『ショパンへのオマージュ』“愛する姉上様”

大輝

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第7章 ピアノ

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【オルフェウス学院裏庭の川】

学校の裏庭には綺麗な川が流れていて、小さな魚が泳いでいるんだ。

「ねえ、星さん。城咲先生が留学してた時、向こうに行ったりしたんですよね」

「うん。休みの時にはね」

「じゃ、じゃあー、聖十字架教会に、ショパンの心臓見に行きました?」

「行ったよ、勿論」

「良いなー。いつか私も見に行きたい…あー、なんなら一緒に。あ、やだ何言ってんの?私」

また、いつものブッブツが始まったぞ。

〈向こう岸に一条と取り巻き〉

「あそこ、城咲星さんよ」

「朝美さんも一緒だわ」

「あら、本当。生意気だわ」

〈ヒラヒラと舞う蝶々を目で追う晴香〉

「あ、蝶々」〈蝶々を追いかける〉

「危ないわよ」

「キャッ」〈滑って川に落ちる〉

「ほら、そうなるんだから」

 〈川の中尻餅つく晴香〉

「痛ーい」

「しょうがない奴だなあ」

〈健人がそう言って抱き上げる〉

「え?あっ、や」

(や、やだ、ブラウスが濡れて透けて見えちゃう)

〈自分の上着を脱いで晴香にかける星。星の顔見る晴香〉

「あ、ちょ、ちょ、下ろしてください」

「晴香ちゃん、大丈夫?」

そう言うと涼太は、ハンカチで拭いてやっていた。

この時季まだ川の水は冷たい。

風邪を引いたら大変だ。

〈向こう岸から見ている一条達〉

「何よあれ」

「本当気に食わないわね、朝美晴香」


【ピアノ科の教室】

〈タオルで濡れた服を拭いている晴香〉

(星さんの制服、綺麗にして返さなきゃ…寒っ、この時季川に入るのは、まだ早かったか)

「朝美さん。星さんに近づかないで、って言ったはずよね」

〈晴香の周りに一条と取り巻き〉

「え?そうだったっけ?」

「覚えてないなら、もう一度言ってあげるわ。星さんに近づかないで」

「そんな事言ったって、私、花園さんと」

「花園さんと仲良くしてれば良いのよ」

「だって、いつも星さんと花園さん一緒だから、そんな事言ったって無理だよ」

【洋食屋】

「あ、城咲陽さんよ」

「一緒に居るのは、岡崎葵さんだ」

〈奥の出窓の有る席に、陽と葵〉

「ここ美味しいのよ」

「何にしようかしら~」

「陽ちゃん、のんびりしてると午後の授業遅れちゃうよ」

「そうね~…」

「星ちゃん達、最近ここに良く来るみたいね」

「そうなのよ~だから、一度来てみたかったの」

【ピアノ科の廊下】

〈レッスン室に入ろうとする晴香。横から一条が扉に手をかける〉

「ここ、私が使うから」

「え?また?」

(うー何だか熱っぽい…逆らう気力が…今日は早く帰ろう)

【晴香の家】

〈ピアノを弾く晴香。曲は、ベートーヴェンの月光〉

「晴香、そろそろやめなさい。ご近所迷惑よ」

「あー、防音室が欲しい。防音室さえ有れば好きなだけ弾いていられるのにー」

(うーダメだ、調子悪い…寝よう)

【晴香の部屋】

〈ベッドに倒れこむ晴香〉

「zzZ」

【CDショップ】

〈クラシックの棚を見ている健人〉

(うーん…来てはみたものの、何買って良いんだか…?)

「橘さん」

「よう」

「何探してるんですか?」

「何ってわけじゃ…そうだ、お前が選んで」

〈健人の言葉を全部聞く前に叫ぶ晴香〉

「あー!」

「何だ何だぁ?」

「城咲先生のショパン!どっちにしようかなー、両方欲しいけど、お小遣い無くなっちゃうし、こっち?やっぱりこっち?うーん迷う…」

「じゃあ、俺こっち」

「え?私それにしようと思ったのに」

「じゃあ、そっち」

「えー、そっちー?」

「どっちにするんだよ」

〈結局2人で一枚ずつ買って店を出た〉

「聞いたら貸してやるから」

「橘さんがピアノのCDねえ」

「この前、お前と涼太の演奏聞いて、興味出てきた」

「じゃ、ヴァイオリンにすれば良かったのに」

「ヴァイオリンも良いけど、ピアノに」

「城咲先生の演奏近くで聞いたからねー」

「それも有るけど、その、なんだ、お前のピアノ良かったから」

〈照れて横向く健人〉

「ああ、ちょっと熱っぽい」

「風邪か?昨日川に落ちたりしたから」

「そうかも…帰って休みますー」

「ああ、大人しくしてた方が良いぞ」


【涼太の家】

〈ベートーベンのヴァイオリンソナタ第6番を演奏する涼太と晴香〉

今日は皆んなで涼太の家に来てるんだ。

秋のコンクールに向けての練習、2人だけじゃ嫌だ、って言うから、健人と一緒に来てるんだけど、邪魔じゃなかったのかな?

何だか晴香の様子がおかしいぞ。

「ごめんなさい、ミスタッチ…」

「大丈夫?具合悪そうよ」

「ちょっと風邪ぎみで…」

「ちょっとって…熱が有るみたい…少し休みましょう」

「でも、練習しないと…ああ、頭がクラクラする…」

「大丈夫か?だから大人しく休んでろ、って言ったのに」

「昨日遅くまでCD聞いちゃった」

どうしても練習する、と言ってきかない晴香を、三人で説得してソファに寝かせた。

説得と言うより、無理矢理かな?

「はい、これで頭冷やして」

「済みません…」

「それから、これ飲んで。紅茶に生姜と蜂蜜を入れたの」

「有り難うございます。花園さん、ヴァイオリンだけでも弾いてください。聞いていたいから」

涼太が弾き始めた。

「音楽で癒されるなんて」って言う人も居るけど、実際癒される事は有ると思うよ。

前に姉上が言っていたんだ。

演奏会の時、控え室でずっと具合が悪くて、ステージに上がっても最初は具合悪かったんだけど、弾いているうちにだんだん良くなってきた、って。


涼太がヴァイオリンを弾いてる…

僕は、ピアノの前に座った。

そして、途中から入って行った。

〈ソファに寝ている晴香と近くに座る健人〉

「星のピアノ初めて聞くなあ」

「これだけ弾けるのに、どうしてプロ目指さないんだろう?」

「あーーそれは言っちゃいけないみたいだぞ。さーんざん言われてうんざりしてるからな」

「だって、城咲先生に習おうと思えば習える、ピアニスト目指す人からしたら、羨ましい環境に居るのにねー」

練習が終わってしばらく四人で話していると、携帯が鳴った。

姉上からだ…

僕は、いつものようにハンズフリーにして話した。

「星君お願~い。今ね、お買い物に来てるんだけど、沢山買い過ぎちゃって、持てないの~」

皆んなが笑う。

はいはい、どこへでも迎えに行きますよ。

「じゃあ、僕は行くね。晴香、あんまり無理しないんだよ」

〈晴香の頭をポンポンとする星〉

「あー俺、晴香送って行くわ。だから心配すんな」

そして僕は、姉上の待つデパートへと向かった。

急がないと、待っている間にまた買い物をしかねないからね。


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