『アルマンドの騎士1』“魂の伴侶、それは魂の片割れツインレイ”

大輝

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第16章 それぞれの身の上

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【アッサムの屋敷】

「ミャー」

「良し良し、良い子だ」

〈猫を抱くアッサム。アッサムに甘える猫〉

この子の名前は、アポロン。

修道院の猫の名前は、アルテミス。

太陽と月…

太陽と月は、同時に我々の目に触れる事も有るが、ほんのわずかな時しか無い。

滅多に会えない私とローズマリーのようだ。

あれから何日過ぎたのだろう…

会えない時間は、途轍もなく長い時のように感じる。

〈猫を抱いて窓の外を見るアッサム〉

だいぶ雪が少なくなったな。

あの白い老竜は、どうしただろう?

【騎士団】

「アッサム。また出世したな。白竜は取り逃がしたと言うのにな」

「ナイト・キャラウェイ」

「私が代わりに塔へ行って、仕留めて来てやるか」

「キャラウェイ殿。今はもう、塔で白竜の目撃情報は有りませんよ。それに、口の利き方に気をつけた方が宜しいのでは?今は、アッサムの方が地位が上なのですから」

「己…」

「ルバーブ」

「気にするなアッサム。あ、いや、私も口の利き方に注意せねば」

「やめてくれ」

地位や身分など邪魔になるだけだ。

身分を持たぬ騎士達も大勢居る。

ナイトの家柄に生まれなければ、身分など無かったものを…

【アッサムの屋敷】

〈ローズマリーの手紙を読み返すアッサム〉

「私は、生まれてすぐに両親を亡くし、修道院に引き取られたのです。

修道院が私の家。

院長様や、他の修道女が家族なの。

そして、猫のアルテミスも大切な家族。

私達修道女は、ここで一生この家族達と暮らすのですよ」

修道女は、一生、恋も結婚もせず修道院で暮らすのだと言うが…

恋とは、しようと思ってするものではない。

してはいけないと思っても、自分にもどうしようもなくて…

魂が勝手に惹かれてしまう。

本当の恋とは、こういう物なのだと…私は知った。


【アルマンドの酒場】

〈大勢の客で賑わう酒場。騒ぐ男達。ドアが開く〉

「よう、アッサムさん。酒場に来るなんて珍しいな」

「バジルこそ、それほど呑めもしないのに酒場か」

「タイムみたいに酒豪じゃねえけど呑めるよ。ここは飯も美味いしな」

たまには来てみるものだな。

少し酒の回ったバジルが、身の上話しを始めた。

「俺はみなしごで、5才の時に、武闘家の師匠に拾われたんだ。爺さんは、俺に、自分の持てる技全てを教え込んで死んじまった」

「そうだったのか」

「ああ…また今度、酔ってない時に、ゆっくり話して聞かせてやるよ。ファー…眠くなってきた…」

【ギルドの魔獣の小屋】

〈自動餌やり機から燻された肉が出て来る。肉を食べるルナとミストラル〉

「ちゃんと噛んで食べるんだよ」

「ガウー」

「ガォー」

「今日は、タイム1人か」

「うん。バジルはセージさんと一緒に、発明の材料になる物を探しに行ったよ」

ミントは、ギルドの受け付けだな。

「最近、カモミールおばさんが、良くご飯に誘ってくれるんだ」

「そのようだな。タイムもバジルもミントも、皆んなうちの子みたいなもんだ、と言っていた」

「本当?嬉しいな」

「ガゥガゥ」

「ガォガォ」

「僕ね、小さい時、傭兵だった父さんが戦死して、母さんは出て行ったっきり帰らなくて、親戚を頼って暮らしてたんだけど、居辛くて出て来ちゃったんだ」

「そうか、大変だったな」

「母さん…まだ、どこかで生きてるのかな…?小さい頃別れたっきりだから、良く覚えてないや。カモミールおばさんみたいな人なら良いんだけどな」

【ギルド・レ・シルフィード】

「それは、2年前の冬の話しです」

「何の話しだ?ミント。俺にも聞かせろよ」

「ミントが、初めてこの町に来た日の話しを聞いてるんだよ」

「私、それまで伯爵家の小間使いをしてたんですけど、お屋敷で酷い目にあって、飛び出して来たんです」

「だいたい貴族なんて奴らは、俺達を人とも思ってねえからな」

「バジル」

「いけねえ…すまん。アッサムさんも貴族だった」

「いや、構わんよ」

本当に、身分など無ければどれほど楽か…

「貴族が皆んなアッサムさんみたいなら、良いのにね」

「私は、もう貴族のお屋敷にお支えするのは、死んでも嫌です」

この子の身に、どれほど辛い事が有ったと言うのだろう…?

あれは、私が正騎士になってまだ間も無い頃だった…


【伯爵家】

〈小間使いの手に触り、肩を抱く伯爵〉

「おやめ下さい、旦那様」

「良いではないか、ミント」

〈伯爵は、ミントの服を破る〉

「嫌!」

「待てと言っておるのに」

「嫌です!やめて!」

「金が欲しいか?なら、言う事を聞くのだな」

〈必死で抵抗して屋敷を出るミント〉

【屋敷の外の道】

〈雪が降っている。振り返りながら走るミント〉

「あっ…」

〈靴か脱げる。屋敷を振り返り、裸足で走るミント〉

「夜が明けてきたわ…とにかく、出来るだけ遠くへ逃げないと…」

【海辺】

「お願いです。その船に乗せて下さい」

「どこまで行きたいんだ?」

「どこでも良いから、遠くへ」

【アルマンド城下町南門】

〈町へ入ろうと、大勢の人が並んでいる。その中にミントの姿が有った。破れた服に、裸足で震えるミント〉

(町に入れてもらえるかしら…?)

「お前達は、家族か?」

〈子供が、ミントと手を繋ぐ。子供の顔を見るミント〉

「はい、家族です」

「良し、通れ」

〈前の家族に紛れて町の中へ入るミント〉

「ありがとうございました」

「良いんだよ」

(大きな町ね…どこか、働ける所が有ると良いけど…)

【宿屋】

「何でもしますから、働かせて下さい」

「悪いね。雇ってやりたいんだけど、今人手は足りてるんだよ」

「そうですか…」

【酒場】

「お前さんに、酒呑みや、荒くれ男の相手が務まるとは思えないね。悪い事は言わないよ、他を当たりな」

「お願いです。皿洗いでも何でもします」

「そう言われてもな…悪いね」

【城下町】

〈フラフラと歩くミント〉

(お腹が空いた…お金も無いし、伯爵家の人に見つかって、連れ戻されるのは嫌だわ)

【橋の上】

〈川の流れを見つめるミント。雪が降ってくる〉

(旦那様に抱かれるぐらいなら…死んだ方がまし)

〈橋の欄干に登る〉

(そうよ…死のう…)

〈飛び込もうとした時、抱き抱えられる〉

「川の水は冷たいぞ。やめておけ」

「離して!」

「川に入るなら、夏に限る」

〈橋から下ろし見ると服が破れている。アッサムは、自分のマントをミントにかける〉

何が有ったのかは知らんが、放っておくわけにはいかん。

「あ…貴方も…私の体がお望みなの?」

「何を言っている」

「だって、貴方も貴族でしょう?」

「ああ、だが一番下の身分ナイトだ」

「貴族なんて、皆んな同じよ!離して!」


「良いから来い」

「嫌よ!離して!」

【コリアンダーのサロン】

「寒かったでしょう。私ので良かったら、これに着替えて」

「ありがとうございます」

「着替えたらヒーリングするから、そこに寝てね」

「はい…」

「アッサムは、出てなさいよね」

「あ…そうだな…わかった」

【キッチン】

「さあ、温かい物でも食べて。嫌な事はみんな忘れちまいな」

「ギルドを立ち上げたばかりで、人手が必要でな、手伝ってはくれぬか?」

「…」

「大丈夫よ。アッサムなら…女の子に興味が無いんだかなんだか…鈍感だし」

「う…うう…」

「あ、何か…まずい事でも言ったかな?」

「うわーん…あん、あん…」

そんなに泣かれては、どうして良いか…

「コリアンダー、助けてくれ」

【ギルド・レ・シルフィード】

「それで、ギルドで雇って頂いて、今日までお世話になってるわけですよ」

「そんな大変な事が有ったのか….」

「私は、だいたい聞いてたけど…良く皆んなに話す気になったわね」

「ずっと忘れたかったんですけど…お話し出来てスッキリしました」

「嫌な事は、無理に話さなくても良い」

「マスターは、何も聞かずに優しくして下さって…いつかはお話ししないと、って思ってたんです」

【道具屋】

「アッサムちゃん。もう傷は治ったかい?どれ、見せてご覧」

〈アッサムの腕を引っ張るカモミール〉

「だいぶ良くなったね、でも、ちゃんと薬をつけないと治らないからね」

カモミールおばさんは、そう言うと、薬を塗ってくれた。

幼い頃から、喧嘩をしたり、ペイジの修行でケガをすると、良くこうして薬を塗ってくれたものだ。

「本当に、身分の違いさえ無ければ、うちのコリアンダーを嫁に貰ってほしいよ」

「…」

「おや、いけない。これは言わない約束だったね…ほら、終わったよ」

薬を塗ると、ポンと叩いた。

「ありがとう」

(本当に、アッサムちゃんは…コリアンダーの気持ちはわかってるだろに…全く、朴念仁なんだから)

「コリアンダーほどの器量なら、いくらでも相手は居るだろうに」

「アッサムちゃん!だからあんたは朴念仁だ、って言うんだよ!」

そう、怒鳴らなくても…

「全く。ちっちゃい頃からあの子は…ブツブツ…で…あんたの事が…ブツブツ…て言うのに…」

またいつものブツブツが始まった。

何をブツブツ言っているのだろう?


「お母さん。もうそのぐらいで解放してあげたら~?」

セージの助け船だ。

逃げるとするか…

「アッサムー」

いかん、コリアンダーに見つかった。

【コリアンダーの部屋】

〈ワインを出すコリアンダー〉

「開けて」

〈ワインを開けて注ぐアッサム〉

「さーて、呑むわよー」

そして、酒が回ってくると、またいつもの幼い頃の話しが始まった。

「アッサム、小さい時は弱かったわよねー」

「いつの話しをしている」

「初めて会った時よ」

「あの時はまだペイジになったばかりだった」

【町の裏通り】

〈武具を抱えて歩く7才のアッサム。通りの脇から、十代の少年5人が出て来て取り囲む〉

「貴族の坊ちゃんが、こんな所を1人で歩いてやがる」

「金貨持ってたら、出せよ」

「持っていない」

「嘘言うな、出せ」

「無いなら、その武具をよこせ。売れば金になる」

「これは、大事な物だ。渡せない」

「なら、力ずくで奪うしかねえな」

〈剣に手をかけるアッサム〉

「お、何だ?剣を抜くのか?」

「一般市民に、剣を振り翳す気か?」

「お前達のような者を相手に、剣は抜かない」

「やっちまえ!」

「おう!」

〈取っ組み合いをする6人〉

「あんた達!何やってるのよ!」

〈ペンキ玉を投げつける〉

「うわ」

「くそ、逃げろ」

〈ペンキまみれになって、走って逃げる少年達〉

「ちょっと、大丈夫?貴方ペイジでしょ、どうしてやられっぱなしなのよ。その剣は飾り?」

「…」

「酷いケガ…うちに来て」

【道具屋】

〈アッサムのケガに薬を塗るカモミール。ヒーリングするコリアンダー〉

「お兄ちゃんが作ったペンキ玉を持ってて、良かった」

「はいよ。終わったよ、アッサムちゃん」

【コリアンダーの部屋】

「あの時貴方、騎士になったら、今度は私がお前を守ってやる、って言ったわよね」

「ああ」

「ちゃんと守ってよね」

「わかっている」

「先に死んだりしないでよ」

「もう、そのぐらいにしておけ」

〈アッサムは、コリアンダーからワインを取り上げる〉

「まーだ、呑むわよ」


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