おばあちゃん百合ひとりアンソロジー

飛鳥井作太

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ハンバーガー屋先代店主×お煎餅屋先代店主

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 After

 うちの店は、老舗の煎餅屋だ。商店街の中にある。僕で七代目。先代はばあちゃん。ばあちゃんは、腰を理由に先日引退した。早くにじいちゃんを亡くしてからは、ずっと仕事が生きがいだったばあちゃん。ボケちゃわないかと少し心配だったのだけれど。
「ちょいと。染み抜きにいい方法は無いかい」
 おばあちゃんが引退した次の日。隣の手作りハンバーガー屋の先代がやって来た。本人たち曰く、二人は「客を取り合ったライバル同士」らしいんだけど。
「おやおや……。専用の洗剤が、今はたくさん売ってますよ」
「馬鹿だね。あっちの薬局まで行くのが面倒だから、アンタに聞きに来たに決まってる」
「まったく、無精になったものですねぇ。先代のお父様が泣きますよ」
「今はアタシが先代だよ。それで、方法は知ってるのかい。知らないのかい」
「……つまらなくなりましたね」
「ああ?」
「方法は知ってますよ、もちろん。けれど、ねぇ」
 僕は煎餅を焼きつつ、固唾を呑んで二人のやりとりに耳を澄ませる。
「昔の貴女だったら、教えを乞うなんてせず、『寄越せ』とばかりに喧嘩を吹っかけて来たでしょうに。年を取って、腑抜けになってしまいましたか」
「……引退したっていうから、ちょいと優しく話しかけてやりゃあ、このババア」
「あら、あなたもババアでしょう?」
 ほほほほほ、とばあちゃんの笑い声。
「花札を出しな。アタシが買ったら、アンタに染み抜きをして貰う」
「よろしゅうございます」
 あなたはそうでなくちゃ、と言うおばあちゃんの嬉しそうな呟きに、
(まだまだ心配しなくても良さそうだ)
 と僕は、こっそりホッとした。 

 Before

 文化祭まであと数日。何処の教室も気忙しく、賑わしい。そんな中でも、
「おい、煎餅屋! ちょっとツラ貸しな!」
 ひときわ大きな声が教室に響いた。声の主は、呼び出した相手の返事もろくすっぽ聞かず、ずかずか入り込んで来たかと思うと、
「あらあら」
 煎餅屋こと蛍さんの腕を掴んで去って行った。蛍さんは「皆さん、少々抜けますね」と落ち着いたご様子だったけれど。
「里香子さんったら、またなの」
 蛍さんと同じ班で作業をしていた私たちは、憤懣やるかたない。
 何たって、同じクラスの蛍さんは美人で賢く、博識で、どんなことを聞いても答えが返って来る。生活の知恵的な知識も豊富で、彼女に解決出来ない問題など無い。
つまり、男子のみならず女子にとっても憧れの存在であるわけで。
そんな彼女と同じ班になった。私たちの気分は高揚・好調・絶好調だったというのに。
「里香子さんたら、いつも蛍さんに突っかかるのよね。その癖いつも強引に連れて行って」
「そうそう、お家がお隣だからって遠慮が無いのよ。狡いわ」
「蛍さんが優しいから調子に乗ってるんだわ。蛍さんも一言言ってやればいいのに」
 私たちがぶうぶう文句を垂れている間に、蛍さんが帰って来た。
「途中で抜けてしまって、ごめんなさいね」
「そんなの気にしないで! 蛍さんこそ、大丈夫だった?」
「ええ。私のささやかな知恵をお貸ししただけです」
「ささやかだなんて! でも、お知恵を拝借したいならそう言えばいいのに」
 ねえ、と皆でまた文句でひと盛り上がりしかけたものの。
「あら。あの猪突猛進さが素敵なの」
 と微笑む蛍さんに毒気を抜かれた。普段より、断然笑顔が楽しそうで。
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