薬師なモブのはずですが、呪われ王子が離してくれません

東川 善通

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一章

ぶっ放しもロマンといえばロマンだと思う。悪気はない、やりたかった

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「いい加減にしたらどうだ」
「何がだよ」

 私の目の前には私と同じように成長したビト。腰に両腕を当て、そういうけれど、私には理由がわからない。

「何がってわかってるだろ! あいつのことだよ。あのオウジサマだ」

 前まではナチョに突っかかっていたビトはここ最近、私が一人でいるところを見ると私の方に来るようになった。曰く、釣り合わないんだからとか、いずれは離れ離れになるんだからとナチョやウリセスさんが来るまで延々と語る。そんなこと言われなくても理解してるんだけど。

「ビト、それだけじゃ話にならないよ」

 いい加減にするって何をって話だ。それなのにビトは変わらず、同じことを言う。

「もう! いい加減にして! 同じことをうだうだと言われ続けて気が狂いそうだ」

 我慢の限界は私にだってある。そう叫べば、たじろぐビト。第一になぜビトにとやかく言われなければならないのかわからない。必要とあれば、両親が言ってくるし、ナチョにも注意が飛ぶだろう。

「リタ!」

 私を呼ぶビト。でも、私はそんなビトの声を無視して、家に部屋に逃げ込んだ。
 私のことをよく知りもしないくせに、ナチョのことだって知らないくせに何がいい加減にしてだよ。沸々と怒りが湧き上がる。ちらりと窓から外を伺えば、出てくる可能性を考えてるのかビトがいる。ちらりと教会を見れば、そこではナチョとウリセスさんが稽古をしている。私の声は届いてないようでホッとした。ただ、目下のビトはどうにかしたい。出れば絡まれるのは必至だろうな。面倒くさい。
 まぁ、ビトに気づかれず出ることなんて容易なんだけどね。だって、ビトがいるのは店の正面だ。裏口から出れば問題ない。
 そっと、ビトに気づかれないように外に出ると私の畑に向かう。まだムカムカする。

「あー、もう、思いっきり魔法をぶっ放したい!!」

 普通の魔法だと被害があるだろうし、なんだなんだとなるだろうからよくない。闇魔法は正直何ができるのかわかんないから、使えない。となれば、光魔法か。光魔法なら、攻撃魔法もあるけど、基本的には回復魔法とか補助魔法という印象が強い。つまり、回復魔法とかなら、思いっきりぶっ放しても問題ないんじゃない?

「範囲は別に固定しなくてもいいね」

 固定して制限かけたくないし。制限なしで思いっきりぶっ放したいもん。とりあえず、どうしたものか。回復魔法ならヒールやピュアがあるけれど、突然、回復するのもおかしいだろう。ともすれば、澱みも増えてるって話も聞いてたし、浄化あたりが妥当か。うん、浄化か、そうしよう。
 手を天上に翳す。魔力量は半分消費するくらいでいいだろう。全てを使うのが全力というものではないし。

「“浄化プリフィ”」

 呟いた瞬間。ゴウッと風がなり、光の粒子が円状に飛び散る。
 スッキリした。スッキリしたにはしたけど、ちょっとこれはどうなんだと首を傾げる。もしかしなくてもやりすぎたかなと思わなくもない。

「アデリタさん! 何をしたんですか!?」

 転がりながら走り込んできたウリセスさんは私が何かしたのだろうと疑う様子もなくそういった。断言だった。後ろではナチョが呆れ顔。私の我慢の限界をうっすらと感じ取ってたのかもしれない。

「……ナニモシテナイデスヨ」

 そう言って、顔をそらしてみる。勿論、効果はない。ガシッと掴まれた肩に嘘ですね、私の目を見て言ってくださいと怖い顔のウリセスさん。

「……浄化を少し」
「少しの浄化では飛んできたりしませんからね」

 軽い気持ちで浄化をやったので、少しであったるんだけど。まぁ、それを言えば、また何か言われるだろう。うん、学習してるとも。

「思うがままにぶっ放しました」
「そうですか、その分だと範囲は固定してなさそうですね」
「あい」
「まぁ、ウリセス、あれだよ優秀な人間がいれば、ここを見つけることができるだろう。でも、ひとまずは様子見でいいんじゃないかな」
「殿下、しかし」
「それに、イライラした時は魔法をぶっ放したいっていう気持ち、僕もわかるし」

 円状に広がったと言うことをたどり着き、その中心がどこかまで把握できる人間がそこまでいるかと言うナチョ。その答えに窮するウリセスさん。え、そんなに人材いないの? いてもらっても困るけど、いなかったらいなかったでそれはそれで心配だな。

「それに回復魔法じゃなくて浄化魔法だったわけだし、特に騒動になることはないんじゃないかな」
「それはそうですが」
「なんかあったら、誰かしらから話は聞けるよ」
「……わかりました。そういたしましょう」

 ナチョの目配せにウリセスさんは溜息を吐き、頷く。一応、これはお咎めなしということだね。うん、そういうことにしておこう。




 夜、ナチョはウリセスさんの所に出かけていった。一緒に寝れないのが寂しいとかはないよ。いや、ようやっと普通に戻りかけてるところだから! ナチョはぶすっと不服らしいんだけど。けれど、ウリセスさんにきつく言われたのか、たまに一緒に寝るくらいになってる。癒やしが足りないとかどうの言うようになったんだけど、もしかして私の影響を多大に受け過ぎでは??
 まぁ、そんなこともあって一人寝が多くなったわけだけど、おかげでコウガから冒険譚を聞く機会が増えた。そして、今日も呼び出している。

「呼んでおいてなんだけどナチョについてなくて大丈夫?」
『この村から出なければ問題なかろうて。それに一応はアレに影はつけておるからな!』

 どうだ、偉かろうという胸を張るコウガ。ほんと、可愛くてしょうがない。

「さすが、コウガ、ありがとう」
『俺様であるからな、当然である!』

 こうやってコウガと話している時、お蚕様とヒリンは邪魔をしたりしない。なぜなら特製のお蚕様ベッドで身を寄せ合ってにすよすよと眠っているから。コウガ曰く、そういう特性なのだとか。勿論、夜に起きてられないということではない。ただ、日中ひなかの方が制限なく動けるというだけ。それはコウガにも言えることで、コウガの場合は夜なら制限なく動き回れるらしい。逆に日中ひなかはどうしても動きが鈍くなってしまうのだとか。それでも、私の頼みもあってか動いてくれてるのだから、ホントいい子だよ。初めて会った時の傲慢さはない。いや、演技してたのかもしれないけど。

『して、今日はどこの話をしてやろうか』
「あー、ごめん、今日はそっちの話はいいや。そっちも勿論聞きたいんだけど、それとは別に聞きたいことがあるんだ」
『ほお、なんだ、いうてみよ』

 面白そうに細められる目。面白いと思うと同時に嬉しいんだろうなと思う。恐らくコウガは闇の精霊様なのだろう。本人からそうであると言われたわけでもないし、私自身確証があるわけでもないけれど、光の精霊様であるヒリンに似ている、ヒリンがすごく懐いてる、ヒリンとその前の光の精霊様についてよく知っているようだから。ただ、光の精霊様や四精霊とは違いコウガはきっと誰にも語られずにいたんだろう。だから、冒険譚を楽しそうに語るし、別ごとを聞かれても喜ぶ。

「前々から気にはなってたんだけど厄災魔物と魔獣って同一のものなの?」
『いや、異なる。魔獣は初めからこの世界に存在し、魔蟲にしろ魔鳥にしろ何かしらの形を持つものだ。厄災は降りかかる形を持たぬものだ。いや、形を得てもこの世のものではないものと言えば良いか』
「澱みが厄災魔物になる」
『どこでそれを知ったかは知らぬが、今の人間の中には知るものはおらぬであろうな』
「なるほど、だから定期的に聖者巡礼があったわけだ。教会の本の中にあったんだよ、聖者巡礼って話が。ウリセスさんみたいな神父様ではなくそれよりも上の人間が定期的に国中を行脚するって書いてはあったけど、行脚するだけでなく、浄化とかもかけてたのかもしれないな」

 いつからかそれはやらなくなった。上が無駄だと面倒だと判断を下したのかもしれない。ウリセスさんの感じからして、上はだいぶ腐ってるみたいだからね。それもそうかもしれない。そして、厄災は降りかかる・・・・・。文字通りなのだろう。ゲーム上でも突如として上から降ってくると言われてたし、王育成時のルートによってはあるバトルシーンの入りが上から液状のものが垂れてくるものだったみたいだし、それを表現していたのだろう。

『言っておくがこの村は大丈夫だぞ』
「聖域化してるから?」
『そうだ。オカイコサマは勿論だが、ここでは魔蟲を育成しているであろう。それらは澱みを浄化する性質を持っている。それにそうなる土台自体はあったのだ』

 聖域化するのも時間の問題であったというコウガ。土台というのは養蚕のことだろうか。まぁ、昔からやってたわけだし、出来ていた当然かもしれない。

『他になんぞあるか』
「うーん、そうだね――」

 教えるのが楽しいとばかりに次は次はと聞いてくるコウガに私は気になっていることを次々と挙げていった。その中にはお蚕様の生態に関するものや精霊のことなども多く含まれていた。
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