼ばれているかは、想像がつくよな…

怪獣君も、来年デビューだ。

お姉さんみたいに活躍してくれると良いけど、そうは簡単にいかないのが競馬の世界だからね。

G1を勝って種牡馬になれれば良いけど、なれなければ、乗馬か、芦毛だし誘導馬になるのも良いけど、気性矯正が大変だぞ。

そして最後は、春風牧場で引き取りたいんだ。

早く功労馬牧場を作らないとな…

まあ、今からそんな心配するより、まずは、次のコユキのオークスを楽しみにしよう。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく… なお、スピンオフもございます。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

旦那様の愛が重い

おきょう
恋愛
マリーナの旦那様は愛情表現がはげしい。 毎朝毎晩「愛してる」と耳元でささやき、隣にいれば腰を抱き寄せてくる。 他人は大切にされていて羨ましいと言うけれど、マリーナには怖いばかり。 甘いばかりの言葉も、優しい視線も、どうにも嘘くさいと思ってしまう。 本心の分からない人の心を、一体どうやって信じればいいのだろう。

処理中です...