薬師なモブのはずですが、呪われ王子が離してくれません

東川 善通

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一章

まさかの連チャンでバレますた

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「リタ、これ食べるの?」
「うん? これは毒だから生では絶対に口にしないでね」

 ここ最近、神父様が集落の方に訪問中。そのため、開かれているとはいえ、教会にお邪魔することはできない。私がいつも使わせてもらってるの奥の書斎だしね。そして、ナチョも鍛錬はできるけれど、手合わせをすることができない。そういうわけで、私とナチョは一緒に畑を弄っていた。
 ちなみに私の専用畑は広がりすぎたのでメディシナ家の数ヵ所あるうちの一つがそのまま私専用のものになった。父曰く代々そんな感じで引き継がれているらしい。まさか六歳の娘に一つを明け渡す羽目になるとは思わなかったとは父の談である。まぁ、そうは言っても、父も十二歳くらいには既に一つは畑をもらってたらしい。なんでもメディシナの血筋は植物がよく育つ特性を持ってるとか持ってないとか。しかも、育った植物は効果が高いし旨いとあって隠れた名物であったりするみたい。道理で強い魔物とかもでないこの村に冒険者の人らが訪れるわけだ。そして、そういう血筋的なものプラスですんなりもらえたのは私の隣で同じ様に収穫してくれてるナチョがいるためだったりする。
 そんなナチョが収穫したものを手に眺めながら尋ねてきたので、素直に私は答えた。毒ということに驚き、なんでと首傾げるナチョに毒から薬を作るんだよと説明する。

「一見すると危ないけど、きちんと用法を守ったり、対策をしておけばそれほど危険はないよ」
「それも前世知識?」
「うーん、まぁ、そう、なのかな。向こうは魔法がない分、科学とか医療とか発達してたから」

 いざどうだったのかと聞かれたら私は答えることができないけど、うん、確かに豊かだった。でも、私はこの世界も好きだ。魔法があるから。

「薬草とかの知識はないよ」
「あるのかと思った」
「ないない、これは父さんとかからもらった本を読んで、勉強したからだよ」

 この世界のことも勉強した。知らないことばかりだからね。何か特殊なことができるかって言われても特にはないと思う。

「強いていうなら、魔法への考え方がちょっと違うのかもしれない」
「魔法への考え方?」
「うん、向こうじゃなかった分、憧れてたからね」

 ロマンだよ、ロマンという私にナチョはくすくすと笑う。そんな変なこと言ったかな。

「なんか、小さな女の子がそんなこと言ってるとチグハグで面白くて」
「失礼だな、もう」
「ごめんて」

 怒ってるぞとアピールするようにちっさな土の塊を指で飛ばせば、笑いながら謝るナチョ。それ、謝ってないでしょ!! まぁ、私もそれほど怒ってもないんだけどさ。
 そうやって、遊びながら収穫したり、雑草を抜いたりして畑の整備をする。小さい子二人で広い畑は普通大変すぎるし、集中力が持たずにできないんだろうけどね。ここにいるの一人は中身大人だから、無問題。というか、実際は魔法でブワーっとやって終わらせてるのでさほど体力を使っているわけではない。

「ほんと、リタって規格外だよね」
「いやいやいや、そんなことないと思うよ」

 ちょっと神様からのプレゼントが凄かっただけで、中身はこんなんだから。ナチョの顔に発狂してる人間だから。

「でね、さっきから撒いてる水がキラキラしてるのなんで??」
「……え、キラキラしてるの見えてる??」
「うん、すごくキラキラしてるよね」

 最初は光の反射かとも思ったけど、そうじゃないよねとナチョ。

『光魔法への適性が出たのであろう』

 なぜと首を傾げているとナチョの影からコウガの声。どういうことと目線を向ければ、コウガは教えてくれた。

「ナチョ、光魔法への適性が出たんじゃないかな」
「いや、僕、持ってないよ」
「後天性のものだよ。その、私が毎日呪いに耐性をつけるために聖水を飲ませてたから」

 コウガ曰く毎日私特製の聖水を飲ませていたためにナチョに光魔法が発現したとのことだった。むしろ、闇魔法が発現しなくてよかったなと言われたけど、それはどういうことだい?? 闇魔法が発現する可能性もあったということかい?? 頭の中を疑問が占めるけど、コウガのことは教えてないのでそのままコウガに詰め寄ることもできず、今度来た時に吐かせようと決意する。

「で、キラキラしてるのは光魔法、かな」
「……待って、毎日聖水飲んでたって、何?」
「私がそのナチョに運んでた水はもれなく光魔法を混ぜ込んだお水でした」

 てへっと言えば、なんてこったとばかりに片手で顔を覆うナチョ。いや、そんな悪いことはしてないよ。ただ、少しでもナチョから呪いを払い除けようと思いましてね。外からはやりにくいだろうから中からと思ってですねと心の中で色々と言い訳を積み重ねる。

「やっぱりリタは規格外だよ。普通は聖水を毎日飲んでても光魔法は発現しないから。てか、意識してみたらそこら中ピカピカしてるんだけど」
「対呪いのために試行錯誤してる結果、かな」

 ナチョ自身に耐性をつけるのは当然ながら、やっぱり周りの対策も必要だと思って、色々と光魔法を混ぜ込んだりした。だから、意識すると本当に光り輝いて見える。まぁ、一番はやっぱり光魔法を混ぜ込んだ水――つまりは聖水が一番効果があった。水は植物が養分とするから畑の植物はもちろん周りを囲む木々にも影響を及ぼしている。

「ちなみに聖水にも濃度というものがあってね」

 説明するように私は聖水を空中に弱いのから順に作り出す。

「待って、リタ、目が痛い」

 最後のは私も目が痛い。太陽を直視したかのような眩しさだもの。なので、それはすぐに畑に撒いて廃棄した。

「さっきのを含めて、今効果を研究中なんだよね」
「普通の聖水はこんなにキラキラしてないよね」
「うん、してない。あれはただ単に水の周りを光魔法で覆っただけだからね」

 空中に作った聖水の球をクルクル回しながら、私はナチョの質問に答える。光魔法で覆っているだけだから、すぐに光魔法のコーティングが剥がれて役に立たなくなる。けど、こうやって混ぜ込んだものは今のところずっと同じ効力を保ち続けると説明する。

「……どういうことですか、アデリタさん」
「ふにょあ!!!」
「あ、こら、待ちなさい!」

 急に後ろから低い声が聞こえて、私は飛び上がり駆け出した。いや、そのままいたらダメだと直感が告げたんだ。その後ろから、焦ったような声。 

土筍たけのこ
「は? ――ぐぅっ」

 ぽこりと小さな盛り上がった土。それに声の主である神父様は躓き、ベチャッと地面に倒れた。いや、マジで、ごめんなさい。

「なるほど、そういう手もあるのか」
「……殿下」

 うんうんと頷くナチョに神父様はジトリと睨む。けれど、ナチョはへらりと笑い、リタを追わなくていいのと告げる。いや、追わせないでよ。

「後で、殿下もお話しありますからね」
「まぁ、だろうね」

 そうして、起き上がった神父様は片足を引き摺りながら、私を追いかけてきた。

「にゃー!!!」
「この、すばしっこい、こら、待て」

 子供と大人の足ではそりゃ、ハンデがあっても追いつかれるわけで。でも、そこは子供。小さいからね、避け放題だよ。さっと避けては走って、逃げる。それにだんだんと神父様も苛立ちが湧き起こってきたのか口調が崩れてる。

「待たんか、このクソガキ」
「口悪っ」
「誰のせいだと」

 土筍たけのこを作りながら逃げ回る私に神父様の口調が壊れた。いや、むしろ、こっちが本性か。ナチョが化けの皮剥がれてるとか言って腹を抱えて笑ってる。

「穴ぼこ」

 あんまりよくはないけど、と神父様の足下に穴ぼこを作る。勿論、神父様はそれに足を取られ、転ぶ。今のうちだとある程度の所に逃げるけど、神父様は追いかけてくる様子がない。

「…………」

 蹲って動かない神父様。え、もしかして、足捻ったとか怪我負わせてしまった!!? いや、転けさせてる時点で擦り傷はできてるだろうけど。ナチョも神父様が動かなくなったのに不安そうな顔をしている。

「……えっと、神父様?」

 大丈夫? と尋ねようと近づいたら、ぐわしっと手を捕まえられた。

「捕まえたぞ」
「にゃー!! ヒキョーだ!! ずるいー!!!」
「散々逃げ回ってくれて、なにを言っているのやら」

 人の心配返せーと訴えるも神父様は聞いてはくれなかった。ひどい、騙しだ騙し。幼気な子供を騙すなんてとんでもない大人だ。

「さて、お話ししましょうか、アデリタさん」
「やー! 神父様、怖いー!! ナチョー!!」
「リタ、諦めよう。それにウリセスが怖いのは今更だよ」

 ぎゃあぎゃあ言いながらナチョに縋りついてみたけど、ナチョは諦めていた。そうですか、ダメですか、ダメなんですね。

「さて、何からお話しましょう」

 すんとなった私がそういえば、逆に神父様は驚いたようで目をパチクリとした。諦めはいい方なんですよ、これでも。散々逃げ回ってたくせにとか、そんなことは知りません。気のせいではありませんか???

「あ、アデリタさんですよね」
「そですね、アデリタ・メディシナとは私のことですね」

 困惑する神父様。それに笑うナチョ。すんと諦めモードな私。カオスだ。周りはキラキラ輝いてるけど、雰囲気がカオスだわ。

「ウリセス、リタは嘘つきなんだよ」
「はい? 嘘つきですか?」
「ちょっと、嘘つきじゃないよ。ちょっと都合が悪いことは黙ってるだけですぅ」
「アデリタさん、それはそれでタチが悪いです」

 にゃーと言って反論するも神父様は慣れてきたらしい普通に返された。ちょっと酷くない??

「それで、何がどういうことなのでしょう」

 わかるように教えてくださいという神父様。もうここまでなったなら腹括りますよ。でも、まぁ、一応、これだけはお伝えしておこう。

「両親や他の方には内密でお願いします」
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