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第38話 剣豪アリスとの決闘

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「エリアス、いくらなんでも無茶じゃないの? ベネディクトは味方じゃなかったの?」

アリシアがエリアスに問いかける。

「アリシアお姉ちゃん、エリアス様に意見する気?」

代わりに答えたベアトリスは、この状況にも何の疑問も持っていない様だ。

「アリシア、俺に意見する気か?」

「そ、そういう訳じゃないけど」

エリアスの怒気を含んだ声に、アリシアが言いよどむ。

俺は我慢出来なくなった。

「エリアス。いくら勇者でも何の罪もない人間を殺していい訳がないだろう!」

俺は怒り狂っていた。シモンをベネディクトを。ベネディクトは自分の女ではなかったのか?

それをまるで虫けらの様に。

アリシアやベアトリスの反応もおかしい。

いつから勇者パーティはこんな屑の集まりになったんだ。

「なんだお前、ひょっとしてレオンか?」

「そうだ」

「それにイェスタか」

「その通りです。エリアス」

「イェスタ、貴様、俺を呼び捨てにするのか?」

エリアスは呼び捨てにされて腹を立てたようだ。

「私は今、勇者パーティに所属していません。あなたに敬称をつける理由がありません」

「舐めやがって」

エリアスはかつてのエリアスとは変わっていた。

以前は爽やかな好男子だったが、今はまるでならず者だ。

「レオンが生きてるとはな。なかなかしぶとい奴だ」

「生憎だったが、俺も簡単には死にたくないからな」

「ムカつく奴め。それにベアトリスに魔法を使ったらしいな」

「ああ、炎の魔法を使った」

「お前の正体はタレントクラス4の魔法使いってとこか?」

「まあ、そんなところだ」

「何だその女たちは? お前からアリシアとベアトリスを奪ってやったってのに、もう新しい女がいるのか? 本当にムカつく奴だな」

「下衆の勘ぐりだ。アルベルティーナはただの知り合いだ。エリスはお前も知ってるだろう」

「エリス?」

エリアスはしばらく考えると。

「奴隷のエリスか、驚いたな。まさかこんないい女だったとはな。お前はともかく、エリスが生きていたのはめでたい。二人にも仲間に入ってもらおうか」

俺はエリアスにアリシアとベアトリスを奪われたが、それでも二人のことは忘れてささやかな新しい生活を始めていた。

それなのに更に俺から何かを奪おうというのか?

このささやかな生活の中にはアーネやシモン、ベネディクトもいた。

その大切な三人を亡き者にされてしまった。

もうこれ以上、誰も失いたくない。

ここまで来た以上は、勇者パーティとの衝突は避けられそうもない。

「エリアス、一体この状況をどう説明する気だ? 俺達はお前が何の罪もないベネディクトを殺すところを見ているぞ」

「レオン、勘違いするな。この女は盗賊だ。そこのシモンとかいう男もな」

「そんな言い訳が通じるか? そもそもベアトリスがベネディクトを誘拐したんだろう」

「そんな証拠が何処にある?」

「俺達が証言する。俺達はこの街の領主とは顔馴染みだ。領主は俺達の言う事なら信じてくれる」

「困ったなぁー。じゃあ、残りの盗賊4人も始末するか」

「エリアス、お前、どれだけ腐ってるんだ!」

「まぁ、そうだな。お前とイェスタを一人で殺すのは俺にも少し厳しいかな。そうだ、アリス。お前、この奴隷と決闘しろ。勝てたら、今晩抱いてやるぞ」

「本当ですか? エリアス様、喜んで」

「レオン、この剣豪アリスに勝ったら、そうだな。そこに転がってる二人のゴミを持って帰ってもいい。負けたら、エリスともう一人の女を置いて帰れ。どうだ? 悪い条件じゃないだろう?」

「イェスタ、あの剣豪は?」

俺は見た事のない女性の剣豪アリスの事をイェスタに聞いた。

「おそらく私の後に入った剣豪でしょう。レベルはあまり高くない筈です」

「決闘の方が?」

「ええ、確率はいいと思います」

俺はイェスタと相談すると決めた。

「エリス、アルベルティーナ、すまん、今はこれが最善の策だ」

「わかりました、レオン様」

「わかった厨二、私の貞操かかってるから絶対負けるなよ。負けたら責任とってもらうからな」

どう責任とるんだ?

こんな時にまで、アルベルティーナは訳がわからん。

俺はエリアスにパーティの意思を伝えた。

「わかった。決闘を受けよう」

剣豪アリスはエリアスよりレベルが低い筈だ。エリアスと戦うよりは勝算が高い。

俺の虚数魔法使いの加護はおそらく剣豪を凌ぐ、俺の加護は魔力だけで無く、剣士系の加護、身体能力への加護も同等なのだ。

そんなクラス4のタレントは存在しない。唯一の例外は勇者だ。

勇者は身体能力にも魔力にもクラス4以上の加護を受ける。

そして、俺もそうなのだ。

「それじゃ、アリス、殺れ」

俺はショートソードを抜いた。

魔法使いと言っても1対1だと、剣があった方が無難だ。

「ゆくぞ!」

剣豪は叫ぶと加速を使い、急進した。

剣豪の剣を受ける。

速い! だが!

俺はイェスタから剣の手ほどきを受けていた。

イェスタはクラス4の虚数戦士とクラス3のルーンナイトの加護を受ける。

当然、剣速はただのクラス4の剣豪のスピードとは比べものにならないくらい速い。

剣豪の加速のスキルに対して、俺は普通に避ける。

直後、『ニノ太刀』が来た。これが噂に聞く侍最上級職の奥義か?

更に加速を使わず避ける。

そのまま。

『加速II』

俺は加速の上位スキル『加速II』を発動した。

俺は剣豪の周りに鮮烈な剣戟を放った。

剣豪の両腕が目の前に現れたところを躊躇わずに切り落とした。

剣豪は何が起きたのかわからない様だ。

身構えている様だ。

既に刀を持つ両腕を失った事に気づかず。

『ゴロン・ゴロン』

剣豪の両腕が地に落ちて、ようやく剣豪は気がついた様だ。

「ぎゃーーーーーーー」

剣豪は激しい悲鳴をあげた。

「ベアトリス、リザリクションをかけてやってくれ」

俺はベアトリスに頼んだ。

ベアトリスは復活の魔法、リザレクションが使える。

脳を極端に損傷しなければ、どんな状態でも生き返ると言われている。

剣豪の両腕を切り落としたのは、その安心感からだ。

女の子の両腕を切り落とす程の勇気は俺には無い。

「エリアス様どうします」

「かけてやれ」

「こんなヘマして、このままでいいんじゃないですか?」

「剣豪はまだレベルが低い。先の成長が見込める」

「分かりました」

俺は気分が悪くなった。自身の妹に嫌悪感を抱いた。

「エリアス、勝負ありでいいな? 剣豪は戦えない」

「そうだな。勝負はお前の勝ちだ。だが、気に入らないな。お前がそこまで強くなってるのなら、今のうちに始末しておくか」

「貴様、約束が違うだろう!」

俺は怒った。こいつはどこまで腐ってるんだ?

そこへ、アルベルティーナが口を挟んだ

「私達が今日帰らなければ、この街の領主が配下の兵を全軍引き連れてこの屋敷に乗り込むことになっておる」

「そんな事が信じられるか?」

エリアスが薄ら笑いで言った。

「私はハーンの領主の娘、アルベルティーナ。ケルンの領主とは幼馴染だ。もしも私の身に何かあったら、彼は死んでも助けに来てくれるだろう」

「ねえ、エリアス、本当かもしれないわ」

アリシアが助け舟を出した。

「それに、イェスタは元仲間じゃないの?」

エリアスは不機嫌そうに言った。

「お前はイェスタじゃなくて、自分が捨てた幼馴染の方が心配なんじゃないのか?」

「そ、そんな事。あんな役ただず......」

「どうだかな。そうだ。アリシア、久しぶりに犯らせろ。それなら、こいつらを見逃してやる」

「わかったわよ。好きにして」

エリアスはアリシアを抱き寄せると。

「よし、今日はたっぷりかわいがってやる」

皆の見ている前でアリシアの胸を乱暴に揉みしだき始めた。

俺はギリリと歯噛みした。

アリシアとベアトリスはもう俺には関係ない。そう思いたかったが、そんなに簡単には割り切れないようだ。

エリアスは俺の方を見ると冷酷な笑みを浮かべた。

「レオン殿、こらえて下さい」

イェスタが俺を宥める。

俺の気持ちを察したんだろう。

「ああ、わかっている」

あの時の惨めな気持ちが再び俺を襲った。
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