16 / 26
第16章 それぞれの身の上
しおりを挟む
【アッサムの屋敷】
「ミャー」
「良し良し、良い子だ」
〈猫を抱くアッサム。アッサムに甘える猫〉
この子の名前は、アポロン。
修道院の猫の名前は、アルテミス。
太陽と月…
太陽と月は、同時に我々の目に触れる事も有るが、ほんのわずかな時しか無い。
滅多に会えない私とローズマリーのようだ。
あれから何日過ぎたのだろう…
会えない時間は、途轍もなく長い時のように感じる。
〈猫を抱いて窓の外を見るアッサム〉
だいぶ雪が少なくなったな。
あの白い老竜は、どうしただろう?
【騎士団】
「アッサム。また出世したな。白竜は取り逃がしたと言うのにな」
「ナイト・キャラウェイ」
「私が代わりに塔へ行って、仕留めて来てやるか」
「キャラウェイ殿。今はもう、塔で白竜の目撃情報は有りませんよ。それに、口の利き方に気をつけた方が宜しいのでは?今は、アッサムの方が地位が上なのですから」
「己…」
「ルバーブ」
「気にするなアッサム。あ、いや、私も口の利き方に注意せねば」
「やめてくれ」
地位や身分など邪魔になるだけだ。
身分を持たぬ騎士達も大勢居る。
ナイトの家柄に生まれなければ、身分など無かったものを…
【アッサムの屋敷】
〈ローズマリーの手紙を読み返すアッサム〉
「私は、生まれてすぐに両親を亡くし、修道院に引き取られたのです。
修道院が私の家。
院長様や、他の修道女が家族なの。
そして、猫のアルテミスも大切な家族。
私達修道女は、ここで一生この家族達と暮らすのですよ」
修道女は、一生、恋も結婚もせず修道院で暮らすのだと言うが…
恋とは、しようと思ってするものではない。
してはいけないと思っても、自分にもどうしようもなくて…
魂が勝手に惹かれてしまう。
本当の恋とは、こういう物なのだと…私は知った。
【アルマンドの酒場】
〈大勢の客で賑わう酒場。騒ぐ男達。ドアが開く〉
「よう、アッサムさん。酒場に来るなんて珍しいな」
「バジルこそ、それほど呑めもしないのに酒場か」
「タイムみたいに酒豪じゃねえけど呑めるよ。ここは飯も美味いしな」
たまには来てみるものだな。
少し酒の回ったバジルが、身の上話しを始めた。
「俺はみなしごで、5才の時に、武闘家の師匠に拾われたんだ。爺さんは、俺に、自分の持てる技全てを教え込んで死んじまった」
「そうだったのか」
「ああ…また今度、酔ってない時に、ゆっくり話して聞かせてやるよ。ファー…眠くなってきた…」
【ギルドの魔獣の小屋】
〈自動餌やり機から燻された肉が出て来る。肉を食べるルナとミストラル〉
「ちゃんと噛んで食べるんだよ」
「ガウー」
「ガォー」
「今日は、タイム1人か」
「うん。バジルはセージさんと一緒に、発明の材料になる物を探しに行ったよ」
ミントは、ギルドの受け付けだな。
「最近、カモミールおばさんが、良くご飯に誘ってくれるんだ」
「そのようだな。タイムもバジルもミントも、皆んなうちの子みたいなもんだ、と言っていた」
「本当?嬉しいな」
「ガゥガゥ」
「ガォガォ」
「僕ね、小さい時、傭兵だった父さんが戦死して、母さんは出て行ったっきり帰らなくて、親戚を頼って暮らしてたんだけど、居辛くて出て来ちゃったんだ」
「そうか、大変だったな」
「母さん…まだ、どこかで生きてるのかな…?小さい頃別れたっきりだから、良く覚えてないや。カモミールおばさんみたいな人なら良いんだけどな」
【ギルド・レ・シルフィード】
「それは、2年前の冬の話しです」
「何の話しだ?ミント。俺にも聞かせろよ」
「ミントが、初めてこの町に来た日の話しを聞いてるんだよ」
「私、それまで伯爵家の小間使いをしてたんですけど、お屋敷で酷い目にあって、飛び出して来たんです」
「だいたい貴族なんて奴らは、俺達を人とも思ってねえからな」
「バジル」
「いけねえ…すまん。アッサムさんも貴族だった」
「いや、構わんよ」
本当に、身分など無ければどれほど楽か…
「貴族が皆んなアッサムさんみたいなら、良いのにね」
「私は、もう貴族のお屋敷にお支えするのは、死んでも嫌です」
この子の身に、どれほど辛い事が有ったと言うのだろう…?
あれは、私が正騎士になってまだ間も無い頃だった…
【伯爵家】
〈小間使いの手に触り、肩を抱く伯爵〉
「おやめ下さい、旦那様」
「良いではないか、ミント」
〈伯爵は、ミントの服を破る〉
「嫌!」
「待てと言っておるのに」
「嫌です!やめて!」
「金が欲しいか?なら、言う事を聞くのだな」
〈必死で抵抗して屋敷を出るミント〉
【屋敷の外の道】
〈雪が降っている。振り返りながら走るミント〉
「あっ…」
〈靴か脱げる。屋敷を振り返り、裸足で走るミント〉
「夜が明けてきたわ…とにかく、出来るだけ遠くへ逃げないと…」
【海辺】
「お願いです。その船に乗せて下さい」
「どこまで行きたいんだ?」
「どこでも良いから、遠くへ」
【アルマンド城下町南門】
〈町へ入ろうと、大勢の人が並んでいる。その中にミントの姿が有った。破れた服に、裸足で震えるミント〉
(町に入れてもらえるかしら…?)
「お前達は、家族か?」
〈子供が、ミントと手を繋ぐ。子供の顔を見るミント〉
「はい、家族です」
「良し、通れ」
〈前の家族に紛れて町の中へ入るミント〉
「ありがとうございました」
「良いんだよ」
(大きな町ね…どこか、働ける所が有ると良いけど…)
【宿屋】
「何でもしますから、働かせて下さい」
「悪いね。雇ってやりたいんだけど、今人手は足りてるんだよ」
「そうですか…」
【酒場】
「お前さんに、酒呑みや、荒くれ男の相手が務まるとは思えないね。悪い事は言わないよ、他を当たりな」
「お願いです。皿洗いでも何でもします」
「そう言われてもな…悪いね」
【城下町】
〈フラフラと歩くミント〉
(お腹が空いた…お金も無いし、伯爵家の人に見つかって、連れ戻されるのは嫌だわ)
【橋の上】
〈川の流れを見つめるミント。雪が降ってくる〉
(旦那様に抱かれるぐらいなら…死んだ方がまし)
〈橋の欄干に登る〉
(そうよ…死のう…)
〈飛び込もうとした時、抱き抱えられる〉
「川の水は冷たいぞ。やめておけ」
「離して!」
「川に入るなら、夏に限る」
〈橋から下ろし見ると服が破れている。アッサムは、自分のマントをミントにかける〉
何が有ったのかは知らんが、放っておくわけにはいかん。
「あ…貴方も…私の体がお望みなの?」
「何を言っている」
「だって、貴方も貴族でしょう?」
「ああ、だが一番下の身分ナイトだ」
「貴族なんて、皆んな同じよ!離して!」
「良いから来い」
「嫌よ!離して!」
【コリアンダーのサロン】
「寒かったでしょう。私ので良かったら、これに着替えて」
「ありがとうございます」
「着替えたらヒーリングするから、そこに寝てね」
「はい…」
「アッサムは、出てなさいよね」
「あ…そうだな…わかった」
【キッチン】
「さあ、温かい物でも食べて。嫌な事はみんな忘れちまいな」
「ギルドを立ち上げたばかりで、人手が必要でな、手伝ってはくれぬか?」
「…」
「大丈夫よ。アッサムなら…女の子に興味が無いんだかなんだか…鈍感だし」
「う…うう…」
「あ、何か…まずい事でも言ったかな?」
「うわーん…あん、あん…」
そんなに泣かれては、どうして良いか…
「コリアンダー、助けてくれ」
【ギルド・レ・シルフィード】
「それで、ギルドで雇って頂いて、今日までお世話になってるわけですよ」
「そんな大変な事が有ったのか….」
「私は、だいたい聞いてたけど…良く皆んなに話す気になったわね」
「ずっと忘れたかったんですけど…お話し出来てスッキリしました」
「嫌な事は、無理に話さなくても良い」
「マスターは、何も聞かずに優しくして下さって…いつかはお話ししないと、って思ってたんです」
【道具屋】
「アッサムちゃん。もう傷は治ったかい?どれ、見せてご覧」
〈アッサムの腕を引っ張るカモミール〉
「だいぶ良くなったね、でも、ちゃんと薬をつけないと治らないからね」
カモミールおばさんは、そう言うと、薬を塗ってくれた。
幼い頃から、喧嘩をしたり、ペイジの修行でケガをすると、良くこうして薬を塗ってくれたものだ。
「本当に、身分の違いさえ無ければ、うちのコリアンダーを嫁に貰ってほしいよ」
「…」
「おや、いけない。これは言わない約束だったね…ほら、終わったよ」
薬を塗ると、ポンと叩いた。
「ありがとう」
(本当に、アッサムちゃんは…コリアンダーの気持ちはわかってるだろに…全く、朴念仁なんだから)
「コリアンダーほどの器量なら、いくらでも相手は居るだろうに」
「アッサムちゃん!だからあんたは朴念仁だ、って言うんだよ!」
そう、怒鳴らなくても…
「全く。ちっちゃい頃からあの子は…ブツブツ…で…あんたの事が…ブツブツ…て言うのに…」
またいつものブツブツが始まった。
何をブツブツ言っているのだろう?
「お母さん。もうそのぐらいで解放してあげたら~?」
セージの助け船だ。
逃げるとするか…
「アッサムー」
いかん、コリアンダーに見つかった。
【コリアンダーの部屋】
〈ワインを出すコリアンダー〉
「開けて」
〈ワインを開けて注ぐアッサム〉
「さーて、呑むわよー」
そして、酒が回ってくると、またいつもの幼い頃の話しが始まった。
「アッサム、小さい時は弱かったわよねー」
「いつの話しをしている」
「初めて会った時よ」
「あの時はまだペイジになったばかりだった」
【町の裏通り】
〈武具を抱えて歩く7才のアッサム。通りの脇から、十代の少年5人が出て来て取り囲む〉
「貴族の坊ちゃんが、こんな所を1人で歩いてやがる」
「金貨持ってたら、出せよ」
「持っていない」
「嘘言うな、出せ」
「無いなら、その武具をよこせ。売れば金になる」
「これは、大事な物だ。渡せない」
「なら、力ずくで奪うしかねえな」
〈剣に手をかけるアッサム〉
「お、何だ?剣を抜くのか?」
「一般市民に、剣を振り翳す気か?」
「お前達のような者を相手に、剣は抜かない」
「やっちまえ!」
「おう!」
〈取っ組み合いをする6人〉
「あんた達!何やってるのよ!」
〈ペンキ玉を投げつける〉
「うわ」
「くそ、逃げろ」
〈ペンキまみれになって、走って逃げる少年達〉
「ちょっと、大丈夫?貴方ペイジでしょ、どうしてやられっぱなしなのよ。その剣は飾り?」
「…」
「酷いケガ…うちに来て」
【道具屋】
〈アッサムのケガに薬を塗るカモミール。ヒーリングするコリアンダー〉
「お兄ちゃんが作ったペンキ玉を持ってて、良かった」
「はいよ。終わったよ、アッサムちゃん」
【コリアンダーの部屋】
「あの時貴方、騎士になったら、今度は私がお前を守ってやる、って言ったわよね」
「ああ」
「ちゃんと守ってよね」
「わかっている」
「先に死んだりしないでよ」
「もう、そのぐらいにしておけ」
〈アッサムは、コリアンダーからワインを取り上げる〉
「まーだ、呑むわよ」
「ミャー」
「良し良し、良い子だ」
〈猫を抱くアッサム。アッサムに甘える猫〉
この子の名前は、アポロン。
修道院の猫の名前は、アルテミス。
太陽と月…
太陽と月は、同時に我々の目に触れる事も有るが、ほんのわずかな時しか無い。
滅多に会えない私とローズマリーのようだ。
あれから何日過ぎたのだろう…
会えない時間は、途轍もなく長い時のように感じる。
〈猫を抱いて窓の外を見るアッサム〉
だいぶ雪が少なくなったな。
あの白い老竜は、どうしただろう?
【騎士団】
「アッサム。また出世したな。白竜は取り逃がしたと言うのにな」
「ナイト・キャラウェイ」
「私が代わりに塔へ行って、仕留めて来てやるか」
「キャラウェイ殿。今はもう、塔で白竜の目撃情報は有りませんよ。それに、口の利き方に気をつけた方が宜しいのでは?今は、アッサムの方が地位が上なのですから」
「己…」
「ルバーブ」
「気にするなアッサム。あ、いや、私も口の利き方に注意せねば」
「やめてくれ」
地位や身分など邪魔になるだけだ。
身分を持たぬ騎士達も大勢居る。
ナイトの家柄に生まれなければ、身分など無かったものを…
【アッサムの屋敷】
〈ローズマリーの手紙を読み返すアッサム〉
「私は、生まれてすぐに両親を亡くし、修道院に引き取られたのです。
修道院が私の家。
院長様や、他の修道女が家族なの。
そして、猫のアルテミスも大切な家族。
私達修道女は、ここで一生この家族達と暮らすのですよ」
修道女は、一生、恋も結婚もせず修道院で暮らすのだと言うが…
恋とは、しようと思ってするものではない。
してはいけないと思っても、自分にもどうしようもなくて…
魂が勝手に惹かれてしまう。
本当の恋とは、こういう物なのだと…私は知った。
【アルマンドの酒場】
〈大勢の客で賑わう酒場。騒ぐ男達。ドアが開く〉
「よう、アッサムさん。酒場に来るなんて珍しいな」
「バジルこそ、それほど呑めもしないのに酒場か」
「タイムみたいに酒豪じゃねえけど呑めるよ。ここは飯も美味いしな」
たまには来てみるものだな。
少し酒の回ったバジルが、身の上話しを始めた。
「俺はみなしごで、5才の時に、武闘家の師匠に拾われたんだ。爺さんは、俺に、自分の持てる技全てを教え込んで死んじまった」
「そうだったのか」
「ああ…また今度、酔ってない時に、ゆっくり話して聞かせてやるよ。ファー…眠くなってきた…」
【ギルドの魔獣の小屋】
〈自動餌やり機から燻された肉が出て来る。肉を食べるルナとミストラル〉
「ちゃんと噛んで食べるんだよ」
「ガウー」
「ガォー」
「今日は、タイム1人か」
「うん。バジルはセージさんと一緒に、発明の材料になる物を探しに行ったよ」
ミントは、ギルドの受け付けだな。
「最近、カモミールおばさんが、良くご飯に誘ってくれるんだ」
「そのようだな。タイムもバジルもミントも、皆んなうちの子みたいなもんだ、と言っていた」
「本当?嬉しいな」
「ガゥガゥ」
「ガォガォ」
「僕ね、小さい時、傭兵だった父さんが戦死して、母さんは出て行ったっきり帰らなくて、親戚を頼って暮らしてたんだけど、居辛くて出て来ちゃったんだ」
「そうか、大変だったな」
「母さん…まだ、どこかで生きてるのかな…?小さい頃別れたっきりだから、良く覚えてないや。カモミールおばさんみたいな人なら良いんだけどな」
【ギルド・レ・シルフィード】
「それは、2年前の冬の話しです」
「何の話しだ?ミント。俺にも聞かせろよ」
「ミントが、初めてこの町に来た日の話しを聞いてるんだよ」
「私、それまで伯爵家の小間使いをしてたんですけど、お屋敷で酷い目にあって、飛び出して来たんです」
「だいたい貴族なんて奴らは、俺達を人とも思ってねえからな」
「バジル」
「いけねえ…すまん。アッサムさんも貴族だった」
「いや、構わんよ」
本当に、身分など無ければどれほど楽か…
「貴族が皆んなアッサムさんみたいなら、良いのにね」
「私は、もう貴族のお屋敷にお支えするのは、死んでも嫌です」
この子の身に、どれほど辛い事が有ったと言うのだろう…?
あれは、私が正騎士になってまだ間も無い頃だった…
【伯爵家】
〈小間使いの手に触り、肩を抱く伯爵〉
「おやめ下さい、旦那様」
「良いではないか、ミント」
〈伯爵は、ミントの服を破る〉
「嫌!」
「待てと言っておるのに」
「嫌です!やめて!」
「金が欲しいか?なら、言う事を聞くのだな」
〈必死で抵抗して屋敷を出るミント〉
【屋敷の外の道】
〈雪が降っている。振り返りながら走るミント〉
「あっ…」
〈靴か脱げる。屋敷を振り返り、裸足で走るミント〉
「夜が明けてきたわ…とにかく、出来るだけ遠くへ逃げないと…」
【海辺】
「お願いです。その船に乗せて下さい」
「どこまで行きたいんだ?」
「どこでも良いから、遠くへ」
【アルマンド城下町南門】
〈町へ入ろうと、大勢の人が並んでいる。その中にミントの姿が有った。破れた服に、裸足で震えるミント〉
(町に入れてもらえるかしら…?)
「お前達は、家族か?」
〈子供が、ミントと手を繋ぐ。子供の顔を見るミント〉
「はい、家族です」
「良し、通れ」
〈前の家族に紛れて町の中へ入るミント〉
「ありがとうございました」
「良いんだよ」
(大きな町ね…どこか、働ける所が有ると良いけど…)
【宿屋】
「何でもしますから、働かせて下さい」
「悪いね。雇ってやりたいんだけど、今人手は足りてるんだよ」
「そうですか…」
【酒場】
「お前さんに、酒呑みや、荒くれ男の相手が務まるとは思えないね。悪い事は言わないよ、他を当たりな」
「お願いです。皿洗いでも何でもします」
「そう言われてもな…悪いね」
【城下町】
〈フラフラと歩くミント〉
(お腹が空いた…お金も無いし、伯爵家の人に見つかって、連れ戻されるのは嫌だわ)
【橋の上】
〈川の流れを見つめるミント。雪が降ってくる〉
(旦那様に抱かれるぐらいなら…死んだ方がまし)
〈橋の欄干に登る〉
(そうよ…死のう…)
〈飛び込もうとした時、抱き抱えられる〉
「川の水は冷たいぞ。やめておけ」
「離して!」
「川に入るなら、夏に限る」
〈橋から下ろし見ると服が破れている。アッサムは、自分のマントをミントにかける〉
何が有ったのかは知らんが、放っておくわけにはいかん。
「あ…貴方も…私の体がお望みなの?」
「何を言っている」
「だって、貴方も貴族でしょう?」
「ああ、だが一番下の身分ナイトだ」
「貴族なんて、皆んな同じよ!離して!」
「良いから来い」
「嫌よ!離して!」
【コリアンダーのサロン】
「寒かったでしょう。私ので良かったら、これに着替えて」
「ありがとうございます」
「着替えたらヒーリングするから、そこに寝てね」
「はい…」
「アッサムは、出てなさいよね」
「あ…そうだな…わかった」
【キッチン】
「さあ、温かい物でも食べて。嫌な事はみんな忘れちまいな」
「ギルドを立ち上げたばかりで、人手が必要でな、手伝ってはくれぬか?」
「…」
「大丈夫よ。アッサムなら…女の子に興味が無いんだかなんだか…鈍感だし」
「う…うう…」
「あ、何か…まずい事でも言ったかな?」
「うわーん…あん、あん…」
そんなに泣かれては、どうして良いか…
「コリアンダー、助けてくれ」
【ギルド・レ・シルフィード】
「それで、ギルドで雇って頂いて、今日までお世話になってるわけですよ」
「そんな大変な事が有ったのか….」
「私は、だいたい聞いてたけど…良く皆んなに話す気になったわね」
「ずっと忘れたかったんですけど…お話し出来てスッキリしました」
「嫌な事は、無理に話さなくても良い」
「マスターは、何も聞かずに優しくして下さって…いつかはお話ししないと、って思ってたんです」
【道具屋】
「アッサムちゃん。もう傷は治ったかい?どれ、見せてご覧」
〈アッサムの腕を引っ張るカモミール〉
「だいぶ良くなったね、でも、ちゃんと薬をつけないと治らないからね」
カモミールおばさんは、そう言うと、薬を塗ってくれた。
幼い頃から、喧嘩をしたり、ペイジの修行でケガをすると、良くこうして薬を塗ってくれたものだ。
「本当に、身分の違いさえ無ければ、うちのコリアンダーを嫁に貰ってほしいよ」
「…」
「おや、いけない。これは言わない約束だったね…ほら、終わったよ」
薬を塗ると、ポンと叩いた。
「ありがとう」
(本当に、アッサムちゃんは…コリアンダーの気持ちはわかってるだろに…全く、朴念仁なんだから)
「コリアンダーほどの器量なら、いくらでも相手は居るだろうに」
「アッサムちゃん!だからあんたは朴念仁だ、って言うんだよ!」
そう、怒鳴らなくても…
「全く。ちっちゃい頃からあの子は…ブツブツ…で…あんたの事が…ブツブツ…て言うのに…」
またいつものブツブツが始まった。
何をブツブツ言っているのだろう?
「お母さん。もうそのぐらいで解放してあげたら~?」
セージの助け船だ。
逃げるとするか…
「アッサムー」
いかん、コリアンダーに見つかった。
【コリアンダーの部屋】
〈ワインを出すコリアンダー〉
「開けて」
〈ワインを開けて注ぐアッサム〉
「さーて、呑むわよー」
そして、酒が回ってくると、またいつもの幼い頃の話しが始まった。
「アッサム、小さい時は弱かったわよねー」
「いつの話しをしている」
「初めて会った時よ」
「あの時はまだペイジになったばかりだった」
【町の裏通り】
〈武具を抱えて歩く7才のアッサム。通りの脇から、十代の少年5人が出て来て取り囲む〉
「貴族の坊ちゃんが、こんな所を1人で歩いてやがる」
「金貨持ってたら、出せよ」
「持っていない」
「嘘言うな、出せ」
「無いなら、その武具をよこせ。売れば金になる」
「これは、大事な物だ。渡せない」
「なら、力ずくで奪うしかねえな」
〈剣に手をかけるアッサム〉
「お、何だ?剣を抜くのか?」
「一般市民に、剣を振り翳す気か?」
「お前達のような者を相手に、剣は抜かない」
「やっちまえ!」
「おう!」
〈取っ組み合いをする6人〉
「あんた達!何やってるのよ!」
〈ペンキ玉を投げつける〉
「うわ」
「くそ、逃げろ」
〈ペンキまみれになって、走って逃げる少年達〉
「ちょっと、大丈夫?貴方ペイジでしょ、どうしてやられっぱなしなのよ。その剣は飾り?」
「…」
「酷いケガ…うちに来て」
【道具屋】
〈アッサムのケガに薬を塗るカモミール。ヒーリングするコリアンダー〉
「お兄ちゃんが作ったペンキ玉を持ってて、良かった」
「はいよ。終わったよ、アッサムちゃん」
【コリアンダーの部屋】
「あの時貴方、騎士になったら、今度は私がお前を守ってやる、って言ったわよね」
「ああ」
「ちゃんと守ってよね」
「わかっている」
「先に死んだりしないでよ」
「もう、そのぐらいにしておけ」
〈アッサムは、コリアンダーからワインを取り上げる〉
「まーだ、呑むわよ」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる