おばあちゃん百合ひとりアンソロジー

飛鳥井作太

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しっかりさん×うっかりさん

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 After

 少し大きめの駅で、人を待っていたときのことだ。寒くて、じめっとした雨の日だった。
 柱を背にぼんやりと改札を見ていたら、隣のおばあさんが動き出した。何とはなしに目で追えば、改札からこれまた一人のおばあさんがこちらに向かって歩いてくる。隣に居たおばあさんはシュッとした雰囲気の人だけれど、向かって来る人は、ほわんとした雰囲気のおばあさんだ。おばあさん、というより、おばあちゃんと言いたくなる感じ。
「あら。来てくれたの」
 ほわんとおばあちゃんが、シュッとおばあさんに向かっておっとり微笑んだ。
「傘。忘れて行ったろ。持ってけって言ったのに」
 まったくお前さんは。とぶつくさ言いながら、おばあさんは持っていた二本の傘のうち一本を差し出した。それは、真っ白な傘だった。雪みたいだ、とぼんやり思う。
「ごめんね、つい」
「迂闊なところは年を取っても変わらないね。寧ろ酷くなってんじゃないか」
「うーん」
 おばあさんの悪態に、おばあちゃんは困ったように小首を傾いだものの。
「しーちゃんが来てくれるって何処かで期待しちゃってるのかも。やっぱり、こうしてしーちゃんが迎えに来てくれてると、いつでも嬉しいものね」
 そう言って、またおっとりと微笑んだ。
「……まったく。どうしようもないね」
 おばあさんが一つため息を吐く。けれど、その眼に険は無く。寧ろ、先ほどよりもゆるりとほどけた空気があった。そのギャップに、胸がきゅんとなる。
「ふふふ」
 おばあちゃんが嬉しそうに笑い、それを合図にしたかのように、二人は歩き出した。並んだ肩をくっつけて。駅から出たら傘を差すため、またすぐ離れなくちゃいけないのに。
 その後ろ姿は、この肌寒い雨の日に、ほわほわとした温もりを私の胸に運んでくれた。 

 Before

 雨の日の下足室。今日は、私……白さが自慢の雨傘です……が大活躍する日です。嬉しいな、と思いつつ、持ち主の椎奈ちゃんと待ち人が来るのを待ちます。
 何人か見送って。また下足室に、椎奈ちゃん一人と私一本になったときでした。
「あれ、しーちゃん。どうしたの? まだ帰って無かったの?」
 待ち人が来ました。雪ちゃんです。私を買ってくれて、椎奈ちゃんに贈ってくれた人。
「どうしたのじゃない」
 椎奈ちゃんが、ため息を吐きました。そして、私を彼女に見せます。
「あ! 雨!」
 雪ちゃんが叫びました。
「そういえば私、傘持ってなかったね……」
「電車に忘れたーって自分で言ったの、もう忘れたのか」
「えへへ……」
 困ったように小首を傾げ、雪ちゃんが笑いました。
「だから、待っててくれたの?」
「そういうわけじゃないけど」
 そういうわけです。
「ほら、帰るよ」
「うん!」
 嬉しそうに笑う雪ちゃんを見て、ふっ、と一瞬椎奈ちゃんが微笑みました。私もにっこり笑いました。
 バサッと身体を広げ、二人を包みます。私の下に居るこの二人が、いつまでもいつまでも、倖せで仲良くありますように。ただ傘の身ではありますが願いました。
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