1 / 1
君への想いで発症する(歳の差男女。年上×年下。どちらも成人)
しおりを挟む
そろそろ夜に差し掛かる時間。
ティータイムには遅く、食後の一杯には早い。
そんな時間だけど、この喫茶店の賑わいはまだまだ静まらない。
みんな、思い思いにスイーツとお喋りを楽しんでいる。
華やいだ空気だ。その中にあって、俺は少し浮かない気分。
「まだかな……」
時計を見て、ふとぼやく。
心の中で、と思って気付く。
やべぇ、いま俺、声に出してた。小声だったようで、周りの誰もこちらを見ていない。みんな、パフェやらケーキやらに超夢中。セーフ。
いや、セーフか?
三十路を過ぎたおじさんが、ちょっと切ないでしょ。独り言なんてさ。そうでもない? そう? ありがとう。
と、一人で勝手に自問自答する。
脳内でこんな会話を繰り広げとかないと、ちょっと落ち着かない。
ほらまた。
「…………」
無意識にスマホを覗いて、新着メッセが来てないかチェックなんかしちゃってる。
さっきもしたでしょうが。学べ、俺。
そんなね、一分かそこらで状況は変わったりしないのよ。
(でも)
気になるもんは気になる。
ね。わかる。うん、わかるよ。
今の俺は、絶賛待ち合わせ中。
仕事帰りのあの子を待っている。
俺は定時で上がれたけれど、あの子から「残業がある」とメッセが来た。
本当は迎えに行く予定だったところを「申し訳ないから」とこの店を待ち合わせ場所に再設定された。
(残業なら、仕方ない。あの辺、喫茶店とか無いしね)
ここが指定になるのはわかる。
わかるんだけど。
(迎えに行きたかったな~~~~)
というのが、俺の本音。
珈琲カップの取っ手を無意味にいじりながら、つい、悶々と考えに耽ってしまう。
……俺に迎えに来られたくないから、ここを待ち合わせにしたんじゃないか。
とか。
じゃあ何で迎えに来て欲しくないんだ? とか。
もしかして、誰かもっといい人が出来たんじゃ……とか。
邪推。
それ以外の何物でもない。
あー、やだやだ。余裕が無い年上彼氏なんて、何の魅力も無いんじゃないの?
未だにこんなことで後ろ向きに考えちゃうなんてさ。
おっかしいなあ。俺、三十路を超える頃には、もっと余裕のある大人になってる予定だったのに。嫉妬も、邪推もしない、寛容な人間に。
かっこわりぃ。
とりあえず、珈琲をひと口飲んで頭と心を落ち着かせる。
よし。
別のことを考えよう。
余裕のない大人でも、それを自分自身で解決出来れば問題無い。
この前のおでかけのこととか、思い出してみる。
……可愛かったな。
俺と繋いだ手を見てにこにこしてるから「また見てる」ってからかえば、「何度でも噛みしめたい倖せなんです」って笑ってくれた。
そう、「私、ずっと嘉助さんとこうして手を繋ぎたいって思っていたから。この感動を忘れたくなくて」という、いつもの言葉と共に。
嬉しいよな。自分と一緒に居ることを、心から倖せそうにしてくれる人が居るってのは。
……まあそのあと、赤信号に気付かず道路を渡ろうとして焦ったんだけど。
あの子には、そんなちょっと迂闊なところがある。
この前も、段差に注意って張り紙を見ながら転びかけていたし。
その前も……。
「あ」
思わず、声が出た。
今日、ここに来るまでの道で工事があった。工事現場を囲んで作られた迂回路は、狭い上に足元の凹凸が酷く、人とすれ違うだけでも難儀した。
(……大丈夫かな)
急いで走って、転んだりしないだろうか。
人とぶつかって、難癖を付けられたりしないか。
気が気でなくなり、やはり迎えに行こうと顔を上げたときだった。
「お待たせしました……!」
「おひいさん」
「すみません、スマホの充電が切れてしまって」
息を切らして走って来る彼女を見て、はあぁぁ、と我知らず大きな息が零れる。
「? どうされました?」
「いや」
心配した、と言うのは、何となく憚られた。心配の前には、邪推もあったわけで。
しかし彼女は小首を傾げると、ふふっと微笑んだ。
「心配をおかけしてごめんなさい」
どうやら、お見通しだったようだ。
「でも、……ちょっと嬉しい」
その笑顔の可愛らしさに、俺は「敵わないなあ」と苦笑する。
そんないいもんじゃないよ、おじさんの心配なんてさ。
ああだこうだ、おろおろするばっかりで、格好悪いもんだ。
それでも。
「……無事で良かった」
この一言は、言わせてね。狡いかも知れないけど。
「あら。大袈裟なんだから」
私、もう子どもじゃないんですよ、と今度は少しむくれてみせる。
ころころ変わる表情が愛おしい。そういう表情をすると、小さな頃のあなたを思い出す。あんなにちっちゃかったあの子が、こんなに素敵な女性になって(いや、俺もそのときは子どもだったけど)。感動。
「りんごのパフェ、頼まなかったんですね?」
「ああ、うん。……パフェは、二人で食べたかったから」
同じものでも、違うものでも。
美味しいものを美味しいねと言い合いたくて。
俺の我儘に、彼女は、
「嬉しい」
大輪の花の如くにっこり笑った。
「では、ご一緒しましょう」
「どれ頼もうか?」
やっと、待ち望んだ二人の時間が始まる。
END.
ティータイムには遅く、食後の一杯には早い。
そんな時間だけど、この喫茶店の賑わいはまだまだ静まらない。
みんな、思い思いにスイーツとお喋りを楽しんでいる。
華やいだ空気だ。その中にあって、俺は少し浮かない気分。
「まだかな……」
時計を見て、ふとぼやく。
心の中で、と思って気付く。
やべぇ、いま俺、声に出してた。小声だったようで、周りの誰もこちらを見ていない。みんな、パフェやらケーキやらに超夢中。セーフ。
いや、セーフか?
三十路を過ぎたおじさんが、ちょっと切ないでしょ。独り言なんてさ。そうでもない? そう? ありがとう。
と、一人で勝手に自問自答する。
脳内でこんな会話を繰り広げとかないと、ちょっと落ち着かない。
ほらまた。
「…………」
無意識にスマホを覗いて、新着メッセが来てないかチェックなんかしちゃってる。
さっきもしたでしょうが。学べ、俺。
そんなね、一分かそこらで状況は変わったりしないのよ。
(でも)
気になるもんは気になる。
ね。わかる。うん、わかるよ。
今の俺は、絶賛待ち合わせ中。
仕事帰りのあの子を待っている。
俺は定時で上がれたけれど、あの子から「残業がある」とメッセが来た。
本当は迎えに行く予定だったところを「申し訳ないから」とこの店を待ち合わせ場所に再設定された。
(残業なら、仕方ない。あの辺、喫茶店とか無いしね)
ここが指定になるのはわかる。
わかるんだけど。
(迎えに行きたかったな~~~~)
というのが、俺の本音。
珈琲カップの取っ手を無意味にいじりながら、つい、悶々と考えに耽ってしまう。
……俺に迎えに来られたくないから、ここを待ち合わせにしたんじゃないか。
とか。
じゃあ何で迎えに来て欲しくないんだ? とか。
もしかして、誰かもっといい人が出来たんじゃ……とか。
邪推。
それ以外の何物でもない。
あー、やだやだ。余裕が無い年上彼氏なんて、何の魅力も無いんじゃないの?
未だにこんなことで後ろ向きに考えちゃうなんてさ。
おっかしいなあ。俺、三十路を超える頃には、もっと余裕のある大人になってる予定だったのに。嫉妬も、邪推もしない、寛容な人間に。
かっこわりぃ。
とりあえず、珈琲をひと口飲んで頭と心を落ち着かせる。
よし。
別のことを考えよう。
余裕のない大人でも、それを自分自身で解決出来れば問題無い。
この前のおでかけのこととか、思い出してみる。
……可愛かったな。
俺と繋いだ手を見てにこにこしてるから「また見てる」ってからかえば、「何度でも噛みしめたい倖せなんです」って笑ってくれた。
そう、「私、ずっと嘉助さんとこうして手を繋ぎたいって思っていたから。この感動を忘れたくなくて」という、いつもの言葉と共に。
嬉しいよな。自分と一緒に居ることを、心から倖せそうにしてくれる人が居るってのは。
……まあそのあと、赤信号に気付かず道路を渡ろうとして焦ったんだけど。
あの子には、そんなちょっと迂闊なところがある。
この前も、段差に注意って張り紙を見ながら転びかけていたし。
その前も……。
「あ」
思わず、声が出た。
今日、ここに来るまでの道で工事があった。工事現場を囲んで作られた迂回路は、狭い上に足元の凹凸が酷く、人とすれ違うだけでも難儀した。
(……大丈夫かな)
急いで走って、転んだりしないだろうか。
人とぶつかって、難癖を付けられたりしないか。
気が気でなくなり、やはり迎えに行こうと顔を上げたときだった。
「お待たせしました……!」
「おひいさん」
「すみません、スマホの充電が切れてしまって」
息を切らして走って来る彼女を見て、はあぁぁ、と我知らず大きな息が零れる。
「? どうされました?」
「いや」
心配した、と言うのは、何となく憚られた。心配の前には、邪推もあったわけで。
しかし彼女は小首を傾げると、ふふっと微笑んだ。
「心配をおかけしてごめんなさい」
どうやら、お見通しだったようだ。
「でも、……ちょっと嬉しい」
その笑顔の可愛らしさに、俺は「敵わないなあ」と苦笑する。
そんないいもんじゃないよ、おじさんの心配なんてさ。
ああだこうだ、おろおろするばっかりで、格好悪いもんだ。
それでも。
「……無事で良かった」
この一言は、言わせてね。狡いかも知れないけど。
「あら。大袈裟なんだから」
私、もう子どもじゃないんですよ、と今度は少しむくれてみせる。
ころころ変わる表情が愛おしい。そういう表情をすると、小さな頃のあなたを思い出す。あんなにちっちゃかったあの子が、こんなに素敵な女性になって(いや、俺もそのときは子どもだったけど)。感動。
「りんごのパフェ、頼まなかったんですね?」
「ああ、うん。……パフェは、二人で食べたかったから」
同じものでも、違うものでも。
美味しいものを美味しいねと言い合いたくて。
俺の我儘に、彼女は、
「嬉しい」
大輪の花の如くにっこり笑った。
「では、ご一緒しましょう」
「どれ頼もうか?」
やっと、待ち望んだ二人の時間が始まる。
END.
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
メリザンドの幸福
下菊みこと
恋愛
ドアマット系ヒロインが避難先で甘やかされるだけ。
メリザンドはとある公爵家に嫁入りする。そのメリザンドのあまりの様子に、悪女だとの噂を聞いて警戒していた使用人たちは大慌てでパン粥を作って食べさせる。なんか聞いてたのと違うと思っていたら、当主でありメリザンドの旦那である公爵から事の次第を聞いてちゃんと保護しないとと庇護欲剥き出しになる使用人たち。
メリザンドは公爵家で幸せになれるのか?
小説家になろう様でも投稿しています。
蛇足かもしれませんが追加シナリオ投稿しました。よろしければお付き合いください。
どうせ運命の番に出会う婚約者に捨てられる運命なら、最高に良い男に育ててから捨てられてやろうってお話
下菊みこと
恋愛
運命の番に出会って自分を捨てるだろう婚約者を、とびきりの良い男に育てて捨てられに行く気満々の悪役令嬢のお話。
御都合主義のハッピーエンド。
小説家になろう様でも投稿しています。
ゆるふわな可愛い系男子の旦那様は怒らせてはいけません
下菊みこと
恋愛
年下のゆるふわ可愛い系男子な旦那様と、そんな旦那様に愛されて心を癒した奥様のイチャイチャのお話。
旦那様はちょっとだけ裏表が激しいけど愛情は本物です。
ご都合主義の短いSSで、ちょっとだけざまぁもあるかも?
小説家になろう様でも投稿しています。
俺の婚約者は悪役令嬢を辞めたかもしれない
ちくわ食べます
恋愛
王子である俺の婚約者は、打算的で、冷徹で、計算高い女だった。彼女は俗に言う悪役令嬢だ。言っておくけど、べつに好きで婚約したわけじゃない。伯爵令嬢だった彼女は、いつの間にか俺の婚約者になっていたのだ。
正直言って、俺は彼女が怖い。彼女と婚約破棄できないか策を巡らせているくらいだ。なのに、突然彼女は豹変した。一体、彼女に何があったのか?
俺はこっそり彼女を観察することにした
悪役令嬢、隠しキャラとこっそり婚約する
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢が隠しキャラに愛されるだけ。
ドゥニーズは違和感を感じていた。やがてその違和感から前世の記憶を取り戻す。思い出してからはフリーダムに生きるようになったドゥニーズ。彼女はその後、ある男の子と婚約をして…。
小説家になろう様でも投稿しています。
記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛
三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。
「……ここは?」
か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。
顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。
私は一体、誰なのだろう?
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
老け顔ですが?何かあります?
宵森みなと
恋愛
可愛くなりたくて、似合わないフリフリの服も着てみた。
でも、鏡に映った自分を見て、そっと諦めた。
――私はきっと、“普通”じゃいられない。
5歳で10歳に見られ、結婚話は破談続き。
周囲からの心ない言葉に傷つきながらも、少女サラサは“自分の見た目に合う年齢で学園に入学する”という前代未聞の決意をする。
努力と覚悟の末、飛び級で入学したサラサが出会ったのは、年上の優しいクラスメートたちと、ちょっと不器用で真っ直ぐな“初めての気持ち”。
年齢差も、噂も、偏見も――ぜんぶ乗り越えて、この恋はきっと、本物になる。
これは、“老け顔”と笑われた少女が、ほんとうの恋と自分自身を見つけるまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる