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第26話 ある貴族からの依頼

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俺達のパーティはいつもの様に冒険者のギルドを訪れていた。

そこに待人がいた。アーネだ。

「レオン、いいところで会った。どうだ、俺達と一緒に働かないか?」

「ああ、約束だからな。それに、お前がいると色々教えてくれて助かる」

「よし、じゃ、早速リーダーのところに来てくれないか?」

「ここにいないのか? ギルドの討伐依頼じゃないのか?」

「今回は違うんだ、とある、やんごとなきお方からの直接のご依頼だ。ギルドからの依頼じゃない」

「誰からの依頼なんだ?」

「すまん。それは今は秘密だ。俺達のリーダーが追々説明してくれる筈だ」

「違法性はないのだろうな?」

「もちろんだ。むしろ正義の味方だぜ」

「なんか良くわからないが、お前を信じよう」

俺達はアーネに連れらて、貴族の屋敷と思しき処に着いた。

「ここは貴族の屋敷......」

「ああ、察しの通り、貴族様からの直接のご依頼だ」

☆☆☆

屋敷に通され俺は危機感を持った。

俺の「気配探知」のスキルに多数の反応がある。

そして「魔力探知」にも多数の反応。

この屋敷に異常に多くの人、それに魔力を持った人も多数いる。

尋常な話ではない。きな臭い匂いがした。

屋敷の主人の間に通された。

「その御仁がアーネの言っていた幼馴染か?」

「はい、アルベルティーナ様。私の故郷の友人です」

主人は若い女性だった。貴族らしく、貴賓と清楚な印象を持つ。

だが、貴族にトラウマを持つ俺は警戒した。

見た目だけでは判断できない。

美しい女性が鬼畜の所業をする。

残念だが、自身の体にその証拠が刻まれている。

「そなた、ずいぶん厨二感満載だが、どうせ雇われただけだろう? お前達パーティの正体は分かっている。勇者パーティの一人、『侍』アリシア、『ルーンナイト』イェスタ、私の命を狙って来たのだろう? うまく潜りこんだつもりの様だが、私を甘く見るな」

明らかに何か誤解されている。アーネは俺の事をどういう紹介をしたんだろうか?

「待ってください。俺の幼馴染は確かに勇者パーティの一員でしたが、今は抜けています。それにイェスタ様も」

アーネが慌てる。良かった、彼が裏切った訳ではない様だ。

「信じられるか。勇者パーティの言う事など!」

「待ってください。まず、誤解があります。ここにいるイェスタは確かにあの元勇者パーティのイェスタです。しかし、エリスはアリシアではございません。人違いです」

「そんな嘘が通じると思うのか?」

「本当に誤解です。私達は確かに元勇者パーティの一員でした。しかし、勇者パーティとは袂を分けております」

「ちょっと、待て、お前も勇者パーティの一員だっただと?」

「はい、私は勇者パーティの従者レオンです」

「レオンと言うとあの謎のクラス4のタレントを持ちながら開花せず、奴隷と出奔した。あのレオンか?」

「そのレオンです。しかし、私はエリスと出奔した訳ではありません。勇者エリアス、アリシア、ベアトリスにエリスと共に奴隷として売られました。そして死にそうになり、この様な風態になりました」

「お前があの荷物持ちのレオンだと言うのか......あ、いや、あいすまない。今の言葉は忘れてくれ。私の過ちだ。しかし、そなたはアリシアの幼馴染、ベアトリスの兄だろう。深い絆で結ばれた者がその様な事をするなど信じられない」

「残念ながら俺の幼馴染も妹もエリアスの女です。二人はエリアスの言われるがまま、俺を奴隷として売ったのだと思います」

「そ、そんな......」

貴族の主人はショックを受けている様だった。

いい人なのかもしれない、誤解は解けるかもしれない。俺はそう思い始めた。

「誰か勇者パーティの似顔絵を持って来い。アリシアとレオン殿のものだ」

貴族アルベルティーナは似顔絵で確認すると。謝罪した。

「すまなかった。私の間違いだ。危うく罪のない者を殺してしまうところだった。本当にすまない」

そこへイェスタが一言挟んだ。

「アルベルティーナ殿、命びろいをしたのはあなた方の方だ。我主様に刃を向けていたら、今頃あなたもこの屋敷中の者も命はなかったと思われます」

「騎士イェスタ殿、それは言い過ぎでは無いか? いくらクラス3のルーンナイトのあなたでも、この屋敷にはお前と同じクラス3のタレントを持つ者もいる、一人でどうにかできるものでは無いぞ」

「アルベルティーナ様、我主はクラス4のタレントお持ちだ。それに、エリス様もクラス4のタレントをお持ちだ」

「イェスタ、まさかレオン殿のクラス4のタレントは開花したと言うのか?」

「その通りです」

イェスタはどうもかなり怒った様だ。寡黙な彼にしては珍しい。

「で、レオン殿のタレントはなんだったのだ?」

「虚数魔法使い。我家が1000年待った。伝説の魔法使いです」

「なんだと、虚数魔法使い! 御伽噺の話では無いのか?」

「そういえば、レオンの魔法は見た事が無いものばかりでした」

アーネが思い出した様に話してくれた。

「では、今のレオン殿は伝説の虚数魔法使いなのか。命拾いしたのか、私は......」

「あの、すいません。さっきから不思議だったのですが、何故イェスタ様はレオンを主と言ってられるのですか? レオンは平民なので、貴族であるイェスタ様が何故レオンを主と何故呼ぶのか不思議で」

アーネが率直な疑問を述べた。

後でアーネとはよく話し合わないと、全く、アーネが中途半端な紹介をした為、この誤認が起こったのは明らかだ。

「レオン殿は虚数魔法使い、我家の初代は1000年前初代虚数魔法使い様にお仕えした。そして、家訓として、後世に虚数魔法使い様が現れたら再び仕える。それが我家の家訓なのだ」

「なるほど、そういう訳か......」

アーネは納得した様だ。

「もう一つ聞きたい、レオン殿が虚数魔法使いと言う事はわかった。だが、何故、エリス殿がクラス4のタレントを持っておられるのだ?」

アルベルティーナが聞いてきた。当然の質問かもしれない。

彼女は生まれながらのクラス4のタレント持ちでは無い。

「俺が彼女に『虚数戦士』のタレントを付与しました。いや、彼女が俺のタレント付与の魔法を使わせてくれた事で、俺は虚数魔法使いになれたのです」

俺は事の次第を説明した

俺のタレント『eiπ+ 1 = 0』は他者と自身にクラス4の『虚数魔法使い』と『虚数戦士』のタレントを付与するものだった。

この世界で、虚数魔法使いが1000年も現れなかったのは、おそらく俺のオリジナルのタレント『eiπ+ 1 = 0』だけでは何の意味もなく、虚数魔法使いのタレントを自身で付与して初めて真のタレントの発現となる為だったのだ。

今まで、虚数魔法使いの元のタレント『eiπ+ 1 = 0』を持つものはいた筈なのだ。

しかし、虚数魔法使いとなる事なく、人生を終えていたのだろう。

一通りの説明に満足したアルベルティーナはアーネを問い詰め始めた。

「アーネ、お前、説明が悪すぎ無い? あなたのおかげで私達命を落とすとこだったのよ」

「いや、アルベルティーナ様、私は強いパーティを紹介させて頂いただけです。そもそも、リーダーのレオンをはじめ、全員本名を名乗っております。アルベルティーナ様の命を狙うならそんな筈無いでしょう。それに、私はこんな話聞いてませんよ。まさかレオン達を疑っていたなんて......」

「あ、いや、そう言えば、全員本名だったんだな......」

「そうですよ。アルベルティーナ様がおっちょこちょいなだけです」

「い、いや、すまん」

俺は少し驚いた。この貴族は平民のアーネと気安く会話をし、あまつさえ、アーネに詫びてる。俺は王都で貴族にあった事があるが、皆、慇懃無礼で、とても気安さなど無い。まして平民に謝る貴族など会った事が無い。

「アーネ、言い過ぎだぞ。お前、いくらアルベルティーナ様だからと言っても言い過ぎだ」

「そうだーそうだー」

アーネのパーティのリーダーと思しき人がアーネに注意する

そしてアルベルティーナが彼を応援していた。

この貴族、本当に貴族なのかな?

「まあ、なんだ。誤解はあった様だが、強力な戦力を手に入れるという目的は達成できた訳だから、これでいいのではないかな?」

「あの、アルベルティーナ様、レオンは仲間になってくれるかまだ何も言っていませんよ」

アーネが更にアルベルティーナさんを煽る。

「ヒー、そうだった。すまない。レオン殿、我らの仲間になってくれないか? 先程の非礼は詫びる。だが、我らは志を同じくする同志で、決して悪人ではない、是非そなたらの力を貸して欲しい」

「まずは、事情を教えてください。仲間になるかどうかはその内容次第です」

俺はそう答えた。正直、この貴族は信用できるだろう。

だが、彼女の目的がなんなのかが不明だ。

何より、彼女はエリアスから命を狙われている。

場合によっては、関わりにならない方がいい場合がある。

こうして、俺たちは貴族アルベルティーナの事情と依頼内容を聞く事になった。
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