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第27話 シュッツトガルト公の罪

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貴族アルベルティーナは事情を話してくれた。

「まずは私の正体を明かしておこう。私はこのハーンの街の領主エリックの娘だ。父のエリックは3年前から病に伏せっていてな。実質的な領主は私なのだ。だからこうやって偉そうにしておる」

全然偉そうじゃないけどね......

「そなたらも知っておると思うが、このハーンの街を始め、多くの街や村の税が大幅にあがった。全ては公爵、シュツットガルト公の差金だ。シュツットガルト公はこのところ、街と村を行き来する商隊の馬車が盗賊どもに幾度となく襲われている事を口実に税を上げておる。税を上げる表向きの理由は商隊を護衛する冒険者を雇うための費えと、商品が盗まれる事による価格の高騰を防ぐための対策に使われておるとされている。しかし、シュツットガルト公はほとんどの商人に護衛を雇ってなどはおらん。価格の上がった街の生活物資への対策も全く行っておらん。実際には上げた税がシュツットガルト公と、その悪知恵を授けた勇者エリアスの懐に収まっている様だ」

俺は突然エリアスの名前が出てきたことに驚いた。

まさかこんな形で関わるとは思っていなかった。

「しかし、我が街の冒険者諸君が強いお陰で、商人達もなんとか自衛出来ておる。そんな中、ある商人からとんでもない情報が寄せられた」

「どの様な情報なのですか?」

俺には他人事とは思えなかった。

実際、この街の物価こそあまり変ってはいないのだが、税が上がった分だけ生活にはかなりの支障が出ている。

この国の商品にかかる税は外税で、商品の価格に直接かけられる税なのだが、その外税が以前の2倍に上がっているのだ。

庶民の懐には大きな打撃のある税だ。

「商隊を襲っている盗賊の正体は、実はシュツットガルト公の配下ではないか? というものだ」

「な、そんな、まさか......」

「そのまさかだ。しかも、状況から考えれば非常に信憑性が高い話だ」

「それで、俺たちに何を依頼されるのですか?」

「商人の護衛。というより、商人を襲う盗賊を捕えて欲しい」

「しかし、この街の商人たちは冒険者達に守られていて安全だった筈ではございませんか?」

「この街の商人ではない、ここから馬車で1週間程行ったところにある街、ケルンの商人だ。ケルンの街は私の従兄弟が領主をしておるのだが、このハーンの街と違ってあまり栄えてはおらん。それで商人の財力も小さくて雇える冒険者の力も弱いために盗賊に対抗出来ておらんのだ」

「しかし、盗賊位でしたら、それ程強い冒険者は必要ないのでは?」

俺は率直な疑問を口にした。

そもそも盗賊は冒険者にすらなれないゴロツキだ。まともな冒険者に敵う筈がない。

「それが、どうもその正体が盗賊ではない様なのだ」

「では冒険者ですか?」

「冒険者であればまだいい。ひょっとしたらシュツットガルト公の私兵かもしれんのだ」

「つまり、ハイランクの冒険者でも危険だという事ですか?」

「その通りだ。敵にタレントを持つものがいる可能性すらあるのだ」

俺は思案した。盗賊退治を手伝ってあげたいのはやまやまだ。しかし、エリスを危険に晒すようなことはしたくない

困った俺はイェスタに意見を聞いてみた。

「イェスタ、どう思う」

「レオン殿、これは他人事ではない。それに私達の腕なら、討伐することにまず問題はない。いくらなんでも盗賊という体で、極端なハイランクのタレントを持つ者は投入しない筈だ。そんな事をすれば、かえって、事実が露見してしまうだろう」

「なるほど、確かに......」

ならば、ここはイェスタの意見を参考にして。

「アルベルティーナ様の申し出、しかと承りました。ハーンの街の盗賊討伐に、俺達も微力ながらお助け致しましょう」

「おお、そうか!やってくれるか!」

アルベルティーナはたいそう喜んだ。しかし、2つ、困った事を言い出した。

「そこでな、私のことも一緒にハーンに連れて行ってはくれまいか?」

「な、いけません! 戦いの場に貴族の貴方さまを連れて行くなど。万が一貴方さまにもしもの事があったらどうするのです!」

「レオン、それについては諦めてくれ」

アーネが言い出した。

「このお嬢様は一度言い出したら聞かないんだ」

どうも、御転婆の上、わがままらしい......

「そういう事だから、な、頼む!」

どういう事なんだ?

普通本人が言うかな?

「それともう一つあるのだが」

「まだあるんですか?」

「私もレオンの従者にしてくれないか?」

「はぁ?」

俺は驚いた。従者契約は虚数戦士のタレント付与。しかし、エリス以外に付与可能なものなのか?

「その、エリス以外に従者契約をした事がありません。2人目以降の契約が可能かどうかがわかりません。それに......」

俺はこの魔法の効力を発揮する為に必要な事を言った。

「従者契約には私と接吻する必要があります」

「ええええええええええええええ」

アルベルティーナはかなり驚いた様だ。
しかし、しばらく俺の近くに寄ると。

「うーん、厨二病感はすごいものがあるが......でもまあ顔の方は何とか我慢できるな」

すごく馬鹿にされている様に聞こえるのだが......

「わかった。私のファーストキスはそなたにやろう」

やめた方がいい。そう言いたかった。

それに簡単に人様のファーストキスを奪うのもどうかと思った。

「あの、ファーストキスは本当に好きな方とした方がいいですよ。ご自身を大事になされた方が......」

「私とキスをするのは嫌なのか?」

アルベルティーナは伏し目がちになって、それから俺のことを上目遣いに縋るように見つめてきた。

あざとい、女のあざとさが満載でとてもじゃないが断ることなんて......

「い、いや、嫌などという事はありませんよ。アルベルティーナ様はお綺麗です。嫌な筈などあろうことが」

「それでは問題は無いな」

しまった、と思った時には遅かった。

気がつくと決定事項にされてしまった様だ。俺は恐る恐るエリスの方を振り返った。

「エ、エリス。ご、ごめん」

「知りません!」

エリスは頬を膨らませてプイっとそっぽを向いた。仕草はとっても可愛いけど、すっごく怒っている。

俺たちは正式にお付き合いするしないの話はしていないけど、暗黙の了解で既に恋人同士と思っている。

エリスも多分そう思ってくれている筈。だから、彼女が怒るのは無理もなかった。

だが、更に追い討ちがかかるとは思わなかった......

「レオン殿、私も従者にしてくれないか?」

イェスタが言い出した。確かに、もしイェスタを従者とし、『虚数戦士』とできたら、とんでもない戦力アップだ。虚数戦士は元々のタレントと共存可能なのだ。

エリスはタレント『良妻賢母』持っているが、ステータスで見る限り、両方とも共存している。

「イェスタ、まじか? それって、俺とキスするっていう事だぞ。わかってるのか?」

「得られる力のことを考えれば、それ位は致し方の無いこと。それとも私とキスするのは嫌か?」

「嫌に決まってるだろうー!」

俺は思わず大声で怒鳴った

「奇遇だが、その点に関しては私も全く同感だ」

イェスタがしれっと言った。確かに戦力の向上だけを考えれば、大変良い判断なのだが......

こうして俺はアルベルティーナとイェスタを従者とするための契約魔法(キス)を行う破目になった。
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