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8クリスの婚約破棄?2
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「クリスティーナ様、私はアンネリーゼ・ユングリングと申します。こんなに身近で話すのは初めてですね。それにしても、噂通りの尊さ。感服しましてよ。私の友人が失礼を致しました」
「私の方こそ、アンネリーゼ様のご友人とはつい知らず、申し訳ございませんでした」
「気にしないで、クリス、それに私のことはアンネと呼び捨てして頂戴。友達になってくれないかしら? 友達なら当然よね?」
「で、殿下とご友人だなど、こ、光栄です。是非……」
私は汗ばんだ。てっきり、配下の令嬢達を睨んだ私への王女殿下の牽制。てっきり私はそう思ってしまった。
「だから、堅いのなしよ。アンネと呼んで、さっきの御令嬢方は気にしないで。彼女らが興味あるのは、王女という私の肩書きだけ。私はそんな方々の肩を持つようなことは致しません。それより、アンソフィさんと友人関係にあるとは、本当に噂通りの方なのですわね。できれば私もアンソフィさんの友人にして戴けないかしら?」
「!?」
驚いた。王女殿下が、平民に興味を持つなんて。
「ねえ、あなたアンソフィさんよね。私はクリス。ご存知かしら?」
「は、はい……ケーニスマルク家の……あの、お、お許しください……!」
「……許す? 何のことかしら?」
そうか、私はこの子を助けるために嘘を言ったけど、本人にとって、圧迫感しかなかったのかもしれない。それにきっとアンは私も彼女に嫉妬して嫌がらせしにきたと思っているのだろう。
「勝手に友人にしてごめんなさい。でも、心外よ。私はあなたに嫉妬して意地悪なんてしないわよ」
「あら、やっぱり、まだクリスもアンも友達じゃなかったのね」
ここはアンとアンネと友達になった方が良いな。アンにとっても私にとっても。
私は王家の嫁ぐ身、その王家の一員たる王女殿下の友人になることは好ましい。
それに、平民のアンの友達になることも彼女にとって有益だろう。
誰も王家に連なる者の友人を害する者などいないだろう。
アンの魔法の才は間違いなく、将来この国にとって有益だ。くだらない貴族の嫉妬で失うわけにはいかない逸材なのだ。
だから私はアンに微笑みかけながらこう言ったのだった。
「お願いがあるの。──私と、本当にお友達になってくれないかしら?」
「── 私も是非お願いしますわ」
「はい、お二人共、お友達になって下さい。わ、私、この学園に一人の友達もいなくて……」
こうして私達はアンと友人になった。そして、彼女の魅力にどんどん惹かれて行った。
アンは、普通にいい子だった。天真爛漫、気取ったところがまるでない彼女は貴族である私にはとても新鮮だった。そして、それはアンネも同様らしかった。
謙虚で、そのくせ生まれ持った魔法の才能に驕ることなどなく素直で純真。
容姿は愛らしく、その後多くの令息が彼女に魅入られることになった。
私とアンネはアンと友人として過ごせたことはとても幸せだった。そして、彼女への嫌がらせが加速することから守るためにも手を尽くした。
……なのに。
彼女が2年上の私の婚約者、第一王子カールに見初められるとは夢にも思っていなかった。 それは学園主催の舞踏会でのことだった。
その時、大広間に流れていた音楽が変わった。ダンスの時間が始まったのだ。みな最初は婚約者同士と踊るため、めいめい決められたパートナーと互いに手を取り中央に進み出ていく。
私も婚約者のカール殿下と踊ろうと、彼の方に目を向けた。しかし彼は私に手を差し出そうとはせず、歪んだ笑顔で私を睨んでいた。やがて彼は意を決したように口を開き、こう言った。
「クリスティーナ・ケーニスマルク。貴方との婚約を破棄する事とする」
「殿下、それは一体?」
「見苦しいぞクリス! 貴様は醜い嫉妬に駆られて、あのような悪事に手を染めるとはな!」
殿下の言っていることの意味が分からなかった。
「……なんのことでしょう?」
「とぼけるな! 魔法の天才アンソフィ嬢が虐めにあっていると聞いた! お前の仕業だろう!」
何故か殿下は、これまでの嫌がらせを全ての私のせいにしようとしてきたのだ。
「カ、カール様……クリスは……!」
「アンよ、お前は優しい。庇いたくなる気持ちも分かるが……だが、これがこの女の本性だ!」
アンは当然私の仕業ではないと知っている。それどころか、私達は親友。必死に私のために弁明してくれる。しかし、カール殿下の決めつけの大声にぴしゃりと止められて、驚いて、びくりと体を震わせて黙り込んでしまう。無理もない、平民の彼女にとって、彼は雲の上の存在。
会場には驚きの声があがった。私とアンは親友だ。それを知っている者は多く、間違いであることはみな知っていた。
だが。
「カール殿下がああ仰っているんんだ、きっと間違いであるはずがない」
「その通り。クリス様……やはり本性を隠しておられたんですね!」
そして、カールの言葉に微塵の疑いも持たない彼の取り巻き、この有力者の子弟たちが次々と同調してしまった。
この時、親友の王女アンネがいてくれたら。しかし、彼女は運悪く、舞踏会を休んでいた。
その舞踏会が終わってすぐ、王家から正式に婚約を破棄する旨の書状が届いた。それは一方的な通知だったが、格下である私たちには、それに異を唱える術はなかった。
そして私は、婚約者に捨てられた令嬢という不名誉な烙印を押されることになった。社交の場ではあの舞踏会でのことが面白おかしく語られ、私の噂はあっという間に広がっていった。
私のこれまでの努力はなんだったのか? それを想うと、悲しかった。
そして、私はその時、一人の男の子の名前と顔を思い出した。
……アル。
私は面白おかしく学園中に流布される噂に心を害し、学園を休学して、父の友人である、イエスタ叔父様の領地に静養に向かった。そして。
「ふっ! ははははは! 無駄ですよ、この私からは逃げられませんよ!」
殿下の腹心である、アルの兄、エリアスに追われ、命を奪われそうになった。
その時私の口から出た言葉は。
「……助けてよぉ! アル!」
「もちろんだが?」
その時……応えが、あった。
「私の方こそ、アンネリーゼ様のご友人とはつい知らず、申し訳ございませんでした」
「気にしないで、クリス、それに私のことはアンネと呼び捨てして頂戴。友達になってくれないかしら? 友達なら当然よね?」
「で、殿下とご友人だなど、こ、光栄です。是非……」
私は汗ばんだ。てっきり、配下の令嬢達を睨んだ私への王女殿下の牽制。てっきり私はそう思ってしまった。
「だから、堅いのなしよ。アンネと呼んで、さっきの御令嬢方は気にしないで。彼女らが興味あるのは、王女という私の肩書きだけ。私はそんな方々の肩を持つようなことは致しません。それより、アンソフィさんと友人関係にあるとは、本当に噂通りの方なのですわね。できれば私もアンソフィさんの友人にして戴けないかしら?」
「!?」
驚いた。王女殿下が、平民に興味を持つなんて。
「ねえ、あなたアンソフィさんよね。私はクリス。ご存知かしら?」
「は、はい……ケーニスマルク家の……あの、お、お許しください……!」
「……許す? 何のことかしら?」
そうか、私はこの子を助けるために嘘を言ったけど、本人にとって、圧迫感しかなかったのかもしれない。それにきっとアンは私も彼女に嫉妬して嫌がらせしにきたと思っているのだろう。
「勝手に友人にしてごめんなさい。でも、心外よ。私はあなたに嫉妬して意地悪なんてしないわよ」
「あら、やっぱり、まだクリスもアンも友達じゃなかったのね」
ここはアンとアンネと友達になった方が良いな。アンにとっても私にとっても。
私は王家の嫁ぐ身、その王家の一員たる王女殿下の友人になることは好ましい。
それに、平民のアンの友達になることも彼女にとって有益だろう。
誰も王家に連なる者の友人を害する者などいないだろう。
アンの魔法の才は間違いなく、将来この国にとって有益だ。くだらない貴族の嫉妬で失うわけにはいかない逸材なのだ。
だから私はアンに微笑みかけながらこう言ったのだった。
「お願いがあるの。──私と、本当にお友達になってくれないかしら?」
「── 私も是非お願いしますわ」
「はい、お二人共、お友達になって下さい。わ、私、この学園に一人の友達もいなくて……」
こうして私達はアンと友人になった。そして、彼女の魅力にどんどん惹かれて行った。
アンは、普通にいい子だった。天真爛漫、気取ったところがまるでない彼女は貴族である私にはとても新鮮だった。そして、それはアンネも同様らしかった。
謙虚で、そのくせ生まれ持った魔法の才能に驕ることなどなく素直で純真。
容姿は愛らしく、その後多くの令息が彼女に魅入られることになった。
私とアンネはアンと友人として過ごせたことはとても幸せだった。そして、彼女への嫌がらせが加速することから守るためにも手を尽くした。
……なのに。
彼女が2年上の私の婚約者、第一王子カールに見初められるとは夢にも思っていなかった。 それは学園主催の舞踏会でのことだった。
その時、大広間に流れていた音楽が変わった。ダンスの時間が始まったのだ。みな最初は婚約者同士と踊るため、めいめい決められたパートナーと互いに手を取り中央に進み出ていく。
私も婚約者のカール殿下と踊ろうと、彼の方に目を向けた。しかし彼は私に手を差し出そうとはせず、歪んだ笑顔で私を睨んでいた。やがて彼は意を決したように口を開き、こう言った。
「クリスティーナ・ケーニスマルク。貴方との婚約を破棄する事とする」
「殿下、それは一体?」
「見苦しいぞクリス! 貴様は醜い嫉妬に駆られて、あのような悪事に手を染めるとはな!」
殿下の言っていることの意味が分からなかった。
「……なんのことでしょう?」
「とぼけるな! 魔法の天才アンソフィ嬢が虐めにあっていると聞いた! お前の仕業だろう!」
何故か殿下は、これまでの嫌がらせを全ての私のせいにしようとしてきたのだ。
「カ、カール様……クリスは……!」
「アンよ、お前は優しい。庇いたくなる気持ちも分かるが……だが、これがこの女の本性だ!」
アンは当然私の仕業ではないと知っている。それどころか、私達は親友。必死に私のために弁明してくれる。しかし、カール殿下の決めつけの大声にぴしゃりと止められて、驚いて、びくりと体を震わせて黙り込んでしまう。無理もない、平民の彼女にとって、彼は雲の上の存在。
会場には驚きの声があがった。私とアンは親友だ。それを知っている者は多く、間違いであることはみな知っていた。
だが。
「カール殿下がああ仰っているんんだ、きっと間違いであるはずがない」
「その通り。クリス様……やはり本性を隠しておられたんですね!」
そして、カールの言葉に微塵の疑いも持たない彼の取り巻き、この有力者の子弟たちが次々と同調してしまった。
この時、親友の王女アンネがいてくれたら。しかし、彼女は運悪く、舞踏会を休んでいた。
その舞踏会が終わってすぐ、王家から正式に婚約を破棄する旨の書状が届いた。それは一方的な通知だったが、格下である私たちには、それに異を唱える術はなかった。
そして私は、婚約者に捨てられた令嬢という不名誉な烙印を押されることになった。社交の場ではあの舞踏会でのことが面白おかしく語られ、私の噂はあっという間に広がっていった。
私のこれまでの努力はなんだったのか? それを想うと、悲しかった。
そして、私はその時、一人の男の子の名前と顔を思い出した。
……アル。
私は面白おかしく学園中に流布される噂に心を害し、学園を休学して、父の友人である、イエスタ叔父様の領地に静養に向かった。そして。
「ふっ! ははははは! 無駄ですよ、この私からは逃げられませんよ!」
殿下の腹心である、アルの兄、エリアスに追われ、命を奪われそうになった。
その時私の口から出た言葉は。
「……助けてよぉ! アル!」
「もちろんだが?」
その時……応えが、あった。
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