おばあちゃん百合ひとりアンソロジー

飛鳥井作太

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元女学園の王子様×気位の高いお嬢様

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 After

 いつもの第三土曜日。いつもの午後二時。
 窓辺に座る貴族然としたおばあさんの元に、これまた上品な……こちらはどちらかといえばまるで王様や王子様のように凛然としたおばあさんがやって来る。
 あとからやって来たおばあさんは、先客のおばあさんの向かいへ座ると、彼女の手を自然と取り、そこへそっとキスを贈る。……いつ見ても、流れるように自然な動作だ。思わずため息が零れる。歳を取っても、所作が美しければどんな仕草も様になるものだ。
「やあ、薔子。今日も麗しいね。その名の通り、薔薇のようだよ」
「……相変わらず、貴女は気障たらしくて嫌味だわ」
 しかし、薔子と呼ばれた(そうそう、ショーコさん!)おばあさんに、その美しい所作は効かないらしい。彼女は、潔癖そうな眉をただ顰めるだけ。これも、いつものこと。
「ふふっ、しかし満更ではなさそうだ」
「気持ち悪いこと言わないで下さる?」
「その証拠に。私と会うとき、君はいつものレース手袋を外してくれているじゃないか」
 あ、そういえば。私は、薔子さんの手にレースの手袋がはまっているのを見たことがなかった。お店に来るときも。出るときも。
「ッ、たまたまよっ」
「まったく、何十年経ってもつれないな。そこがいいのだけれど」
「どれだけ経っても同じ! 誰が絆されるものですか!」
 ……毎月同じ週の同じ曜日に会う約束をずっとしている。恐らく、何十年も。
 それだけで、何と言うか。
(だいぶん、絆されてませんか……?)
 私はその言葉を飲み込みながら、そっと薔子さんの前に、ご注文のロイヤルミルクティーを置いた。

 Before

「薔子」
 放課後。彼女はいつも、学園の端、特別校舎四階のベランダに居る。そこで一人、ただ物憂げに刺繡をしている。その美しさに、私は射貫かれた。
「何度も言っているでしょう。呼び捨てはやめて下さる?」
「いつになったら君は、私の方を向いてくれるのかな」
 小さな頃から、私が『王子様』のようにふるまえば、大抵の女の子は私の虜となった。しかし、彼女は違った。
「向くわけないでしょう。あなたみたいに軽薄な人、嫌いなの」
 そう言って、嫌そうにこちらを見る彼女の眼! あの冷たい眼で見られる度、私の心にぞくぞくとした得体の知れぬ感覚が走った。それは、嫌なものでは無かった。
「わからないよ?」
 彼女の隣へ無遠慮に腰かけ、その長い髪をひと房掬い上げる。
「案外と、私のような人間と何十年も交際が続いたりしてね」
「なにそれ。ぞっとしないわ」
 口を歪めてそう言えど、君はもう、私の手を拒んでいない。出逢った頃なら、髪に触れた瞬間、頬を引っ叩いていたろうに。私の唇が、勝手に綻んでしまう。
「何十年もこうして近付いて来る気?」
「もちろんだとも」
 例え君が結婚しようと。私が誰かと結婚させられようと。
「私が君の元に通うのは、誰にも止められない」
「……本当、ぞっとしないわ」
 吐き捨てるように言いながら、彼女は刺繍に視線を戻した。相変わらず、私を拒む気配は無い。掬い上げた彼女の髪に、私はそっと誓いのキスをした。

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