雪の青年と血を継ぐ令嬢

道端

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番外編 秘密のはなし〈ティスデード視点〉

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 幼い頃に一度、僕は王都に行ったことがあった。僕を産んでくれた母と今ではもう会おうとも思わない兄に手を引かれて歩く幼い頃の僕、色々な人が笑いあって幸せそうに道を歩く姿は、幼い頃の僕にとってキラキラとした宝石のように輝いて見えていた。

 きっと、僕もこんな風になるのだろうと信じて疑わずに。





「兄ちゃん、罪人のザタルガントの情報が欲しいんだって? もの好きだねぇ。そんなこと聞くなんて怖くて出来やしないよ」
「えぇ? どうしてですか?」
「そりゃ決まってるだろアンタ! 殿下が目を光らせてるって話さ。ザタルガントを庇った偉い人はみーんな平民に落とされたって」
「私達、ザタルガント様に優しくしてもらって……罪人だなんて信じられないんです。でもザタルガント様の話をするのは駄目だって。ここは裏通りの店なので表よりは良いんですけど、それでも怖くて」

「ふぅん、ありがとう。僕、王都来たの久々だからさぁ」

 にっこり笑ってそう言えば、話していた女性は赤く頬を染めてその噂の細かい部分まで教えてくれる。







 "ザタルガント公爵"の噂は、今では国中の人間が知るほど有名な話になっている。"あの"公爵が暗殺だなんて、罪人と仲良くしていただなんて気持ちが悪い、いや絶対にあの公爵は無実だ……色々好き勝手言われているようで、更に上の貴族たちなんて公爵派と殿下派で争っているようだ。僕が実際に耳で聞いた話だから実際はどこにどう噂の尾ひれがついているかは分からないけども。

 あの子を連れていくなら一度、あの子が雪の森で倒れていた理由を探ろうと思ってこうして王都まで来たけれど、王都で暮らす民はあまり知らなそうだな。予想していた情報しか手に入らなかった。

 一応本当かどうか確かめることが出来たから良かったのかな、やっぱり一度あいつに聞かないと駄目か。

「教えてくれてありがとう! 御礼にもう一杯頼んじゃおっかな!」 
「お! いいね兄ちゃん! 酒呑みに悪いやつはいねぇよ!」
「アンタ今仕事中でしょ! 樽を出してんじゃないよ!」

 ……酒場に来たのはしっぱいだったかもしれない。なんとなく、惨めな気持ちになってしまう。


「あの、もしよろしかったら今からお茶しませんか? 私、美味しいお茶が飲める場所知ってるんです」
 
 ぐいっとコップの中に入った酒を呑み干すと、いつの間にか隣に移動していた女性が僕の腕をとって少し上を向くようにして、甘い声でそう言った。僕はそれに、にっこりと計算して作った甘い笑みを向けた。



「ごめんね、君のこと興味ないんだ」




*

 開いていた窓へそっと木をつたって飛びこみ、薄暗い廊下に出る。前来たときはこちら側があんまり使われていないような印象だったけれども、どうやらそれは今もらしい。歩くたびに埃が待っているようで、これは普通な人じゃ通れないだろうな、カビ臭いし。勿体ないなぁ。まぁ、侵入しやすいから良いのかもしれない。

 前来たのはかなり昔だったけれども、もう何回も来たことあるからあいつがいる所までは迷わずに行ける。裏道通るの面倒くさいけど。あいつと会うのはこれで十回目くらいだから、もうそろそろ驚かないで対応してくれるかな。

 

 廊下に飾られている高そうな絵画を取り外すと、そこには道があった。この裏道はあの部屋までに続く道だ。中はさっきまでいた場所より湿っているようで、普通に息をするだけで気持ち悪くなってくる。あまり使われてない道だから仕方ないのか、それにしてももう少し手入れをした方がいい。

 そのまま歩いていくと、先程の絵画と似たような絵が彫られた扉がある。かなり古いのかドアノブは錆び付いているようで少しばかり鉄臭い。ギィと木が軋む音をたてながら扉を開けるとそこは書類や本が保管されている部屋だった。というより


「やぁ、テサ」
「……ハリシュアル嬢が雪の森へ連れていかれた時点で察していたが、本当にお前らは凄いな」


 ここはサールデシュト王国の王様の私室だ。


*
「今回は本当にうちの愚息がすまなかった」
「本当だよー」

 テサは深いため息をつきながら頭を下げる。王国の陛下に頭を下げさせるのって毎回思うけれどもかなり悪いことしている気がするなぁ。
 出された紅茶を飲みながらじっと目の前の男を観察する。どうやら、今回の事は国にとってかなりの損失になると理解している様子だ。バハンデーズ一族のことをよく知っているからこそ後悔と罪悪感でいっぱいなのだろう。

「君が後悔しているようでなによりだよ。僕にとっては嬉しいけどね、バハンデーズ一族の娘がやっと手に入ったんだ。大丈夫、僕が大切にするよ」
「ペットじゃないんだぞお前」
「分かってるよ、ちょっとした冗談さ。さて、陛下はどう対処するの? あの馬鹿……もとい第一王子」
「あぁ、やはりそうなるのか」

 テサはもう一度ため息をつくと「あいつを王にするのは無理なのだろう?」と弱々しい声でそう言った。僕はそれに笑顔で返す。

「当たり前だろう? ただでさえバハンデーズ一族は数が少ないんだ。それを潰そうとする、どれだけマズイことかわかってるの?」
「あいつは何も知らない無知な子供だ」
「それは君が教えなかったからだよ。そもそも証拠をでっち上げて罪を被せるのってどうなの? 可哀想なハリシュアル。今すぐにでもあいつを消したい」

 その言葉を聞いたテサの顔は真っ青になり、見ていて可哀想なくらい体を震わせる。ただの冗談なのに。


「僕から出す条件は二つだよ、テサ」

 近くにある真っ白な紙にさらさらとインクがついたペンで内容を書いていく。

「一つ、ハリシュアル嬢にはもう第一王子を関わらせないこと。第一王子とハリシュアル嬢が接触した場合、第一王子はもう諦めて」
「諦めるということは」
「まぁ、もう存在ごと消滅させるしかないよね。可哀想だけれども、いやハリシュアルが助かるのならそれは嬉しいことなのかな」
「……もう一つは?」
「第一王子の王位継承権の剥奪。あいつが国王だなんて認めないよ。あいつを国王にした瞬間、僕はサールデシュト王国の敵になる」

 その言葉を聞いたテサの顔は真っ青になり、見ていて可哀想なくらい体を震わせる。ただの冗談なのに。


「僕から出す条件は二つだよ、テサ」

 近くにある真っ白な紙にさらさらとインクがついたペンで内容を書いていく。

「一つ、ハリシュアル嬢にはもう第一王子を関わらせないこと。第一王子とハリシュアル嬢が接触した場合、第一王子はもう諦めて」
「諦めるということは」
「まぁ、もう存在ごと消滅させるしかないよね。可哀想だけれども、いやハリシュアルが助かるのならそれは嬉しいことなのかな」
「……もう一つは?」
「第一王子の王位継承権の剥奪。あいつが国王だなんて認めないよ。あいつを国王にした瞬間、僕はサールデシュト王国の敵になる」

 その二つを書き終わったあと、力をこめて誓約書に紙を変える。普通の誓約書よりこちらの方が信用できるものだからね。破ったら最悪死んじゃうけど。

「ザルトは……」
「王族のままでも良いけれど、王になるのは第二王子かなぁ。知ってるよ、そいつの方が使えるってこと。別にいいよね?」
「分かった。ザルト・サールデシュトの王位継承権は剥奪し、次期国王は第二王子のディカ・サールデシュトとする。そして、今後ザルト・サールデシュトはハリシュアル・ザタルガントに近づかないものとする」
「それでいいよ」

 テサにペンを渡し、誓約書となった紙にテサはサインする。
 テサのサインが書かれた誓約書に今度は僕がテサのサインの下に自分のサインをする。そうすると、誓約書は塵のようになって消えてしまった。

「いつ見ても凄いな」
「ふふ、便利でしょ。ちゃんと守ってね、守らないと死んじゃうかも知れないから」

 そう真っ直ぐテサを見て言うと、テサは慌ててこくこくと何度も頷いた。

「じゃあ僕はもう行くから。ハリシュアルの準備もあるしね」
「そうか、次会えるのは何年後だ? 久々に酒を用意しようと思ったんだが」
「んー、次会うとき君は死んでるんじゃない?」

 冗談めかしてそう言うと、テサは落ち込んだように「そうか」と呟いた。先程までの国王としての威厳はどこに消えていってしまったのだろうか。今は普通の男、というより子供みたいだなぁ。綺麗な赤い髪には白髪が混じりはじめているのに。

「じゃあねテサ。君の息子は嫌いだけれども君のことはちょっとだけ気に入ってるんだ。長生きしてね」
「あぁ、お前も幸せにな」


 その言葉に僕は苦笑いしか返せなかった。テサはそんな僕を見て紅色の瞳を細めて「じゃあな」と言った。


 僕はそんなテサを見ずに裏道に通じる扉に入っていった。
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